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専門コラム「指揮官の決断」

第221回 

第3波襲来?? トップとしての覚悟のない者の危機管理は・・・

カテゴリ:危機管理

冬に陽性判定者が増えるのは分かっていただろう

とうとう年末年始のGoToトラベルキャンペーンが中止に追い込まれました。日本医師会会長の無責任というよりも自らの責任を転嫁した発言に端を発した反GoToトラベルキャンペーンの結果です。

会長自身がエビデンスがないと言っているのに、政策として打ち出した政府までそれに引きずられるのもいかがなものかです。

もちろん政策はエビデンスがないことをやってはならないということではありません。

未知のウイルスに立ち向かうに際して、エビデンスがあることだけに対応しているようでは後手後手に回るでしょう。

専門家はエビデンスがないものについて断定的な発言は避けるべきですが、政治は違います。自信を持って判断するに必要な情報がないことを言い訳として意思決定をしないというのでは政治の責任を全うできません。だからこそ政治的判断という言葉があり、情報があろうとなかろうと的確な意思決定をしていかなければならないのが政治の責任です。安倍前首相が専門家会議に諮らずに小学校の休講を決めた際、蓮舫議員が「科学的根拠があるんですか?」と国会で詰め寄ったのは政治の責任というものを理解していない証左でしょう。

しかし、GoToトラベルに関しては感染拡大とは逆相関関係であるというエビデンスがあります。

7月下旬にこのキャンペーンが始まり、それと時を同じくして新規陽性判定者が減り始めました。シルバーウィークにおいては京都などは前年度よりも多い人出でしたが新規陽性判定者は増えませんでした。私は感染症については素人ですが、多分、この相関関係には因果関係は認められないでしょう。しかし、GoToトラベル事業と最近の陽性判定者の増加の間には相関関係すら認められないので、因果関係などは当然あるはずはありません。

この逆相関関係あるいは百歩譲って無相関はグラフを見れば明らかです。

コロナというウイルスは季節性の風邪のウイルスであり、冬になれば感染者が増えることは分かっていました。通常の風邪であれば11月ころから感染が拡大し始め、ピーク時には夏の10倍くらいの感染者数となります。

つまり、11月以降、新規陽性判定者が増えてきたのは当然のことであって、慌てふためくことではありません。

死亡者が3000人を超えたとテレビは騒いでいますが、昨年の1月には1か月で1600人以上の方が亡くなりました。COVID-19は末期癌であろうと脳溢血や心筋梗塞であろうとウイルスに感染していればCOVID-19の死亡者にカウントしますが、インフルエンザは医師がインフルエンザによる死亡と認定した死者のみがカウントされています。それでも昨年の1月は1600人以上の方がインフルエンザで亡くなっています。しかし誰も自粛などせず、社会は平成最後のお正月を祝っていたのです。

冬に風邪で亡くなる人が増えるのは当然ですし、今年はインフルエンザは患者自体がほとんど発生していません。

矛盾だらけ

12月21日、日本医師会など9団体が会見を開き「全国の医療提供体制は逼迫の一途だ。新型コロナだけではなく通常医療が後回しになることが起きてきた。日本の医療制度が風前のともしびだ。」として「医療緊急事態宣言」なるものを出しました。

冬になれば感染者が増加することが予見されていたにもかかわらず、それを迎え撃つ態勢を作らず、逆に感染者が減少してコロナ対策をした病棟の経費を問題にしていたのに、実際に感染者が増えると1億2000万人の先進国日本において700人の重症者で医療崩壊を訴えているのです。欧米では二けた違う患者数を扱っているにもかかわらずです。

感染症を担当する部門が大騒ぎになっているのは理解できます。しかし、感染症の専門家でなくても対応できる通常医療まで後回しにしなければならなくなっているというのは理解できません。

重症者用の病床の使用率が100%となった自治体はまだありません。しかし、そこに従事する医療関係者はとっくに不足していて、皆さん大変な思いをして治療に当たっているのも事実です。

その結果、通常医療体制も危うくなったというのが日本医師会長の言い分です。

しかし、この主張には大きな論理矛盾があり、聞き流すわけにはいきません。

まず、準備したのが物理的なベッドの数だけで、そこに人を配員していなかったということです。具体的に患者が減少していた8月以降、そこに看護師などを配員することは人件費などの観点からできなかったのでしょう。しかし、訓練や感染が拡大した場合の招集体制などは整備しておくことができたはずです。これを医師会はやっていなかったということです。

日本の医療機関はその大半が民間ですので、医師会がやらねばやるところがありません。

さらに、コロナ重症者の病棟には特別に訓練を受けた専門の従事者しか入れないから彼らの負担がすさまじいものになっていると医師会長は言います。これは理解できます。

しかし、人工呼吸器などの機器の取り扱いなどは別として、コロナ専用病棟に入って患者の身の回りの世話や掃除などをする通常の業務であれば、感染症専門の訓練を受けた従事者でなくとも、短期間の訓練でできるはずです。

私もかつて湾岸戦争の折、駐在していた米海軍の基地で炭そ菌攻撃を受けた場合に施設内に取り残された職員の救出のために防護服を着て活動する訓練を受けました。2日間の訓練でした。防護服の着かた・脱ぎ方(こちらの方が難しい。)、防護服が破損した際の対応要領などです。私は外国の連絡官でしたので必ずしもこの訓練を受ける必要はなかったのですが、湾岸戦争には日本は人的貢献をしておらず、同盟国の士官として肩身の狭い思いをしていたので率先してこの訓練を受け、さらには私の業務に関連しているシビリアンの職員に対するブリーフィングなども行いました。この時、生物学兵器への対応要領についてかなり勉強したのが、その後の勤務に役に立ちました。

ウイルスや毒ガスの充満している部屋に入るのは確かに気味が悪いでしょうが、入って通常の活動をするだけならそれほど大変な訓練を必要とするわけではないのです。実際に横浜港のクルーズ船への対応に自衛隊が出動を要請され、延べ2700人の隊員がクルーズ船の除染などに当たりましたが、数十名の生物学兵器や化学兵器の攻撃を受けた場合に対応する部隊の隊員以外は防護服など初めて着た隊員たちでした。しかし彼らは乗船前に訓練を受け、一人の感染者も出しませんでした。

日本医師会会長の発言が矛盾なのは、新型コロナウイルス専門病棟には専門の従事者しか入れないので、この人々の負担が凄まじいものになっていると言っていることです。そうであれば、新型コロナウイルスを専門に扱う従事者以外は手が空いているはずで、通常医療に支障が出るというのは矛盾です。この度大変な思いをされている医療従事者は全体の5%程度であり、その他の医療機関は感染を恐れて患者が来なくなって別の意味で大変な思いをしているのですから。

感染症専門でもない医療従事者までが専門病棟に動員されているのであれば通常医療に支障が出るでしょう。しかし日本医師会会長の説明はそうはなっていません。

トップの自覚のない者に危機管理はできない

医療緊急事態宣言というのもよく分かりません。この宣言は誰に向けて出されたのかが分からない上に、もし一般国民に向けられたものであるとしたら、私たちがこの宣言を受けて何をすればいいのかも分かりません。

病院はもう手いっぱいだから来るなということなのでしょうか。

もし、これが戦争で、統合幕僚長が敵が強すぎてもうダメですなどと記者会見で泣き言を言ったら国民はどう思うのでしょうか。テレビはどう報道するのでしょうか。

袋叩きになるでしょう。

これまでの防衛予算が少なすぎてろくな装備がなく、ミサイルや弾も不足していて継戦能力がありませんなどと口が裂けても統幕長は言わないはずです。

自衛隊には振り返っても誰もいないのです。だから自分たちが最後の砦だと覚悟しています。

日本医師会会長には自分がこの国の医療の最後の砦であるという意識は全くないようです。

だから自衛隊に災害派遣要請など出されても恬として恥ずることがなくいられるのでしょう。医療までいざとなれば自衛隊にやらせればいいという発想でいるというのは恐るべきことです。

しかし、私たちの社会はこのまともに数字も読めずグラフの意味も理解できない医師会の権力者の発言によって恐怖を煽られるのです。

白い巨塔のトップに上り詰めたということは政治的手腕は見事なものなのでしょう。責任転嫁に終始し恥ずることを知らなくとも就くことのできる地位であることが分かりました。しかし、トップとしての覚悟を持たない者に危機管理はできないということも同時に明らかになったということです。