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専門コラム「指揮官の決断」 

No.117 ミニボートがこうなるのは分かっていただろうが

海上保安庁の呟き

 海上保安庁がTwitterでとんでもないことを呟きました。
 曰く
 【ミニボートが風で帰れない】
  故障等で機関が使用できないミニボートでは、風が強いと船体が流され、オールを漕いでも思った方向への移動が困難になります。風が強い(風速4m/s以上)の場合、ミニボートでの航行は危険ですので、出航を止めましょう。

 写真がそのミニボートです。
 こうなることを海上保安庁は知っていたはずです。

ミニボートとは

 ミニボートとは長さ3m未満、エンジン出力2馬力以下のボートをいいますが、これに乗って海に出るのには免許が不要です。またこの船は安全検査すら受ける必要がありません。
 これは船舶職員法と船舶安全法を改正(私に言わせれば改悪)して免許と検査を不要としたからです。

 つまり、写真の船に乗っている人は海と船について何も知らないかもしれないし、そのエンジンはどう整備されているのかも全く分からないのです。

 かつて、これほど小さい船はオールまたは櫓で進むのが普通でした。コンパクトなエンジンが無かったからです。
 しかし、日本の驚異的な技術は、船舶用エンジンの恐るべき小型化を成し遂げ、2馬力という船外機を作ってしまったのです。

なぜ法律は改悪されたのか

 かつて昭和の終わりころ、空前のヨットブームに沸いた時期がありました。
 その頃、ヨットを買おうにも大型艇を係留するバースも小型艇を陸置きする場所もなく、それらの権利が投機の対象とすらなっていました。
 
 そしてバブルが崩壊し、30年近く経っても、以前として当時のようなヨットやモーターボートへの回帰は訪れず、どこのハーバーも閑古鳥が鳴いている状況が続いています。
 
 しかし、僅かに釣りはブームとなっており、船体や船外機のメーカーはこれに目を付けたのです。
 
 釣り人はヨットや大型のモータクルーザーのように高価でメンテナンスが大変な乗り物で外洋に出たいわけではない、車の上に積んで、好きなところで降ろして手軽に乗れれば、堤防や磯で釣るよりも釣果が期待できる、そのニーズを満たせばいい、ということに気が付いたのです。
 
 そこで問題となるのが船舶職員法と船舶安全法です。
 これらの法律のお陰で普及が妨げられる、なんとかせねば、ということで、この二法の改悪は業界の圧力によって行われたことはほぼ間違いありません。
 とうぜん議員立法などであるはずもなく、内閣提出の法案で、提出元は国交省です。海上保安庁がその作業に無縁だったはずはありません。
 国交省内部でどのような議論が行われたのかは承知しておりませんが、私は海上保安庁だけは最後までその法案提出に反対していたと信じたいところです。

何が問題なのだろうか

 
 始末が悪いのは、このボートにはエンジンが付いているので、平気で沖へ出てしまうことです。オールや櫓では到底こんな沖には出て来れないだろうというような場所で釣りをしているボートがいます。
 彼らは免許が不要ですので船乗りとしての常識を持っていなくても不思議はありません。
 二隻の船がそのまま進めば衝突してしまうという状態のときに、どちらの船がどう避けなければならないかをまったく知らないかもしれないのです。
 その時、もう一方の船の資格を持った船長はどう判断すればいいのでしょうか。
 相手のミニボートが海上衝突予防法の規定に従った動作をしてくれるのか、あるいはそうではないのか分からないと、対応のしようもないのです。

 また、そのエンジンがどのような状態なのかを乗っている本人すら知らないかもしれないのです。
 
 ミニボートの用途はほとんどが釣りです。釣りをする場合、ポイントに到着すると釣り人はエンジンを止めてしまいます。
 音や振動で魚が逃げるからです。
 これらの小型エンジンは当然ながらディーゼルエンジンではありません。
 ガソリンエンジンです。
 
 ガソリンエンジンはプラグに火花が飛ばなければピストンが動きません。
 整備不良のガソリンエンジンでは内部の湿気のためにプラグが湿ってしまうことがあります。また、何度も再起動させようとすると、そのたびにプラグに供給されるガソリンが気化せずに液体のままプラグを濡らしてしまうこともあります。
 つまり、海上ではガソリンの小型エンジンは一度停止させると再起動しないリスクがあるのです。
 しかし点検も受けず、乗っている人がその程度のことも知らないかもしれないということです。
 
 幼稚園児が三輪車で高速道路に出てきたようなものなのです。

どうすればいいのだろう

 私に言わせれば、このような極めて天候の急変に脆弱な船こそ、しっかりとした観天望気が出来なければならず、海をよく知らなければならないのです。
 
 ただ、現在の免許制度がいいのかというとそれにも疑問があります。
 現在の免許取得のための講習や実技程度で海に乗り出して大丈夫とは到底言えるレベルにならないことは明白だからです。
 したがって、免許を持っているから大丈夫ということにもならないのですが、しかし、二隻の船が衝突しそうになったらどう避けるべきかくらいは免許所持者は知っているはずなのです。
 
 全ての動力船の運航に免許が必要とすると、多くの人が海に親しむ機会が失われることも事実です。
 そこで、それらミニボートに乗る人には半日程度の講習の受講を義務付けるというのはいかがかと考えています。
 調理師の資格を持っていなくとも衛生管理者の講習を受講すればラーメン屋くらいは経営できるのと同じです。
 
 そして、安全検査を受けなくともいいかわりに、一番近い陸地から100m以上離れてはならないなどの制限を付ければいいのかとも思います。
 岸から近ければ安全かというとそうは言い切れないのですが、しかし、遠くに離れれば離れるほど危険性は高くなることは事実でしょう。
 

海を畏れるマインドを

 私は業界の圧力だろうが何だろうが海に親しむ人たちが増えることは大歓迎です。
 
 ただ、なにがあっても海で命を落とすということはあってはなりません。
 
 半日の講習でいいのです。海を恐れず、畏れよということを徹底的に指導すればいいのだと思っています。

 (写真:海上保安庁)