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専門コラム「指揮官の決断」 

No.116 プロトコールと危機管理の関係とは?

プロトコールと危機管理の関係は?

 当コラムではこれまで度々プロトコールの重要性について言及してきました。
 当コラムでプロトコールという場合、それは組織と組織の外部(ステークホルダーのみならず、組織の外部すべて)との関係を示しています。
 来社された方への接遇要領に始まり、広告の出し方、クレーム処理、報道への対応要領、社会貢献の姿などあらゆる面にわたります。 
 それは、組織が外部からどのように評価されるのかというブランディングの問題でもあります。
  
 それでは何故このプロトコールが危機管理にとって重要なのかを改めてご説明いたします。
 プロトコールが必要な理由は大きく2つあります。
 
 第一は、危機を回避するために役に立つということです。
 
 典型的には報道対応です。
 しっかりとした報道対応ができないと危機が一挙に加速します。
 日大のアメリカンフットボール部が危険なタックルで問題となった時、日大が行った記者会見を覚えておられる方も多いかと思いますが、会見に登場した監督及びコーチの話はともかく、その会見を仕切った日大の広報担当者のお粗末さにはびっくりしました。
 この采配がせっかく開いた記者会見において日大の印象を最悪のものにしたことは言うまでもありません。
 
 記者対応だけでなく、ホテルのフロントの対応なども一つ誤ると客からのクレームとなり、大きな問題を引き起こす恐れがあります。
 逆にこれがしっかりとしていると、小さな不祥事が問題とならなくなることもあります。

 第二は、プロトコールがしっかりとできるということが、危機に陥らない体質を作っていくということです。
 
 完璧なおもてなしのできる老舗の旅館の女将を思い浮かべてください。
 彼女は館内のあらゆる場所に気を配り、あるべきものをあるべきようにしていく執念を持っています。小さなゴミ、埃を見逃さず、額の傾き、生花の鮮度、従業員の服装、料理の盛り付けなど、およそ普通の人には気が付かない細部にまで注意を払い、それを本来あるべき姿にしていくことにかける労を惜しみません。
 そのような女将は、僅かな変化、あるいは変化の兆候を見逃すことがないのです。
 つまり、危機の兆候をみのがさず、それがまだ芽のうちに摘んでしまうことができます。
 
 このような危機に対する感性を持つことは非常に重要なことです。

 戦国の武将や野戦の名将には、戦場で吹く風の匂いが分かるといわれる人物がいます。
 彼はそのような危機に対する研ぎ澄まされた感性を持っており、わずかな変化を見逃さないのでしょう。

 つまり、プロトコールがしっかりとできるということは、それだけでもその組織が信頼に足る組織であると印象付けることができるのみならず、危機管理にとっても重要なことなのです。
 このために当コラムでは、プロトコールに対する関心を少しでも持って頂くために、度々話題に取り上げております。

ニュースからプロトコールを読み解く

 
 ところで、先般、秋篠宮殿下の大嘗祭の経費に関するご発言を巡る騒動に関し、英国王室と我が国の皇室の根本的な違いについて言及しました。(専門コラム「指揮官の決断」No.114 君臨すれども統治せず? https://aegis-cms.co.jp/1362 )

 この記事を読まれた方と話をしていた時に、そもそも英国王室と日本の皇室はどちらが格式が高いのだろうという話になりました。
 今回は危機管理そのものの話題ではありませんが、プロトコール全般に少しでも関心を持って頂くために、この件について考えてみたいと思います。

 よくemperor という称号は king よりも上だと解説する方がいらっしゃいます。
 しかし、外務省はそのような立場はとっておりません。
 またローマ法王と天皇が外交儀礼の世界では常にトップで遇されると説明される方もおられますが、これも前例を調べると誤りです。
 確かにローマ法王はカトリック国家の君主よりも上位におかれるのが普通ですが、しかしイスラム教国の国王などとの位置を見ると、その在位の長さで決められているようです。
 ローマ法王のみならず、国王の外交上の序列は、その在位の長さでつけられていくのが普通のようです。
 「普通のようです。」というあいまいな言い方をしているのには若干理由があります。
 
 かつて当コラムで「プロトコールがメッセージを送ることがある。」という記事を掲載したことがあります。(専門コラム「指揮官の決断」No.106 プロトコールがメッセージを送る https://aegis-cms.co.jp/1301 )

 これはロシア海軍300周年行事に参加するためにウラジオストクの軍港に終結した各国海軍の国旗が岸壁に掲揚され、通常は指揮官の先任順に右から掲揚されて行くのが慣例なのに、中国や韓国の指揮官より後任であった日本の国旗が最先任の中将を乗せてきた米国の旗の隣りに掲揚され、ロシア側に申し入れたにもかかわらずその順番が変わらなかったことについての記事です。
 つまり、慣例としては先任順や在位の長さの順であるにも関わらず、主催国の思惑により序列が変わることがあるということなのです。
 したがって、2000年の歴史を持つ皇室だからとか、神道という宗教上の指導者と王族の地位を兼ね備えているからなどという理由で日本の天皇が外交上の序列がトップであるという説明は誤りです。
 
 来年、現皇太子が天皇に即位されると、外交儀礼の場における序列は、共和制の大統領よりは高く遇されるものの、国王間では在位の長さによる位置に留まるかもしれません。
 プロトコールにメッセージが込められるとすれば、天皇の与えられる立ち位置によって、その国の日本の評価が分かるかもしれません。
 
 これに関し、私が注目したことがあります。

 エリザベス女王在位60周年の際に訪英された天皇・皇后両陛下に対し、晩餐会のレシービングラインに立っていたエリザベス女王が、各国の国王の握手を受ける際とは異なり、天皇に対しては自ら一歩踏み出して握手をしたことが話題になりました。
 
 英国女王が自分より在位期間の短い日本国天皇に対して自ら一歩踏み出したことは、king という地位よりも emperor という地位が評価されたのか、あるいは日本皇室の持つ2000年の歴史が評価されたのかはわかりません。
 私個人としては心臓病の手術を終えてすぐに訪英された天皇陛下への感謝の想いではなかったかと拝察しています。
 だとすれば、英国という国家としての意思表示というよりも、英国国王の地位にあるエリザベス女王の個人的な感覚なのですが、世界中にはこのような感覚を持つ王室は珍しくないそうです。
 
 私はこの時、握手よりも注目したものがありました。
 
 英国王室がサイトで公表した写真です。
 
 この即位60周年行事に関する写真を英国王室は3枚だけサイトに掲載されています。
 1枚はウィリアム王子の妻キャサリン妃とモナコのシャルレ―ヌ妃が談笑している写真、もう一枚はエリザベス女王がオランダのベアトリック女王と手を握っている写真、そして3枚目がエリザベス女王の従妹のアレクサンドラ王女と天皇皇后両陛下が談笑している写真です。
 
 アレクサンドラ王女は、戦後英国王室として初めて日本を訪問し、当時皇太子・皇太子妃であった両陛下と会っています。その旧交を温めている写真なのですが、それが3枚しか掲載されなかった写真の1枚に入っているということに驚いたのです。
 心臓病の手術直後に訪英されたことへの感謝が表れているのかもしれませんが、いずれにせよ英国王室の特別の配慮がうかがわれます。
 
 このようにして注意深く見ていくと、単なる写真からもいろいろな外交上の配慮などを見ていくことができます。
 そのようなことに気が付き、それを読み解いていく感性を養うことが重要です。 

プロトコールに関する感性を磨こう

 プロトコールは危機管理の中で重要な位置を占めています。
 しかし、それは教科書で学べるものでもなく、日常生活中での気付きを積み重ねていくことにより養われて行く能力です。

 航空機や船舶の運航に従事している者は、飛行中のコックピットや航海中のブリッジで、ただ珈琲を飲んで景色を楽しんでいるように見えることがありますが、実は、彼らの深層意識は僅かな変化の兆候を見逃さないように張り詰めています。
 それが何気なくできるようになるためにはそれなりの修練が必要です。

 一方で、日常生活を送る私たちにはそれらの修練を積むことはできないのかというとそうではありません。
 それはそのような着意を持つかどうかという点にかかっています。

 何気なく日常生活を送っているとそのような感性は身についていきません。
 
 危機管理における名言中の名言を最後に掲げて、今回を締めくくらせて頂きます。

    「ボーっと生きてんじゃねーよ!」
                      チコちゃん