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専門コラム「指揮官の決断」

第277回 

学ぶことのない人々

カテゴリ:危機管理

マンボウ再適用

1月19日、かねてから適用されていた沖縄、山口、広島の3県に加えて、1都12県にまん延防止等重点措置が適用されることになりました。

これまでの緊急事態宣言などの効果については当コラムでコメントをしてきたとおりであり、数字を見る頭があれば無意味であることが分かるはずですが、当コラムではこの件を扱うのにうんざりしていますので、もうコメントする気にもなりません。

しかし、ゴールデンプリンセス号の横浜入港からほぼ2年経つのに、何も学ばずに愚挙を繰り返すこの国の政府には呆れます。

新型コロナをどうしようというのか

御承知のとおり、この新型コロナは私たちの社会が経験する7つ目のコロナウイルスです。毎年私たちを襲う風邪のウイルスは4種類のコロナウイルスであり、それらが繰り返し繰り返し襲ってくるのが日本の冬です。

そこにSARSとMERSという極めて致死率の高い強毒のコロナウイルスが現れました。日本はそれらに襲われなかったので私たち日本人はピンとこないのですが、諸外国ではこれで大騒ぎをしていました。

そして7つ目がこの度の新型コロナウイルスですが、当初は中国発の武漢ウイルスと呼ばれましたが、変異を繰り返し、ついに現在ではオミクロン株と呼ばれるところまで変異してきました。

当コラムは危機管理の専門コラムであり、医学や感染症学は専門外ですが、しかし一般教養としても、天然痘やエボラ出血熱のように極端に致死率の高い感染症はゼロを目指すことが出来ますが、この度の新型コロナウイルスのような弱毒性のウイルスをゼロにすることはできません。強毒性の感染症はキャリアが死んでしまうため拡散しにくいのですが、弱毒性の感染症はキャリアが感染に気が付かずに移動するため拡散しやすいからです。

つまり、制圧できないので共生するしかないのですが、共生するためにはある一定の割合で社会が免疫を獲得しなければならず、その過程で多くの感染者が発生し、したがって重篤化する患者も発生すれば死に至る患者も発生してきます。

問題はその重篤化する患者数や死に至る患者数がいくつなら許容すべきかということなのですが、100人ならいいけど1000人はダメというような問題でもありません。

毎年、交通事故では3000人程度の死亡者が発生しますし、結核でも同じくらいの人々が亡くなっていきます。インフルエンザも同様なのですが、今回のコロナ死と同じカウント方法を取ると、インフルエンザの場合は毎年1万人以上が亡くなっている計算になります。

人一人の命の重さは本人は家族にとっては極めて重いのですが、社会全体から見るとただの数字になってしまいます。したがって軽々に議論できるようなものでもないのですが、しかし、社会全体が免疫を獲得するためにはどうしても必要な犠牲かもしれません。

これらの議論はどこかでしっかりと行う必要があるのですが、事態はそういうレベルではありません。しっかりとした議論など以前の常識を疑うような権力者たちの無能さによって事態がスパイラルに悪化しようとしています。

マンボウ適用の目的と医師会の実態

まん延防止等重点措置にしても緊急事態宣言にしても、その適用や発令の目的は医療崩壊を防ぐことにあります。コロナ専用病床の不足が原因です。

日本には160万の病床があり、人口1000人当たり13.0床であり、ドイツの8.0、フランスの5.9に比べて断トツで多いベッド数を誇りながら、コロナ対応病床は3万床しかなく、つまり全体の1.8%しかありません。医療従事者も全体の3%がコロナ最前線で死に物狂いの努力を続けているだけです。

2020年12月、日本医師会会長は医療緊急事態宣言を発表しました。

その宣言は次の三項目から構成されています。

一.私たちは、国や地方自治体に国民への啓発並びに医療現場の支援のための適切な施策を要請します。

一.私たちは、国民の生命と健康を守るため、地域の医療及び介護提供体制を何としても守り抜きます。

一.私たちは、国民の皆様に対し、引き続き徹底した感染防止対策をお願いします。

この時、中川会長は明確な根拠はないがとしつつ、GoToトラベル事業が感染の拡大に影響を与えたことは間違いないとして、同事業の中止と国民の一層の自粛を求めたのです。

この宣言が出されたのは年末でしたが、それから1か月もしないうちに中川会長は、医療はすでに壊滅状態にあるとして、国民に更なる自粛を求め、さらに感染が進むならトリアージをしなければならなくなると脅しをかけたのです。

これを聞いて筆者は呆れかえりました。かれは地域の医療及び介護提供体制を何としても守り抜くと宣言しているのに、この間、コロナ専用病床数は増えず、コロナ病床に従事する医療関係者の集中動員も行われず、ただ国民に自粛を求めるだけでした。

そして国民に自粛を求めながら、自らは圧力団体としてホテルにおいて与党議員の政治資金パーティを企画し、参加していたのです。これが発覚すると言い訳として、ホテルとは感染症対策について十分打ち合わせをしており、自分たちもワクチンを接種していると述べたのですが、彼が中止を求めたGoToトラベル事業に参加していた宿だって十分な感染対策をしていましたし、そもそも社会が医療関係者にワクチンの優先接種を許容したのは、彼らに政治資金パーティに参加させるためではありません。

しかも、自粛が進まなければトリアージをやるというのには呆れます。

例えば台風や暴風雪などで送電線が切れた場合、電力会社は停電について迷惑をかけて申し訳ない、全力を挙げて復旧させている最中なのでもう少し我慢して欲しいと謝罪します。

真夏の酷暑日には送電ができなくなる恐れがあるので、節電に協力して欲しいというお願いが出ます。また、飛び込み自殺で停車した電車では、人身事故のため運転を中止し、ご迷惑をおかけしていますというアナウンスが繰り返し流されます。

暑いけど我慢してクーラーを切らないと送電を止めるぞなどと言う電力会社社長を見たことがありませんし、みんなに迷惑をかけるから自殺するなら電車じゃなくて他の所に行ってくれなどというアナウンスは聞いたことがありません。

なぜ医師会だけがこのような高飛車なアナウンスを出せるのか理解に苦しみます。

学ぶことを知らない政治家

しかし問題は医師会長だけではありません。

この度のまん延防止等重点措置の要請にあたって、神奈川県の黒岩知事は、その適用によってオミクロン株を乗り切ることができるのかをテレビ番組で尋ねられて、呆れかえるような回答をしています。

彼はこう言ったのです。「効果は正直なところ分からない。分からないけど、これしか手段がない。我々が持つ武器はこれしかない。」

彼は「効果は分からない。」とはっきり言ったのです。

そのうえで、これしか手段がない、武器はこれだけ、と述べたのです。

効果があるのかどうか分からないというのであれば、それが武器になるのかどうかも分からないはずです。効果は分からないと言いながら、武器はこれだけというのは完全に論理破綻しています。

逆から見ると、この措置の適用は間違いなく飲食業関係者にダメージを与えます。そのダメージを踏まえても、適用によって社会が受ける利益が大きい場合には適用すべきでしょうし、そのための武器にもなるでしょう。

しかし、彼は効果が分からないと明言しています。つまり、飲食業関係者の受けるダメージよりも大きな効果をもたらすかどうかなど彼は知らないのです。にもかかわらず、それを武器として使うというのです。

何故か?

何もしなければ支持を失うからでしょう。

信じがたい無責任さですが、それが政治家です。

筆者が政治家をマムシ以上に嫌う理由がここにあります。

何故黒岩知事は効果が分からないのか

黒岩知事が「効果は分からない。」と発言したのは何故でしょうか。

それは効果がないからです。

この2年間にわたって何度も出されたこの措置や緊急事態宣言によってどのような効果があったのか、それを示す証拠はどこにもありません。

根拠を明確にした論文も筆者には探せませんでした。

陽性判定者数は緊急事態宣言とは無関係に減少してきましたし、むしろ緊急事態宣言により人流が減ることによって社会がコロナへの暴露から遠ざけられ、せっかくできつつあった免疫を失い、再び感染の拡大を呼び込んでいるのかもしれません。

黒岩知事のように、過去2年から何も学ばず、根拠に基づかない政策を取る政治家は珍しくありません。というよりも、政治家というものはそういうものです。

根拠ではなく世論の動向に迎合した政策しか取らないのが政治家の性です。

オミクロン株の感染力については世界中から報告が上がっており、重症化率もわが国ではデルタ株の10分の一以下であることが分かってきています。

いくら重篤化する率が低いと言っても、母数が増えるとそれなりに重篤化して死亡する人数も増えるので、恐ろしいことには変わりがないと警告する専門家は後を絶ちませんが、畳のヘリで躓いて転んで亡くなる高齢者だってゼロではありません。だから家中の床をフローリングやカーペット敷にせよということにはなりません。

毎年1月には餅をのどに詰めて亡くなるお年寄りもいます。だからと言って餅の製造販売を禁止せよということにはなりません。

その程度のことが分からない者は「専門家」ではなく、ただの「専門バカ」でしかありません。

もっとも一般に「専門バカ」というのは専門のことになると凄い知識経験を持つがその他のことは一切知らない人を指すので、この場合は「専門家もどきのバカ」と呼ぶのが正しいかもしれません。

最後に一句

「オミクロン、検査受けなきゃ、ただの風邪」