専門コラム「指揮官の決断」
第461回コロナ禍に学ぶ危機管理の発想法 その2
承前
専門的知識なしに、危機管理上の様々な論点について考える方法についての議論を展開します。
前回のコラムで紹介した、東京大学の研究者チームがGoToトラベル事業について言及した論文が誤報であることは、感染症の専門知識は不要ですが、統計的証明には相関関係と因果関係が必要だという統計学の入門的な知識がないと分からないかもしれません。
しかし、老舗旅館の女将が足袋と草履で、まだ地表に現れていない筍の芽を見つけた事例は、専門的知識を必要としません。
彼女にあったのは、老舗旅館の女将としての自覚だけでした。
何があっても、自分の宿において、最高級のもてなしをするという覚悟です。
彼女は、生け花の鮮度、額の曲がり、部屋の隅の埃、料理の盛りつけの不具合など、あらゆるものに目を配り、不具合を見逃しません。
あるべきものをあるべきように整えていく、それが老舗女将の覚悟です。彼女は、その覚悟を先代女将から「言葉」ではなく「行動」から学んだということでした。
彼女が地下の筍の芽を発見した時、筆者は現役の自衛官でした。危機管理の専門家であったはずです。
それが指摘されても分からない危機の芽を彼女が気付いたことに筆者は衝撃を受けました。
彼女は、そうやって「想定外」になりうる事態を避けていたのです。
(専門コラム「指揮官の決断」第460回 コロナ禍に学ぶ危機管理の発想法 その1
(https://aegis-cms.co.jp/3680 ))
そもそも、危機管理とは・・・
危機管理は「想定外の事態にいかに対応するかが問われるマネジメント」である、と当コラムでは何度もお伝えしてきましたが、老舗旅館の女将の行動は、その想定外を作らないものでした。
これこそ究極の危機管理かもしれません。
岸田元首相は自民党総裁選において、「危機管理の要諦は、最悪の事態を想定し、それに備えること」と述べました。
このコラムで何度も指摘してきましたが、これは危機管理ではありません。
想定して備えるのはリスクマネジメントだからです。
リスクマネジメントの典型は、皆さんが車を買う時に入る保険です。
事故を起こしたとき、相手に与える損害を見積もり、その賠償に必要な金額の保険に入ります。
最悪の事態が想定できるなら、それに備えればよく、事態が生起したら、その備えを淡々と実行すればいいだけなのです。
岸田元首相は、危機管理とリスクマネジメントの違いすら理解していなかった首相だということです。
政治家にとっての危機管理
政治家で、このように危機管理の要諦について述べるのは岸田だけではありません。ほとんどの政治家がそう言います。
これには政治家ならでの理由があります。
責任を回避したいからです。
「想定できる危機にはあらゆる準備をした、しかし、今度起きたのは想定外だった」と言いたいのです。
「想定外」という言葉が免罪符として使われます。
東日本大震災の当時、民主党政権は、口を開けばこの言葉を使いました。
想定外であろうと何であろうと、国を救うのが政治の役割なのですが、連中は「想定外」という言葉を免罪符として使っただけでなく、情報が入らないのにイライラして、水素爆発を起こした福島原発に首相自ら乗り込んで、現場の所長の対応作業の邪魔をしました。
想定外の事態が生じているときに、現場から情報が上がってこないのは当たり前です。淡々と情報が当たって来るなら、心配はありません。
戦場を想像してください。
敵の奇襲を受けて壊滅状態になっている時、状況を冷静に報告できるはずはありません。情報が上がってこないのは、全滅しているかもしれないのです。
それが分からぬ者に危機管理はできないので、そのような輩を指揮官にしてはなりません。
上級司令部は、何かが起きていることを察知し、そこから情報が上がってこなかったら、黙って増援を送るか、見棄てるかの判断をすればいいのです。
情報が上がってこなくて不安になるのは分かります。
その不安に耐える胆力が上級指揮官には求められます。
自分でヘリを飛ばして乗り込むなどは、いかに小物で、一国の総理を務める器でなかったかを物語ります。
台湾の李登輝元総統が、この首相の所作に激怒していましたが、李登輝氏は将たる者がいかなる覚悟を持つべきかをよくご存じだったのです。
菅直人という男は、所詮、小物の社会運動家でしかなかったのです。
財務大臣として、参議院予算委員会で、民主党の看板政策であった「子供手当」の乗数効果を訊かれ、財務省の官僚が何度も説明に行ったにもかかわらず、手当の限界消費性向しか答えられませんでした。民主党内で「霞が関はバカばかりですから」とスピーチした直後です。
子供手当の限界消費性向が0.75で、それを乗数効果だと考えるバカが財務大臣だったのです。投資の75%しか効果がないのなら、そのような投資はすべきではありません。
限界消費性向が分かっているなら、乗数効果は概ね近似値で暗算できます。
限界消費性向の等比級数の和ですからね。
彼は大学は理系だったはずですが、筆者や彼の世代は、等比級数の和は高校1年で習っているはずです。
彼は理系の大学教育を受け、原子力には詳しいと豪語して福島に乗り込んだのですが、高校1年の数学すら理解できず、乗数効果や消費性向という経済の基礎的概念もまったく理解できない財務大臣だったのです。
危機管理に関するデマを見抜くのに専門的知識はいらない
この例が示すように、高校1年の数学の知識で、一国の財務大臣の発言が出鱈目であることが理解できます。
何を主張したいかというと、大臣や専門家、メディアの出鱈目を見抜くのに専門的知識・経験は要らないということです。
ただ、今回のお粗末な財務大臣の例は、高校1年レベルの数学の知識が必要でした。
日常的に数学に降れている方以外は、「等比級数の和」と聞いて、そんな言葉を習ったこともあるよな、という思いでしょうか。
筆者にしても、共通一次の問題が発表されると、一応挑戦してはみますが、化学・生物はまったく歯が立たず、数学はかろうじて合格点で、英語くらいが何とかなるかな、程度の話です。慣れない方にとっては忘れ去ったものでしょう。
まして、この財務大臣の問題には、「乗数効果」や「消費性向」という日常会話にはあまり出てこない経済学の概念が出てきます。
これらは、ビジネスの現場にいる方には馴染みのある概念ですが、主婦の皆様や企業経営にタッチしていない方々にはあまり馴染みのない言葉だったかもしれません。
次回からは、それらの基礎知識なしに、コロナ禍において、専門家たちやメディアがいかにでたらめであったかを見破る方法について言及していきます。
それらの手法を身に付けて頂ければ、現在生じているイランへの攻撃による我が国への影響など、メディアを賑わせている話題にごまかされずに対応できるようになって頂けるかと考えています。
