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専門コラム「指揮官の決断」 

No.023 あの日が再び・・・・

 まもなく、あの日がやってきます。何十万人、ひょっとすると何百万人の運命を変えた大震災から6年が経ちました。ある日のある時間を境に激変してしまった多くの人々の人生があったことを忘れてはならないと思います
 しかし、それは過ぎ去った過去の出来事ではありません。また確実に近いうちに起こる出来事でもあるのです。

 東日本大震災の後、南海トラフに起因する地震、東京湾北部を震源とする地震、関東大震災と震源を同じくする南関東地震など地震に関する警鐘があちこちで鳴らされています。そして、熊本でも不意打ちのように大きな地震が発生しました。
 地震のみならず、富士山の噴火などを心配する専門家もいます。

 静岡県富士川の河口から高知県足摺岬に至る海域、つまり駿河湾から日向灘に横たわる南海トラフで10年以内にマグニチュード8以上の巨大地震が発生する確率が、今年1月に「20%程度」から「20~30%」に引き上げられました。50年以内の確率は実に90%です。

 この確率の持つ意味がわからないと漠然とした不安に駆られるだけになってしまいます。
 専門家に聞くとびっくりするくらい単純で、過去何年間に何回起きたかを調べ、年数で割って平均的な間隔を計算し、最後に起きた時からの年数に応じて次の地震の起きる確率を計算しているのだそうです。
 
 例えば、1000年に5回起きているとすれば、200年に1回その地震が起きるだろうと仮定し、前の地震から100年たっていれば次の地震が来る確率を50%と考えるのだそうです。
 つまり、一定の周期で繰り返している地震は、起きていない期間が長くなるとそれだけ発生確率が高くなっていきます。150年経てば75%になるということです。
 東日本大震災のようなプレート境界付近で起きる海溝型地震は、一定の周期で繰り返していますので、1年の違いで確率がだんだん大きくなっていきます。

 しかし、今後10年以内に南海トラフでマグニチュード8以上の地震が起きる確率が20~30%というのはどう解釈すべきでしょうか。
 ひとつの目安を提示します。
 「イチローがヒットを打つ確率とほぼ同じ。」というものです。

 テレビでイチローの試合を観るとき、私たちは彼が打席に立てば当然のようにヒットが出ることを予想して観ています。
だとすれば、今後10年以内にとんでもない大地震が起きることを当然のように予測して準備しなければならないはずです。
 イチローの登場の時は当然のようにヒットを打つものと思っているにもかかわらず、私たち自身が地震に襲われることを当然のように予期しないというのは、心理学上「オーストリッチ症候群」と呼ばれます。
 
 体の大きなダチョウは意外に気が小さく、怖いものがあると砂に頭を突っ込んで、大きなお尻が出ているにもかかわらず、怖いものを見ないようにするのだそうですが、嫌なこと、恐ろしいことはなるべく考えないようにして、それが我が身に起きないことを祈るだけなのです。
 ダチョウを笑うことのできる方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。

 さらにお伝えしなければならないのは、地震が起きる確率そのものは実は100%だとということです。
 フィリピン海プレートと呼ばれるプレートが南海トラフから西日本の地殻の下に潜り込んでおり、その速度は年間5センチメートルと言われています。100年の間には5メートルも沈み込んでいることになり、それが今現在も続いているのです。これを元に戻そうという応力が発生し、その応力が境界面の摩擦力を超えると境界面が一挙にズレてしまい、跳ね上がることにより、その応力が周辺の境界面に伝わり、次々に境界面がずれ動いていきます。東日本大震災ではそのずれ動いた距離が500キロにもなりました。ドミノ式に震源が拡大していくのです。
 
 つまり、プレートが境界面の下に潜り込む動きを続けている限り、その応力が限界を超えてズレてしまい、巨大地震になるのは時間の問題であり、その時は必ず来るのです。
ただ、いつ、いかなる規模で来るかだけが問題なのです。

 そして、さらにもう一つお伝えしなければならないことがあります。
 南海トラフに起因する地震は、陸地と震源域の距離が東日本大震災よりも近いということです。
 これが何を意味するか。
 
 東日本大震災の被害はほとんど津波によるものでした。しかし、南海トラフに起因する地震では、震源との距離が近いことによる揺れの強さも問題になるでしょう。津波対策にばかり目を奪われていると大変なことになります。
 
 また、その津波も、震源域が近いことから第1波の到達が極めて速く、最悪3分程度で津波に襲われる地域があります。
 駿河湾から日向灘に至る南海トラフがドミノ式に一挙にズレる場合、ずれ初めからずれ終わるまで5分以上かかるとされています。ということは、揺れが続いている間に津波が到達するわけであり、強烈な揺れで身動きが取れない間に津波に襲われるということになりかねません。
 
 駿河湾以外の地域、例えば相模湾でも紀伊半島でも地震発生から20分から30分で津波が到達するので、時間的猶予があまりありません。
 東日本大震災では第1波が到達した後、自宅に様子を見に帰って第2波に巻き込まれた方が多数いましたが、南海トラフに起因する地震では、揺れで身動きが取れないまま津波にのまれる犠牲者が多数出ることが予想されます。

 南海トラフに起因する地震は間違いなく起こるのですが、始末が悪いのは、同じく南関東地震も東京湾北部地震も時間の問題だということです。
 これらを避けることはできません。必ず、間違いなく起きるのです。
 
 しかし、立ちすくんだり、あきらめたりする必要はありません。しっかりと対応すればいいだけのことです。
 見て見ぬふりをして津波に巻き込まれてしまうのと、この脅威を見据え、しっかりとした対策を立て、万一対策を超える想定外の事態が生じても毅然と対応できる覚悟を固めておき、大打撃を受けた社会の復興の先駆けとなるのとでは天と地の違いがあります。
 
 私たちは東日本大震災から様々な教訓を得たはずです。しかし、十分な準備を始めているのでしょうか。喉元を過ぎて熱さを忘れてはいないでしょうか。
 過去の経験から何も学ばなかった愚かな世代と後世に言われないよう、しっかりと対応する必要があります。
 この専門コラムでも弊社のウェブサイトでも繰り返し申し上げているように、そのために膨大な経費や人材が必要なわけではありません。
 指揮官の皆様のクライシスマネジメントに取り組む決断と覚悟があれば、あとはちょっとした工夫と発想の転換があればできることなのです。