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専門コラム「指揮官の決断」

第64回 

専門コラム「指揮官の決断」 No.064 EEZって何? その4 接続水域

カテゴリ:コラム

 今回の話題は海洋の区分に関して、これまで触れてこなかった接続水域についてです。
 実は、この接続水域に関する報道等が最も誤解を招きやすいので要注意なのです。
 
 新聞の報道がいい加減だと申し上げているわけではありません。
 主要各紙を注意深く読むと、適宜にこの「接続水域」について解説がなされており、それは極めて的確に解説されています。
 しかし、新聞報道は限られた紙面で行われますので、読む方がしっかりと理解していないと、紙面を誤解してしまう恐れがあります。
 その紙面を誤解した評論家たちがテレビでコメントをすると、とんでもない出鱈目なコメントとなり、それを観ている方々が誤解されてしまうことになるのです。
 
 例えば、新聞で尖閣諸島周辺の領海に入り込んだ中国公船に対し海上保安庁の巡視船が領海と接続水域からの退去を求めた、という記事が載ることがあります。
 この記述からは接続水域からの退去要請が国際法上の権利のような印象を与えかねません。新聞はそう言っているわけではないのですが、読む方がしっかりと読まないと誤ってしまうのです。その結果、誤解した「小遣い稼ぎのコメンテーター」の言に騙されてしまうのです。

 接続水域とは、領海の外側12海里の水域のことだと理解して頂いて概ね間違いありません。条約では沿岸から24海里を超えて設定できないと規定されており、領海が12海里ですので、その外側12海里を接続水域とするのが普通であり、わざわざ狭くする必要がないからです。
 
 ところが、その接続水域に関する沿岸国の権限については、実は当コラムでたびたび取り上げている「国連海洋法条約」においても明確ではありません。
 接続水域は領海ではないので、沿岸国の排他的な主権が及ぶわけではありません。
 
 条約では、通関・財政・出入国管理・衛生上の法令の違反を防止すること、それらの法令違反を処罰することができると規定されるにとどまっています。
 これらの問題は、国内に入ってから対処することが難しかったり、未然に防ぐことが必要であることが多い問題であるために入ってくる船に対して防止策を講じることが認められており、さらにはすでに行われた法令違反を処罰することが認められているのですが、しかし、入ってくる船が、すでに国内法違反の行為を行っているということは想定しにくく、違反を防止する具体的な方策については問題があります。

 これらの権限を考えるためには、海洋法の歴史的経緯に関する理解が必要になります。
 国際公法に興味のある方にとってはとても面白い内容なのですが、当コラムの対象ではありませんので、ここでは深入りはしないことにします。
 国際公法は慣習法によるところが極めて大きく、歴史的な理解が不可欠です。
 国際法にはこのような問題を解決するために条約を解釈するための条約が結ばれており、「条約法に関するウィーン条約」と呼ばれる条約が、様々な条約法の解釈の基準を提供しています。その中で「条約の適用につき後に生じた慣行」が条約を解釈する手掛かりになり得ると規定しているくらいですので、歴史的な理解が必要なのです。

 いずれにせよ、接続水域においては、出入国関連法令に違反するおそれのある船舶などを予防的に取り締まることが出来ます。
 ただし、この取り締まりの方法等については沿岸国によって解釈が異なります。国によっては武器を使用して強制力を発揮する国もありますが、我が国は極めて抑制的な取り締まりを行っています。
 
 このことから我が国の外交が弱腰であると指摘する評論家もいますが、国連海洋法条約において強制力がどこまであるのかが具体的に規定されておらず、慣習法上の解釈も国によって異なる現状において、我が国が主張している法の支配の観点からは評価すべき対応と考えられます。

 かなり面倒な物言いをしてきておりますが、要は、接続水域においては怪しい船に対して警告を発することはできるのですが、領海においてさえ一般船舶の航海の自由は認められており、軍艦の無害航行すら認められているのですから、強制的に退去などを要求することが当然にできるということにはならないのです。
 
 海上保安庁の巡視船が尖閣諸島周辺海域で行っているのは、その極めて抑制的な権限行使の中で、領海内における違法行為は許容しない旨を相手に伝え、そのままでは強権を発動しなければならなくなるという意思を相手に示して退去を求めているというのが実情です。
 
 なぜ海上保安庁がそのように抑制的な態度を取っているのかは回を改めて説明しますが、我が国の接続水域に関する態度についてはしっかりとご理解頂きたいと思います。
 
 「小遣い稼ぎのコメンテーター」に振り回されてはなりません。