専門コラム「指揮官の決断」
第425回イージスのアゴニー

ご無沙汰いたしました
当コラム読者の皆様、いつもお読みいただきありがとうございます。
当コラムは、ほぼ1週間ごとにアップし、通算で400通を超えるコラムを掲載してまいりましたが、今年になって掲載が中断されていることが多くなってきました。
ここ数年、あるプロジェクトに取り組んで身動きができない状態に陥っていたこともありますが、より大きな要因は、専門コラムというコラムの性格からくる問題であり、そもそも、どのような話題にどう取り組むかという根本問題にぶち当たったことにあります。
現状における最大の危機
現在の日本が直面している最大の危機は、弊社の見解ですが、現政権の存在です。
マクロ経済を全く理解していない政治家は珍しくないので驚きませんが、この政権の出鱈目さは他に類を見ません。
満足に三食を家で食べることのできない子供のために、こども食堂を経営して、必死になって資金集めをしている人たちが大勢いるこの国で、インドネシアの小学生の給食を無料化する約束をしてきたり、互恵主義が原則の国際関係で、中国の富豪に対してVISAを不要としたり、65歳以上の中国人に対して健康保険の適用を認めたりするという常軌を逸した政権です。
加えて、昭和の時代ならいざ知らず、令和の今年になって新人議員に10万円の商品券を配るという信じられない感覚をもった男が天下を仕切っているのです。
こいつの存在そのものが、ノストラダムスの地獄の大王に勝るとも劣らない危機の元凶なのですが、危機管理の専門コラムでこの問題を取り上げるのに躊躇しています。
そもそも所属政党が腐りきっているので、きれいな花が咲くはずはないのですが、その話を始めると天に唾することになってしまいます。
その腐りきった政権与党を選んでいるのは国民だからです。
民主的な選挙が行われている国では、国民のレベル以上の政権は誕生しません。政治がダメなのは、国民がダメだからです。
事業仕分けの残したもの
この国が取り返しのつかない下り坂を転がり落ち始めたのは、1998年の政権交代からです。
あの時、当時の政権であった自民党がダメなので、お灸を添えてやろうとして政権交代の票を入れた人が多かったかと思います。
そのちょっとお灸をするつもりの一票が取り返しのつかない事態を招いていることを当時そのつもりで投票行動を行った人たちは反省すべきです。
箱から人へという美しい言葉に飾られた事業仕分けという政治ショーで、公共事業が大打撃を受け、中止された群馬県の八ッ場ダムはその後工事が再開されて大災害を免れていますが、中止しただけで県知事が何の手も打たなかった熊本県では大災害を招きました。
マクロ経済音痴の緊縮財政
また、公共事業は小さいほうがいいという観念が政治家にしみわたり、積極的な財政支出が見送られ、小さな政府を追及したため、G7で唯一、過去10年のGDPがマイナス成長の国になりました。
筆者に言わせれば、まともにマクロ経済を学んだなら、あるゼネコンに穴を掘らせ、別のゼネコンにその穴を埋めさせる発注をするだけで、経済は潤うということです。財政支出には乗数効果が伴いますし、その効果がいつ現れるかも、貨幣の流通速度k(スモールケイ)である程度計算もできます。
財源は国債で賄うことができます。池上彰氏のように国債は子供や孫の世代への借金を残すことになるという戯けた議論をする素人もいますが、おじいちゃんが買った国債のお陰で孫が税金を取られるなどという話は聞いたことがありません。
そもそも国債の償還は、税収から行われるのではないからです。どこの国でも、新たに国債を発行して、そのお金で償還するのが普通です。つまり、借り換えをしているだけなんです。
したがって、子供や孫は税金を負担して国債の償還を行う必要はなく、公共投資の恩恵を享受することが出来ます。
1960年代、日本は公共投資によっていろいろな事業を行ってきました。
新幹線が開通し、東名高速道路が東海道の主要都市を結び、首都高速道路により東京の交通が便利になりました。
私たちはその恩恵を受けて生きてきました。
その公共投資のお陰で日本経済は潤い、GDPは世界二位に成長しました。
しかし、事業仕分け以後の世代にはそのような恩恵はいきわたらないし、GDP順位は下がり続けています。
防衛予算の増額や教育費の無償化の議論が出るたびに政府は財源の話をして増税の機運を作ろうとしますが、何のために政府が札を刷る権限と施設を持っているのかを理解していないようです。日本維新の会顧問である藤巻健史氏はここ10年間、このまま放漫財政を続けると日本は経済破綻するとか、ハイパーインフレになって円は紙くずになるとして本を出版し続けていますが、どうすれば経済破綻するのか、どうすればハイパーインフレになるのかの理屈は説明されていません。彼はマクロ経済を理解していないので、説明できないのでしょう。
たしかに、江戸時代に幕府の財政が厳しく、金の含有量を減らしてインフレで大騒ぎになったことがありますが、あれは兌換紙幣どころか、金を含む小判そのものの時代だったからであり、管理通貨制度を取っている現代とは経済の理屈が根本的に違っています。
このまま国債の発行を続けると日銀が破綻すると藤巻氏は主張しますが、制度的に日銀がどうすれば破綻するのかを説明して欲しいと思います。
彼は外資系企業の日本代表を務めていたことがあるとのことですが、ものの言い方が激しいので、論戦になると声が大きく、相手が黙らざるを得なくなります。しかし、企業の社長が一般に理解しているのはミクロ経済であり、彼はマクロ経済に関しては素人であることは、その発言の節々や著書から分かります。
ところが、藤巻氏だけではなく、この国の政治家のほとんどがマクロ経済の基本の「基」が分かっていません。
林官房長官の朝食勉強会に行ったことがあります。昨年夏の日銀が利上げを発表するという日の朝です。官房長官は「プライマリーバランスは黒になりそうで喜ばしい。ただ、日銀の利上げによって、歳出の国債利払いが増えるのは要注意だ。」とコメントしたので呆気にとられました。
日銀が利上げ予定と言われたのは政策金利であり、国債の金利ではありませんし、国債の金利は原則として固定利率です。つまり、官房長官でありながら、予算書に何が書いてあるのかを理解していないということです。緊縮派の政治家のマクロ経済に関する認識なんてこんなものです。
首相も、増税議論は支持率低下に結びつくと考え、一方で積極財政に移行するつもりもないので、最近の答弁では、増税でも国債発行でもなく、予算の効率的使用や無駄の排除などで対応するとすることが多くなっています。
つまり、ケチになるということです。
この時代にさらに政府支出を圧迫して景気を沈滞させることがどのような影響を与えるか、この政権はそれすら理解できずにいます。
日銀よ、お前もか
日銀も最悪のタイミングで利上げに踏み切りましたが、彼らの認識は、賃上げも行われ、経済もインフレに入ったということなのだそうです。
賃上げを行っているのは、円安で輸出が伸びている企業が中心であり、中小・零細企業は最低賃金の上昇で苦しんでいる実態を理解できないようです。
また、この国がインフレに入っているというのは、どういう判断かと疑います。
経済学部の1年生の経済原論の試験で、この国のこの状態をインフレと判断したら、単位をもらえません。インフレというのは、需要が供給を上回って生産が追い付かない状況で生ずる状態です。物の値段が上がっているのがインフレではありません。
現在モノの値段が上がっているのは、円安のため原材料が高騰しているからであり、供給を上まわる需要があるわけではありません。
つまり、依然としてこの国は不況なのです。不況であるにも関わらず物価が上昇していく現象は、一般にスタグフレーションと言います。このことは経済学部の一年生ならだれでも勉強することです。そんなことも理解できない連中がこの国の財政と金融政策を牛耳っているんです。
天に唾する危機
とにかく、そのような政権与党を抱えていること自体がこの国の現在の最大の危機なのですが、危機管理の専門コラムとして、この問題を取り上げる気にならなかったのです。
もともと筆者が嫌いなもののトップスリーのうち二つが、政治家とメディアであり、最後の一つは時と場合によって異なるのですが、この政治家とメディアについて触れること自体が不愉快で、あまり触れたくない問題です。
コロナ禍におけるメディアの騒ぎ方は異常で、このままでは大変なことになると考え、せめてコラムの読者にだけでも、正しいものの見方を伝えたいと考え、感染症専門家が言う致死率が出鱈目であること、病床はそれほどひっ迫していないこと、コロナウィルスはこれまで4種類であったのが5種類に増えただけのことであることなどを折に触れて記述してきました。
しかし、現政権に関しては、それを選んだのが私たちなので、何を言っても天唾になるので、触れたくないという思いです。
つまり、危機管理の専門コラムが、この国最大の危機を黙して語らないという事態になっていることが当コラムが直面している問題です。
身悶えする苦痛
ちなみに、今回の表題の「アゴニー」というのは、激しい苦痛や苦悶を意味しています。
もとは、イエス・キリストが処刑される前夜、ゲッセマネの園の岩の上で苦悶の祈りを捧げたことに由来すると言われています。ユダの裏切りと自分の運命を予期したイエスが、死の恐怖と戦いながら、神に身を委ねる祈りを捧げた際の苦痛を指すのだそうです。
自分は弟子の裏切りによって磔にされる、しかし、それが神の意志なら従うという苦悶です。
誰しも矛盾の中で思い悩むことがあります。危機管理専門コラムの筆者が抱えている苦悩がこのアゴニーなのです。