専門コラム「指揮官の決断」
第463回自衛官による自民党大会における国歌斉唱のリード
はじめに
当コラムは、時事問題を扱うコラムではなく、危機管理に関して体系的に語ろうとするコラムなのですが、どうも世間の雑音が喧しく、寄り道を余儀なくされることが多々あります。
今回もそのような一つです。
概 要
問題は4月12日に開催された第93回自民党大会において、国歌斉唱のリードを取るよう自民党から依頼された陸上自衛隊中央音楽隊の鶫真衣3等陸曹が、演奏服装を着用してステージに上がったことが報道されたものです。
この行為が、野党やマスコミによって、自衛隊法第61条に定める政治的行為の制限に抵触すると批判されています。
法的問題
この問題を理解するためには、自衛隊法第61条について理解しなければなりません。
条文は次のとおりです。
第六十一条 隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。
2 隊員は、公選による公職の候補者となることができない。
3 隊員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。
政令で定める政治的行為をしてはならない、とありますので、政令で何が禁止されているのかを知る必要があります。
自衛隊法施行令には、次のように規定されています。
第八十七条 法第六十一条第一項に規定する政令で定める政治的行為は、次の各号に掲げるものとする。
一 政治的目的のために官職、職権その他公私の影響力を利用すること。
二 政治的目的のために寄附金その他の利益を提供し、又は提供せず、その他政治的目的を持つなんらかの行為をし、又はしないことに対する代償又は報酬として、任用、職務、給与その他隊員の地位に関してなんらかの利益を得若しくは得ようと企て、又は得させようとし、あるいは不利益を与え、与えようと企て、又は与えようとおびやかすこと。
三 政治的目的をもつて、賦課金、寄附金、会費若しくはその他の金品を求め、若しくは受領し、又はなんらの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与すること。
四 政治的目的をもつて、前号に定める金品を国家公務員に与え、又は支払うこと。
五 政党その他の政治的団体の結成を企画し、結成に参与し、又はこれらの行為を援助すること。
六 特定の政党その他の政治的団体の構成員となるように又はならないように勧誘運動をすること。
七 政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、若しくは配布し、又はこれらの行為を援助すること。
八 政治的目的をもつて、前条第一号に掲げる選挙、同条第二号に掲げる国民審査の投票又は同条第八号に掲げる解散若しくは解職の投票において、投票するように又はしないように勧誘運動をすること。
九 政治的目的のために署名運動を企画し、主宰し、若しくは指導し、又はこれらの行為に積極的に参与すること。
十 政治的目的をもつて、多数の人の行進その他の示威運動を企画し、組織し、若しくは指導し、又はこれらの行為を援助すること。
十一 集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること。
十二 政治的目的を有する文書又は図画を国の庁舎、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他政治的目的のために国の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。
十三 政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し、若しくは配布し、又は多数の人に対して朗読し、若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し、又は編集すること。
十四 政治的目的を有する演劇を演出し、若しくは主宰し、又はこれらの行為を援助すること。
十五 政治的目的をもつて、政治上の主義主張又は政党その他政治的団体の表示に用いられる旗、腕章、記章、えり章、服飾その他これに類するものを製作し、又は配布すること。
十六 政治的目的をもつて、勤務時間中において、前号に掲げるものを着用し、又は表示すること。
十七 なんらの名義又は形式をもつてするを問わず、前各号の禁止又は制限を免かれる行為をすること。
2 前項各号に掲げる行為(第三号の場合においては、前項第十六号に掲げるものを除く。)は、次の各号に掲げる場合においても、法第六十一条第一項に規定する政治的行為となるものとする。
一 公然又は内密に隊員以外の者と共同して行う場合
二 自ら選んだ又は自己の管理に属する代理人、使用人その他の者を通じて間接に行う場合
三 勤務時間外において行う場合
筆者は、この件に関し、国側の見解としては高市総裁、小泉防衛大臣、鈴木幹事長、萩生田幹事長代行及び陸上幕僚長の見解しか聞いておりませんが、そろって自衛隊法上の問題はないという立場を取っています。
確かに、自衛隊法の論理解釈はともかくとして、文理解釈上の違反はないようです。
では、問題はないのか
筆者は、この類の問題にあまり関心を持っていなかったのですが、前述5名の議論を聞いて、関心を持たざるを得なくなりました。
そもそもは、自民党の党大会の企画を任されたイベント業者の担当者が鶫三曹と知り合いで、党大会で歌って欲しいと頼まれたようです。彼女は上司に申し出て、中央音楽隊から陸幕に相談があり、陸幕から内局に相談があり、休暇を取っていくなら私人であるので、問題はないと言われたのだそうです。ところが、内局では、担当者どまりで、次官や政務官、副大臣、大臣に報告は上げていないようです。問題ないと判断したので、報告しなかったのでしょう。
確かに法的に問題はなさそうです。
しかし、このコラムを長くお読みの方々は、筆者が読売新聞が「コンプライアンス」という言葉を使うたびに(法令遵守)とカッコ書きを入れていたことを批判していたことをご記憶のことと存じます。
筆者は、コンプライアンスには法令遵守という意味はなく、むしろ、法の眼を潜るような真似はコンプライアンス違反になるおそれが大きいと主張してきました。
今回は、その典型的な例です。
たしかに、自衛隊法、同施行令には文理上違反はしないでしょうが、政府がコンプライアンス上の問題としてしまったのです。
何が問題なのか
筆者は、本来はコンプライアンス上の問題もないと考えています。
しかし、前述5名の発言が問題です。
自衛隊は国の防衛に関するオペレーションだけではなく、防衛思想の普及のためにいろいろなイベントに顔を出しています。
オリンピックをはじめとする様々なスポーツの大会の支援をしたり、地元の市町村が行うイベントや地元のお祭りに協力したりしています。
ただ、政党の党大会への協力は政治的色彩を帯びるので議論のあるところではあります。
しかし、これが自民党大会だけでなく、あらかじめ調整があれば与野党問わずに支援を行うということであれば問題はないはずです。(まぁ、共産党や社民党が党大会を国歌斉唱から始めるとは思いませんが)
本来問題がないはずの自衛官による国歌斉唱のリードをコンプライアンス上の問題としたのは、前述の5名です
鈴木幹事長と萩生田幹事長代行は、それぞれ、自民党の発案ではなく、イベント会社の提案だったと言って、責任を振ろうとしました。
鈴木幹事長は石破政権の財務大臣として、消費税は社会保障の大事な財源であるから減税はできないと主張した程度の知能の政治家ですし、萩生田にいたっては、文科省大臣として、東京オリンピックの開会式に関する富岳のシミュレーションで、「開催してもコロナ感染が増えることことはないということが科学的に証明された」と記者に応える程度の文科省大臣です。スーパーコンピュータのシミュレーションと科学的証明の違いが分からぬ男であり、この程度の政治家が文部科学行政のトップにいたのですから、日本の学術レベルが下がる一方なはずです。
この時、ハツカネズミ程度の脳みそしかないと批判し、読者の方から、「お前はハツカネズミの能力を知らんのか」と指摘され、確かにハツカネズミは素晴らしい能力を持っていることを確認したため、すぐに訂正の記事を出し、かつハツカネズミに対する謝罪を表明したのをご記憶の方もいらっしゃるかと思います。
最近は、その程度の頭をダチョウの頭と比べるようにしています。
興味のある方は、ダチョウがどの程度の思考力を持っているかお調べください。
要するに、自衛隊法違反ではないにしても、コンプライアンス上の問題が残るという疑いを生じさせたのです。
繰り返しますが、自衛隊が外部に対して、その能力を持って様々なイベントの支援をすること自体、問題はありません。
それをコンプライアンス上の問題にしたのは自民党と内局、陸幕長です。
責任を自衛隊や個人に押し付けるな
鶫三曹の国歌斉唱のリードを問題化させたのは、第一義的には自民党です。
幹事長とその代行が、自分たちの発案ではなく、イベント会社の提案を受けただけだと責任逃れをしています。
堂々と「ハイ、自衛隊にお願いしました」と何故、言えないのでしょうか。
その幹事長と代行に任じたのは高市総裁です。総裁が責任をとるべきであり、「法的問題はない」とか答弁している場合ではありません。
首相は「法的問題はない」ではなく「何ら問題はない」と発言すべきでした。
防衛大臣に至っては、自分のところまで上がって来なかった、来ていれば別の判断もありえた、と答えています。この発言は卑怯極まる発言です。
自分は知らなかった、知っていたらどう判断したかを述べていません。
つまり、彼女が自民党大会で国歌の歌唱をしたことの是非について明確に述べていないのです。さすがに政治家です。
次いで責任があるのは、内局です。
相談してきた陸幕に休暇を取らせて、私人として行くなら法的問題はないと許可したからです。
つまり、自衛隊の業務として堂々と行かせるのではなく、休暇を取って行ってこい、というコソコソ行くことで承認しているのです。
自民党から依頼を受けて、断れる陸上自衛隊なのでしょうか。
陸上幕僚長も同様です。
陸幕長は、本人は休暇を取っており、私人として出かけたので、陸上自衛官としての行動ではない、というスタンスを取りました。
休暇を取ろうがどうしようが自衛官は自衛官であり、自衛隊法に常時勤務態勢の義務があるのを陸幕長はしらないのでしょか。
まして音楽隊員が演奏服装を着用して歌唱したら、私人ではありません。
公務として堂々と出かけたのではなく、休暇を取ってコソコソと出かけたのだから法的な問題はないというのが陸幕長の立場です。
こういう奴でないと陸上自衛隊では偉くならないのでしょう。
つまり、前述5名及び内局は、誰も法的問題にしか触れず、コンプライアンス上の問題から逃げることによって、この案件をコンプライアンス上の問題としてしまったのです。
筆者は、誰も鶫三曹を庇ってやらなかったことに腹を立てています。
彼女は求めに応じて、年24日を限度として許可することが認められている自分の有給休暇を使って、演奏服を着用して国歌を歌ってきたのです。
それを自分たちの責任逃れだけして、誰も彼女を庇わないのです。
自衛官にはそんな上司のために命がけの仕事をすることが要請されています。
かろうじて、首相のみが鶫三曹に責任はないと、明確に発言しています。
政治家に責任感など求めても虚しいだけですし、内局は役人ですから、責任の回避はお家芸です。
陸上自衛隊は三自衛隊の中で、最も政治色の強い集団です。したがって、そのトップが政治色の強い発言をするのは仕方ないでしょう。
結局、この問題は、法的には問題はないけれど、二度とはやってはならない事案として防衛省・自衛隊の中に残されてしまいます。
皆が法的責任のみから逃れ、コンプライアンス上の問題としてしまった結果です。
その中で、誰も責任を取らずに「鶫三曹」という名前だけが残り続けるのです。
自衛官は、相変わらず日陰者であり続け、だから憲法に自衛隊を明記すべきという改憲論が起きてきます。本来は、そういう議論ではないはずです。
