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専門コラム「指揮官の決断」

第61回 

専門コラム「指揮官の決断」 No.061 EEZって何? その3 排他的経済水域

カテゴリ:コラム

 しばらく鳴りを潜めていた北朝鮮がまたミサイルを発射しました。
 今回は我が国排他的経済水域内への落下が確認されています。
 当コラムは軍事評論のためのコラムではありませんので、今回は北朝鮮問題ではなく、これまで綴ってきた「EEZって何?」の続きとしてお読みください。

 No.053で「領海」について述べました。「No.053 EEZって何? その2 領海」をご参照ください。
 順序としては、今回は接続水域について説明すべきですが、ミサイルが我が国の排他的経済水域内に落下したこともあり、この排他的経済水域について先に解説します。
 ただ、領海の外側に「接続水域」と呼ばれるエリアがあることだけ覚えておいて頂ければ結構かと思います。

 排他的経済水域の概念を理解するためには、大陸棚の議論をしなければならないのですが、この議論は面白いことは面白いのですが、若干専門的ですので、今回は簡単に済ませます。
 
 排他的経済水域は当コラムのタイトルであるEEZと呼ばれることが多いかと思います。
 英語のExclusive Economic Zone の頭文字です。
 端的に申し上げれば、天然資源や自然エネルギーに関して主権的権利が及び、施設の設置、環境保護、海洋調査などに関する管轄権が及ぶ海域を指します。
 その海域は、単純化して説明すると海岸線から200海里(概ね370Km)と理解しておいていただいて問題はありません。
 かなり広い海域です。
 
 この排他的経済水域は、もともと海洋の天然資源の利用や管理のために、適当な広さの海域を指定しようとしたことから始まっています。
 当初は海面及び海中を漁業水域などと呼び、海底の大陸棚との二つの概念が交錯していました。
 大陸棚とは陸地の周辺に長期間にわたって堆積した海底斜面であり、そこに形成された原油などの様々な天然資源に関する沿岸国の権利を保護するために案出された概念であり、資源開発の技術的な可能性として水面下200m程度を想定し、領海に隣接する200mより浅い部分を呼びます。

 ただ、この漁業水域などは境界線の規定などが曖昧であり、各国が勝手に宣言していたため国際間の摩擦の種になることが多々ありました。

 そこで「海洋法に関する国際連合条約」(通称、国連海洋法条約)において、領海基線から200海里とすることが定められ、合わせて、大陸棚も200m以浅ではなく、200海里を大陸棚とすることになりました。

 この排他的経済水域内では、沿岸国はその海上、海中、海底にある水産資源、鉱物資源、自然エネルギーに関する探査、開発、保全及び管理を行う排他的権利を有することが条約に明記されています。
 また、人口の施設、環境の保護などや海洋の科学的調査などに関する管轄権を有することも明記されました。
 
 ただし、国連海洋法条約は沿岸国の権利や管轄権についてのみ規定したのではなく、非沿岸国の権利についても規定しています。排他的経済水域内における船舶の航行、航空機の上空の飛行及び海底電線やパイプラインの敷設などの権利については保護されています。
 
 科学的調査というのが何を指すのかが曖昧なため、中国は我が国のEEZ内において、我が国の抗議を無視して過去数十年に渡って様々な調査を行ってきました。また、外務省もこの調査を黙認してきました。
 そのため中国は我が国EEZ内の海底の状況をよく把握しています。そのことは2004年11月に生起した中国の原子力潜水艦が我が国の領海を無害でない状態で航行した事件の際によくわかりました。
 彼らは追跡する海上自衛隊の艦艇から逃れるために、海底の地形を有利に使いながら逃走を図ったのですが、そのことは余程その海域の海底の事情を熟知していなとできないことであり、彼らがそれだけの調査を終えていることの証左です。
 ただし、海上自衛隊も我が国周辺海域についてはしっかり把握していますので、この時も振り切られずに追尾を続けることが出来ました。

 この排他的経済水域は領海基線から200海里と規定されているのですが、他国の排他的経済水域と重なる場合は、中間線を基本とするというのが国際法上の常識なのです。
 しかし、中国は東シナ海においては「大陸棚自然延長論」という不思議な理論を持ち出してきて、自国沿岸から伸びる大陸棚の先端は沖縄トラフの西斜面の最下部であり、EEZもその境界と同じ位置にあると主張しています。この理論に従うと、中間線よりもかなり中国のEEZが広く取られることになります。

 一方中国はベトナム、フィリピンに対しては中国は等距離中間線論を主張しており、自己矛盾に陥っています。なぜなら、争点となっている海域に明瞭な大陸棚の境界線が存在しないからなのですが、そもそも200海里を測る基線となる島に対する一方的領有権を主張し、それを根拠としているため、国際法上の根拠は持ちません。
 
 また、南シナ海において中国は南沙諸島に存在するリーフ(礁)に強引に施設を建設し、それを島だと主張しましたが、昨年7月、海洋法条約の常設仲介裁判所は、このリーフが法的に排他的経済水域や大利棚を発生させない「岩」であると認定し、中国の主張に法的根拠はないと判断しました。
 つまり、中国の九段線には国際法上の根拠がないと認定されたのです。

 今回の北朝鮮が発射したミサイルが我が国排他的経済水域内に弾着したことは、我が国主権的権利及び管轄権を犯す行為であり看過することはできません。 
 
 大陸棚の議論は、国際法上はかなり面倒な理屈があるのですが、当コラムの主たるテーマであるクライシスマネジメントとは論点がことなりますので、ここでは触れません。興味のある方は、国連海洋法条約そのものをお読みになることをお薦めします。
 いい加減な評論家の解説を聞くより正確で分かりやすいかと存じます。

 近年の調査により、我が国の排他的経済水域の中に極めて重要な天然資源が埋蔵されていることが分かりつつあります。
 中国の尖閣諸島をはじめとする我が国排他的経済水域への権利主張は、この資源の存在が明らかになった頃に端を発し、その強さを増大しています。
 国土に天然資源があまり無い日本にとって、海洋に眠る資源は死活的に重要です。
 この資源を守るためにも私たちはEEZから目を離してはなりません。
 
 前にも申し上げましたが、私たち日本人は基本的に「海」に関心を持っていませんし、よく知りもしません。
 しかし私たちが重大な関心を持ち続けないと、このEEZにおける私たちの排他的権利はアッという間に失われてしまいます。
 
 一方の中国は百年の大計に基づき、着々と海洋進出を進めています。
 日中中間線における海洋油田開発など、私たち日本人が気付いた時にはもう実用化段階に入っていました。
 心ある方々は、その問題について危険性を指摘し続けたのですが、政府もマスコミもほとんど何の関心も払ってきませんでした。
 その結果、当該海域に眠る大量の原油を一方的に吸い上げられてしまうということになってしまっています。
 
 このような愚挙を繰り返してはなりません。
 
 私たちは「海」から目を離してはならないのです。 

 概念図は海上保安庁作成