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専門コラム「指揮官の決断」

第79回 

No.079 部下との接し方を知らない管理職

カテゴリ:コラム

部下との接し方でメンタルダウンする中間管理職

 日本の企業の年功序列制が崩れた結果、メンタルダウンする初任係長あるいは課長が増えたと聞いて、何故なのか当初理解ができませんでした。
 年功序列が崩れても係長や課長になったということは、その人の業績がそれだけ評価されたということなので、実力のある人がその配置についているはずなのです。

 ところがよく聞いてみると、年上の部下を持たなければならなくなり、どう扱っていいのか分からずにメンタルダウンする中間管理職が多いのだそうです。

 正直なところ、自衛隊出身の私にはこの感覚は全く理解できませんでした。年上の部下を持つなどと言うことは日常茶飯事だったからです。
 大学を卒業して入隊し、幹部候補生学校で鍛えられ、任官して部隊に行ってみると、三分の二くらいの部下は年上です。中には自分が生まれる前から自衛隊で勤務している部下もいます。
 それらを覚悟して赴任しているのです。
 
 候補生学校では、そのような部下を率いて戦場に出なければならなくなる候補生たちに、徹底的にその覚悟を植え付け、かつ、部下に侮られないだけの厳しい訓練を行って部隊に送り出すのです。
 初任幹部は、自分よりはるかに年上で経験豊富な部下と接する時、経験や技量で劣ることがあっても、責任感や最終的な判断力、そして忍耐力では絶対に引けを取らないという覚悟を持って赴任するしかないのです。

 したがって、着任して見て、実際に年上の部下に囲まれても、「思っていたよりも手ごわいな。」などと思い知らされることはあっても、どう扱っていいのか分からずにメンタルダウンするということはありません。

自衛隊の若い幹部は部下とどう接しているのだろうか

 それでは自衛隊で若い幹部は年上の部下とどう接しているのでしょうか。
 旧軍とは異なりますので、日常の勤務においては、任官したての若い幹部は遥か年長の部下に対してはていねいな言葉で対応し、その経験や技量に素直に敬意を払います。
 しかし、部下に助言を求めることはあっても決断の責任を求めることはありませんし、日常生活において、彼らに対して敬礼をすることはありません。常に敬礼を受けて答礼する立場を崩すことはありません。
 
 それができるのは「自覚」を持っているからです。その「自覚」を持つように徹底した教育が行われるのです。

 部隊でさらに勤務を続けていると、幹部としての序列にも差が出てきます。
 数期先輩の幹部より先に昇任して士官室での席次が変わったり、大きな会議に出てみると、かつての教官が下座の席にいたりすることが出てきます。
 さらに、指揮官として着任してみると次席指揮官が先輩だったりすることもでてきます。
 階級社会というものはそういうものなのです。
 

問題はどこに?

 年上の部下を持ってメンタルダウンする中間管理職が多いということの原因は明らかです。
 管理職たる自覚をさせる教育が全くなされていないからです。
 
 総合職として採用された新入社員は、一斉にキャリアをスタートさせますが、将来の経営陣を目指すための教育がなされるわけではありません。

 そして数年経った頃の6月中旬、株主総会の翌日に彼の上司に人事課から電話があり、4月1日付けで管理職への昇任させたことが伝えられ、初任管理職講習に参加させるよう指示があるのです。
 本人は自分が管理職になっていることを数か月知らずに勤務し、数日間のセミナーに参加しただけで管理職としての勤務が始まるのです。

 もともと目標による管理が行われている会社では中間管理職は部下の教育をしようとしません。
 もともと優秀であった中間管理者ほどこの傾向が強いようです。
 目標による管理では部下を育てたことが評価されることはなく、また部下を鍛えるよりも自分でやってしまった方が早いからです。
 部下を育てて戦力化するということは短期間でできることではありません。
 目標による管理で求められる短い期間内に部下を育て、戦力化し、実績を上げさせるということは簡単ではありません。
 そこでどうしても成績を上げなければならない部門の長は、優秀であればあるほど自分でやってしまうのです。

 そうして上司から育てられたことの無い若い人たちが管理職になっていくと、当然のことながら育て方を知りません。
 そこへ年上の部下などが入ってこようものなら、どう接していいのか分からないのも当然なのかもしれません。

若い社員を鍛えよう

 問題の解決は難しくありません。
 少なくとも将来管理職にする予定の総合職の新入社員に対しては、組織のあらゆるレベルから、「君たちは将来この会社を背負って立つんだ。」と言い続けることです。
 入社式で社長が新入社員に訓示する時だけでなく、あらゆる場面において、将来は少なくとも役員になってもらわなければならないのだと伝えることです。
 つまり、幹部候補生として扱うことです。
 
 幹部候補生として扱うということは、チヤホヤして育てるということではありません。
 その将来の重責に耐える人材となってもらわねばならぬとして、徹底的に鍛えるのです。
 そのように教育的配慮を施しながら徹底的に鍛えていけば、同じくきつい勤務をさせてもメンタルダウンすることはありません。
 そのようにして育てられた若い社員たちは中間管理職になった時に部下をどう扱うなどに悩むことはありません。年の差など気にもしないでしょう。
 
 要は、社長以下の全ての役員、上級管理職が教育者となり、中間管理職がインストラクターとして新入社員を鍛えていくことです。
 決してその教育を外部に任せてはなりません。
 自分たちの会社の将来を背負う幹部候補生として育てるのです。
 
 お金はかかりません。

 新入社員をどう見るかだけの問題です。