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専門コラム「指揮官の決断」 

No.087 最近の若い者は・・・アメフト騒動

最近の若い者は・・・

 
 「最近の若い者は云々」と言い出すのは齢を取った証拠と言われます。
 太平洋戦争を戦った山本五十六連合艦隊司令長官が、「今どきの若い者は、などと言ってはならない、我々だってそう言われてきたはずだ。」と述べたことは有名ですし、3000年くらい前のパピルスにも同じようなことが書いてあるそうです。

 だからというわけではありませんが、私は「今どきの若い者は・・」という言い方をしたことがありませんし、そう思ってもいません。

 私が海上自衛隊に入隊した頃、海上自衛隊には旧海軍に籍をおいた人たちがまだ在籍していました。
 特に海上幕僚長と幹部候補生学校長が最後の海軍兵学校出身者で、海軍の伝統を海上自衛隊に残すのが自分たちの使命であると張り切ったため、私たちのクラスは凄まじい鍛え方をされました。

 彼らから見れば、戦後10年もたって生まれた私たちの世代にこの国の防衛を託してリタイアするなどというのは心許ないことだったのだと思います。
 一方で私たちは、負けた海軍が何ほどのものか?という気概を持っており、「俺たちは負けない!」と気勢を上げていたものでした。

 その私たちがリタイアする時、海上自衛隊には平成生まれの隊員が現れ、私たちにとっては新人類どころか宇宙人に見えるくらい感覚が異なる連中でした。
 しかし、かつて教育部隊の指揮官を務めた私は、新入隊員を受け入れるたびに、彼らをしっかりと鍛えれば、この国の海上防衛を担う人材に育つということを微塵も疑うことはありませんでした。
 実際に、東日本大震災において、自衛隊創設以来の最大の作戦となった災害派遣において寝食を忘れて必死で捜索救難に当たった隊員の多くはそのような若い連中でした。
 
 つい最近も、若い人は捨てたもんじゃないという実例を見ることができました。

アメフト騒動を見ると・・・

 日大と関西学院大学とのアメリカンフットボールの定期戦におけるラフ・プレイにかかる一連の騒動の渦中でのことでした。

 日大が開いた記者会見での元監督、コーチの対応のいい加減さ及び広報担当者の出鱈目さ加減は呆れ果てる以外の何物でもありませんでしたが、その前日に行われたラフ・プレイを行った選手によるプレスクラブでのインタビューには目を瞠りました。

 プレス対応をしたことの無い方にはご理解頂けないかもしれませんが、テレビカメラの砲列が並び、記者連中がズラッと睨んでいる会場で話をするということは恐ろしい経験です。
 鼓動が早くなり、血圧が上がり、膝が震え、喉が張り付いて声も普段の声が出なくなります。落ち着いて論旨一貫した答弁など出来なくなっても何の不思議もありません。

 そのようなプレスの会場に、彼は現れたのです。試合に勝ってヒーローインタビューに出てくるのとはわけが違います。
 二十歳を過ぎたばかりの大学生が、自らの責任を全うするために実名で現れ、記者からの質問の十字砲火を浴びたのですが、彼はしっかりと誠実に受け答えしていました。

 彼の発言内容について、元監督やコーチからは事実と違うというような発言がありましたが、真偽はともかくとして、世間がどちらを信ずるかは一目瞭然です。

 大人たちの見苦しさに比べ、若い人のたどたどしさの方が頼もしく映りました。
 前都知事の辞任直前の愁嘆場をご記憶の方も多いかと思います。

人事担当者各位、彼を見逃してはなりません

 私が企業の人事担当者であれば、彼を大学卒業を待たずに採用に動きます。

 彼は心の葛藤と闘いつつも組織の指示に従いました。忠誠心は十分です。
 しかし、それが大きな過ちだと気が付いた時、彼は自分の責任から逃げずに、しっかりと対応しました。大人たちよりも遥かにしっかりとした責任感を持っています。
 見苦しく自らの責任から逃げまくる大人が多い中、なかなか見出しがたい態度です。
 
 過ちだと気が付かなかったのは若さです。しかし、彼は大きなことを学んだはずで、二度と同じ過ちは繰り返さないでしょう。
 
 フットボールで鍛えられた気力・体力があります。
 
 チームプレイの重要さを知っています。
 
 先輩から学び、後輩を育てることも知っています。
 
 企業において、これほど望ましい若者はないはずです。
 彼に機会を与えてやることにより、将来、とてつもない大物に育つ可能性があります。

 私のコンサルティングファームに余裕があれば、是非迎え入れたい人材です。

大人たちの矛盾に満ちた対応

 この事件に関し、早々に関東学生アメリカンフットボール連盟が、元監督・コーチの除名の裁定を下しました。
 新聞各紙もこの判断は妥当という論評を載せています。
 
 私の感想は「ちょっと待て、冗談を言うな。」というものでした。
 この裁定は非常に重い裁定です。
 元監督とコーチが、日本のアメリカンフットボールの発展にどれだけの貢献をしてきたのかはよく承知していませんが、アメフト名門校の日大の監督とコーチです。
 その二人の名誉を将来にわたって葬り去るという裁定なのです。

 本件に関し、第三者委員会は招集されておらず、捜査当局が事情を聴き始めたところです。
 説明と謝罪の文書を受け取った関西学院大学は、内容に不明点が多いとして、第三者委員会での解明すら困難で捜査当局の事実解明を待ちたいとしています。
 要するに真相の解明が簡単ではないということです。
 
 関東学生連盟が何を根拠に裁定を下したかを詳しく承知していませんが、この団体にどれだけの真相解明に関する能力があるのでしょうか。
 いかなる事情聴取が行われ、それが論理的かつ一方的ではないやり方で、理を尽くした審議が行われたのかが不明ではありますが、そもそも連盟は、事実を解明する方法を知っているのでしょうか。
 裁判における公判手続きのように、徹底した証拠主義を取り、あらゆる先入観や偏見を排除した事実を解明する方法を熟知しているのでしょうか。
 監督やコーチとのこれまでの人間関係から、監督・コーチの指示を選手がどのように受け取った可能性があるのか、また、そのように受け取られることを分かっていた指示であったのかなど、専門家でもそう簡単に事実解明ができるものではないはずです。 
 
 私には、連盟がヒステリックになり、世論に迎合した結論を出したのではないかとしか思えないのです。
 
 一方、新聞各紙・報道各局もこの裁定を妥当としていますが、これにも愕然とします。
 
 疑わしきは罰しないのが人権擁護の基本的な考え方です。
 有罪が確定するまで無罪の推定を受けるのが我が国の基本的な態度です。
 マスコミは、監督・コーチの記者会見、学長の記者会見でも事実の解明が出来ていないと論評したはずです。
 
 要するに彼らも真相を理解できていないのに、除名の裁定を下した連盟の判断を支持しているのです。
 単なる大衆への迎合。これがマスコミの姿勢です。
 彼らに報道の自由などという権利主張をさせることの虚しさを痛感しています。
 

老兵は若い者に後を託して静かに消え去ろう

 話を元に戻します。 
「今どきの若い者は・・・」などと夢にも言ってはなりません。
 今どきの若い人たちは、私の世代よりも遥かにしっかりしています。
 
 彼らはブロックチェーン技術やスマートコントラクトなどという概念を理解し、AIを駆使してとてつもない世の中を創り出そうとしています。
 彼らについていくことすら困難になりつつあります。まるで日本海海戦を闘った技でサイバースペースの戦いに挑むようなものです。歯が立ちません。
 
 ダグラス・マッカーサーは「老兵は死なず。消え去るのみ」と言い残して退役しましたが、年寄りは若い人たちに後世を託して静かに消え去ればよく、老醜を晒すべきではないと思っています。