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専門コラム「指揮官の決断」

第95回 

No.095 read back

カテゴリ:コラム

read back って何?

 若い頃読んだ懐かしい小説を読み直したり、難解な専門書を理解するために何度も読み返すのもread backですが、飛行機乗りや船乗りにとってread backとは「復唱」を指しています。

 なぜreadという単語が使われるのかは定かではありませんが、無線の感度チェックをする際、” How do you read?” と聞かれるのが普通です。
 船では” How do you hear me ?“などと聞くこともありますが、航空管制においては管制用語というのが決まっているので” How do you read ?” と聞くのが正しいのでしょう。

 このread back を当コラムで取り上げる理由は、もちろん、大変重要だからです。
 危機管理にはもちろん重要ですが、日常業務にとってもとても重要だからです。

 飛行機を操縦していて管制塔とやり取りする際、管制官はパイロットにこの「復唱」を必ず要求してきます。

 例えば離陸の許可を求めて管制官から「離陸を許可する。指示するまで針路180度、高度3000フィート以下を維持せよ。」とアナウンスがあったとします。
 この時パイロットが「了解」とのみ応えると、管制官は「待て、復唱せよ」と追いすがってきます。そこで、「180度、3000フィート 了解」などという返答などしようものなら、さらに「正確に復唱せよ」と要求されます。
 180度の何を了解しているのか、3000フィートの何を了解しているのかが管制官に伝わらないからです。間違って3000フィート以上の高度を維持すると理解されていたら大変なことになるからです。
 
 これらの交話は録音されているので、管制官としては間違いなく相手に理解させたことを証明できるくらいはっきりとした復唱を求めざるを得ないのです。
 したがって、”Roger, cleared for take off, maintain heading 180, alt below 3000” とはっきり復唱しなければなりません。特にbelow なのかabove なのかをはっきりと発音しないと、嫌になるくらい聞き直されます。

単なるread backでは不足かもしれない

 
 これらに慣れていると、逆に復唱されなかった場合に不安になります。
 会社で部下に電話で指示を出し、電話の向こうで「了解で~す。」などという答えがあって切れてしまうと、「大丈夫なのだろうか?」と心配になったものです。
 何を了解しているのかが分からないからです。
 よく同床異夢ということが言われますが、まさにそれで、私の言葉の意味や真意をどう理解したのかが分からず、帰ってくるまで不安だったことがよくありました。

 新入社員教育などでは相変わらず「ホウ・レン・ソウ」などというのが教えられているようで、私も商社勤務の頃、部下の新入社員の新入社員教育のテキストを見て「全然変わってないね」などと思ったものですが、しかし、復唱の重要性を教えるセミナーというのを聞いたことがありません。
 
 よく「命令は出しっ放しにしてはならない。必ずどう進捗しているのかフォローしなければならない。」と言われます。
 これはとても重要なことですが、実はその前に重要なことは、正しく聞き取らせ、正しく理解させることです。

 航空管制では正確に復唱することが求められます。余計なことを喋ってもいけません。
 航空機の場合は速度が速いので管制が冗長になってはならないからです。

 一方で私たちの日常業務では多分正確に復唱するだけでは言葉足らずかも知れません。
 言葉を正確に受け取っているだけではなく、真意をしっかりと受け止めているかどうかということも含めた復唱が必要なはずです。

 例えば課長が部長に何かを報告した際、部長から「分かった。次長にも言っておいてくれ。」と言われたとします。
 
 この際、部長の真意はどこにあるでしょうか。
 
 単に自分だけではなく次長にも情報を共有させておけと言っているのかもしれませんし、あるいは「自分は了解だけど、次長の意見も訊いておいてくれ。」と言っているのかもしれません。
 
 したがって課長の復唱は「承知しました。次長にもお伝えしておきます。」となるのか、「承知しました。次長には部長が了解された旨お伝えし、次長としてのご意見を伺っておきます。」となるのかを判断しなければなりません。
 
 どちらの復唱になるのかは、その課長の空気の読み方次第です。
 そこでも能力評価がなされてしまうはずです。

チームワークの良い組織とは

 このようにしてお互いの真意を確認し合うことができていないと組織としての仕事はうまく進みません。

 チームワークの良い組織というのは、その相互の意思確認が明示的な言葉や文書に寄らずともできてしまう組織のことを指します。指示が無くとも自然体で連係プレーができてしまう組織です。
 
 そのような組織を作ることはそれほど難しいことではありません。
 
 日常から、そのような意思確認を言葉で行う習慣をつければいいだけです。
 
 これが習慣化されると言葉が不要になります。
 逆に、これが習慣化されていない組織では、いかに言葉が交わされても真意は伝わっていきません。
 
 つまり、言葉で通じるチームは言葉が無くとも通じ、言葉が無ければ通じないチームは言葉があっても通じないというパラドックスが生まれるのです。

 絶好の機会をチーム内のコミュニケーション不足のために逃したり、あるいはコミュニケーション不足による誤解が恐ろしい危機的状況を招いたりという事例には事欠きません。
 
 Read back をどう習慣化するかが一つの「鍵」です。