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専門コラム「指揮官の決断」 

No.156 気候変動に関する危機管理上の問題 

気候変動に関するムーブメント

 9月23日にニューヨークの国連本部で「気候行動サミット」が開催されました。
 アントニオ・グテーレス事務総長の呼びかけで具体的な行動について議論するために国連総会に合わせて開かれたもので、事務総長はあらかじめ具体的な対応策を持ってきた国にのみ演説を許可するという強い方針を打ち出していました。
 同総長はかねてから新規の石炭火力発電所の建設中止を求めており、その結果、安倍首相とスコット・モリソン豪首相は演説を認められず、安倍首相は参加を見送り小泉環境相が出席したようです。
 
 このサミットではスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが基調演説を行い、出席した60か国の首脳に対し「あなた方は私の夢や私の子供時代を空っぽな言葉で奪った。」と激しく攻撃し、列国首脳にショックを与えました。

 私は彼女のスピーチの全文を読んでいませんし、報道された翻訳しか読んでいません。
 しかし、彼女がスウェーデンやその他の国々で行ってきたスピーチの断片を読む限り、彼女の行動を積極的に評価する気にはなれません。
 
 彼女の思いは理解できますが、未成年らしい視野の狭さと思慮の浅さが目について、直ちに頷くことができません。
 
 ただ、彼女の呼びかけに応じて世界中の若い人たちが行動を起こしているのは評価に値するのではないかと思います。
 このムーブメントが大きくなれば政治の世界も無視できなくなるはずで、いよいよ各国とも本腰を入れなければならなくなるでしょう。
 なにより若い人たちがスマホのゲームではなく自然に関心を持つということがいいことです。少しでもアウトドアに出て、この地球がどのようになっているのかを見ようという若い人たちが増えるのは喜ばしいことだと考えています。

危機管理の観点から考えると

 気候変動に関しては危機管理上も特異な問題が存在します。
 一般に危機と言われる状況は、いきなり生起して、何が起きているのかもよくわからないうちに、かつ十分な時間的余裕もないうちに対応を迫られるという特徴がありますが、この気候変動という問題はいきなり生起したものではありません。時間的スパンが他の危機と大きく異なるという特徴があります。

 いきなり起きたのではないのですが、対応にもかなりの時間を要するので、結局対応の意思決定に与えられる時間的猶予はあまりないのは他の危機と同様です。

問題の本質は?

 危機管理においては、ことの本質を如何に素早く的確に見抜くかが非常に重要なのですが、現在の世界の温暖化対策を見ていると、その議論が煮詰まっていないように思われます。

 また、温暖化の原因を巡る論争には石油関連資本と原子力関連資本の思惑も濃厚に絡んでおり、本当の科学的な議論がなされているのかどうかも疑問です。

 いい例がWHOによる血圧に関する評価です。

 かつては最高値が140を超えると高血圧と言われましたが、この10年以上前からその値が130となりました。
 当然、高血圧患者が増加し、高血圧の治療薬が世界で売れるようになります。この値の変更にスイスに本社を置く大手薬品メーカーの関与があったというのはほぼ定説のように語られていますが、たしかに、その頃の統計データによって、高血圧を130以上にしなければならないという理由については疑問を投げかける研究者も少なくありません。

 ただ、その後、血圧が130を超えると治療が始まってしまうので、それ以後の統計データが怪しくなってしまい、現在では検証のしようもないのが真相だそうです。

何が起きているのだろう

 何が起きているのかも分からないわけではありません。スイスの氷河は明確にその数を減らしていますし、北極海の氷もその面積を毎年はっきり分かるほど減らしています。

 しかし、問題はそれらのはっきりとした事実はあるものの、その他の多くの話題になっている温暖化の象徴ともいえる様々な事象が事実なのかそうではないのかがはっきりしていない点です。

 例えば、温暖化による海面上昇で国土が海に沈むと大騒ぎになったツバルやキリバスでも本当に海面上昇によって沈みつつあるのかどうかが疑問視されています。

 ツバルはNHKの報道で大きく取り上げられ、石原慎太郎氏も訪れて驚いて帰ってきたという島ですが、最近の国連の調査では国土自体は拡大しているということが報告されています。

 報道で海岸線が島の内部に向けて迫ってきているとされていたところも、第2次大戦中に米軍が埋め立てた海岸線の砂が流失した結果という報告もなされています。

 キリバスも海面上昇により国土が沈むという騒ぎ方ではなく、津波による被害が甚大になるという言い方に変わってきています。

 南極の氷にしても、溶けて海面上昇の原因となっていると言われてきましたが、数年前のNASAの調査によれば、南極西部の氷河は小さくなっているが、東部内陸で降雪が増えて氷河が厚さを増し、その結果、南極の氷は毎年1000億トンずつ増えているということなのだそうです。

 要するに、この地球上で何が起きているのかもよく分かっていないというのが現状なのでしょう。であるとすれば、何が原因なのかもよく分からないのは当然であり、したがって何が対策なのかが不明であるのは分かりきったところです。

 温暖化を否定する科学者も多いのが事実です。私は専門家ではないのでこれらの科学者の主張を検証することはできませんが、私の専門領域において必要な統計学的見地から見ると、これら多くの否定派研究者の主張が統計的事実から説明が困難なことが分かります。

 明らかに過去1300年のうちの最近の300年、特に直近の150年の温度上昇は太陽の黒点や火山の噴火などの影響を考慮しても異常です。

 私たち日本人が客観的に感じている事実が台風の規模です。昭和の時代には考えられない中心気圧、最大風速、降雨量で甚大な被害を及ぼしています。
 
 この原因は明らかであり、海水温の高さです。
 
 台風は海水の表面温度が26度以上の海域で成長を続けます。
 海水温が摂氏26度の線がかつてよりも北上しており、台風はその線に達するまで勢力を大きくしながら北上してきます。つまり、日本への上陸直前まで育ちながらやってきて、そのまま上陸するので大変な被害をもたらすのですが、この26度線の北上の原因が何なのかはまだよくわかっていません。
 
 これを要するに、地球温暖化の実態はどうなのか、そしてもし温暖化が事実であるのであれば、その原因は何か及び人類にとってどのような意味があるのか、それが好ましくないものであるのであれば、どのような対策をとるべきなのかがよく分かっていないということであり、そのために温暖化に各国がそれほど真剣に取り組んでいないように見受けられ、グレタさんの怒りが収まらないということなのでしょう。

問題解決は単純ではない

 仮に温暖化の原因が温室効果ガスの排出にあるとしても、直ちに対策を取るのには多くの問題とコストを考えねばなりません。
 温室効果ガスの削減のためには燃料として化石燃料の使用を削減する必要がありますが、水力発電ですべてをまかなえる国は極めて少数でしょうし、風力や太陽光発電はまだ化石燃料を代替化できるほどの効率になっていません。
 原子力発電の問題については皆様ご承知のとおりです。

 車両のハイブリット化は進んでいます。燃費が大幅に改善され、特に低速における電池走行は二酸化炭素の排出量を大きく削減する素晴らしい技術ですが、まだ化石燃料を必要としないというところまでは達していません。

 何よりも化石燃料の利用を制限してしまうと、これから経済発展をしていこうとする国の経済活動を停滞させる恐れがあります。
 また、それら発展途上国の経済発展を阻害する結果、食糧事情がより深刻になり、温暖化の危機以前に世界の多くの人々が飢餓の危機に晒されることにもなりかねません。
 
 先進国が膨大なコストを投じて温室効果ガスの削減に努めたとしても、その間隙を縫って、それらのコストを負担せずに軍備を拡張する中国などの動きも無視できません。
  
 つまり、ことは単純ではなく、グレタさんのように直ちに温暖化対策の行動を起こせと言われても、そこから生ずる別の問題が無視できないほど大きいので各国は慎重にならざるを得ないのです。

冷静かつ毅然とした対応が必要

 危機管理でもう一つ重要なのは、最初の一手を誤らずに打つことです。最初の一手を誤ってしまいボタンの掛け違いを起こすと、次から次へと変わっていく状況について行けなくなります。掛け違ったボタンを修正しながらの対応となるので後手後手に回ってしまうのです。

 一方、最初の一手が的確であれば次の状況の変化に対応する余裕が生まれ、さらにきめ細かい対応が可能となります。

 最初の一手を誤らずに打つためには、やはり先に述べた何が起きているのかを看破する必要があります。地球規模の科学的調査が必要です。

 この際、石油や原子力の大資本の思惑とは無関係な調査ができる態勢が必要でしょう。

 温室効果ガスの問題の解明にこれらの資本が介入すると調査に大きなバイアスがかけられる恐れをなしとはしません。

 しかし、シーシェパードのような環境活動家の団体も困ったものです。

 本来、科学は価値判断に影響されずに事実判断を追求するべきものでしょうが、しかし、科学の使命を考えると、人類を幸福に導かなければならず、何が人類の幸福なのかという価値判断を伴うため、事が複雑になります。
 少なくとも大資本の利益を代表したり、あるいは反対のための反対の根拠を探すだけの調査であってはならないはずです。

 さらには一時の熱に浮かされたムーブメントによって意思決定が左右されることにも注意を払う必要があります。

 温暖化対策を求める行動が一人の少女によって世界的なムーブメントになりつつあり、若い人々が自然に目を向けるようになるのはいいことだと考えますが、だからと言って温暖化対策だけを突出させると世界は食糧危機に見舞われかねません。また、世界をさらにリーマンショック級の不況に陥れる恐れもあります。

 この結果、若い人たちの雇用が世界的に失われ、不満がたまり、ISのような組織が再び活性化するおそれもあります。

 つまり、最初の一手を打ち間違うと、他の対策に支障が生じ、今度はその対策に躍起にならざるを得ず、世界中が大きく揺り動かされ、結局は弱者が切り捨てられていく世界を生みかねません。

 一時的な熱狂はいつの時代にも危険です。最初の一手を打ち間違ってはなりません。

 冷静かつ毅然とした判断が必要です。