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専門コラム「指揮官の決断」

第157回 

必勝の信念を持つには 

カテゴリ:コラム

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やりましたね!!

ラグビーワールドカップで日本がアイルランドを破りました。

前回大会で残り1分で、南アフリカの反則に対してPGではなくスクラムを選択して逆転勝利したスポーツ史上に残る逆転勝利は「奇跡の番狂わせ」と呼ばれましたが、今回の堂々とした勝利は日本ラグビーの実力が世界に通用するものであることを証明するものです。

見事なラインを作ってボールを奪うと正面に愚直に突っ込んでくるアイルランド勢を日本勢は常に2対1のタックルで封じ込め、スクラムも押し負けず、後半に体力が尽きてきたアイルランドを途中出場のリーチ・マイケル主将らが翻弄し、ランキング世界2位の相手を屈服させた日本チームの戦いは見事でした。

私は普段、テレビでスポーツ番組を観るということがまずありません。

自分がやらないスポーツに関心がないからで、野球も相撲もまったく観ませんし、サッカーには何の関心もありません。

ゴルフは若い頃2年間、米国駐在の際にやっていました。基地内の官舎に住んでいたのですが、基地のコースのNo.1は私が住んでいた官舎からゆっくり歩いても3分程度のところにあり、かつ、士官室で6人がチームを作るトーナメントがあって英・豪の連中と一緒に外国人士官チームを作って参戦していました。しかし結局何が面白いのか分からずに帰国しました。

4年前までは米国法人のCEOとしてカリフォルニアでゴルフクラブのシャフトをクラブメーカーに売り込む仕事をしていました。年に一度フロリダで開催される大きな展示会にブースを出して新製品のアピールをしたりしていました。しかし、自分ではこのカリフォルニア赴任中に一度もコースに出ないというありさまでした。

要するにゴルフが好きではないのです。

したがって、テレビでゴルフのトーナメントを観るなどということは私にはありえないことです。

私はスポーツはストレスを解消するという効果があるはずと信じており、事実、ラグビーも柔道も肉体的には痛い思いをすることもありますが、終わった後の爽快さは何ともいえず、水泳はその動きそのものがストレスを解消しますし、ヨットに至っては上がってきて浴びるシャワーの気持ちよさと言ったら何にも代えられないのですが、ことゴルフに関しては、あれほどストレスが溜まるスポーツもまずないなと思っています。強いて言えば、射撃(これがスポーツなのかどうか私には異論がありますが。)もストレスが溜まって好きではありませんが、とにかく爽快感がまったく味わえないので好きではないのです。

ラグビー、柔道、水泳は真剣にやっていたことがあり、その面白さも知っているので、これらの試合は比較的よく観ています。一方、私の本当の専門はヨットなのですが、この試合がテレビで放映されることはまずないので観る機会がありません。

とにかく、私がテレビの前に陣取って一生懸命観ているスポーツというのは上記3種目だけで、今回の対アイルランド戦は久しぶりに血圧が上がったり下がったりしながらの観戦となり、「こういう試合は心臓によくないな。」などと言いながら観ていました。

実は、前回の対南アフリカ戦を私は見逃したのです。

ちょうど米国でのCEOとしての勤務を終えて日本に戻るときで、まっすぐ戻れば良かったのですが、出向元の親会社も退職することが決まっており、有給休暇の残日数を消化するように言われていたので、夫婦でハワイに寄って遊んでいました。

ワールドカップの日程は知っていたのですが、日付変更線の反対側にいることを忘れており、帰国後に観戦できると思っていたのに、ホノルル空港の近くのレンタカー屋で借りていた車を返しているときにニュースで日本が勝ったことを知ってショックを受けたのを昨日のことのように覚えています。

そんなわけで、今回は何としても歴史的瞬間を観なければならず、珍しくテレビの前に座っていました。

全力を尽くして準備した者が言うことは

この歴史的な勝利の後のインタビューでペナルティーゴールやゴールキックを何本も決めたスタンドオフの田村選手が「勝つと信じていた。」と何度も何度も繰り返していたのがとても印象的でした。また、リーチ・マイケル主将も他の選手も自分たちがアイルランドに勝つと信じてそれぞれがなすべき仕事をしたと答えたのも印象的でした。

つまり、彼らは自分たちが絶対に勝つと信じて試合に臨んだのであり、それを信ずることができるほどきついトレーニングに耐えてきたという自負があったのでしょう。

危機管理の世界では

危機管理の世界においても、自分たちはこの危機を乗り切ることができると信じることはとても重要です。その自負がないと、最初の一撃で踏みつぶされてしまうからです。

何が起きても自分たちは対応してみせるという覚悟をもった組織は最初の一撃に踏みとどまることができます。

そして、日常からしっかりとした危機管理をしてきた組織であれば、トップのもとに一丸となって態勢を固め、次々に変化していく情勢に対応しつつ、その目まぐるしく変化するする状況の中に機会を見出して反撃に転じていきます。

そのためには何としても最初の一撃に耐えることが必要で、それを可能とするのが自分たちにはそれが可能であると信じることなのです。

韓国海軍の必勝の信念の醸成法

昨年の射撃管制用レーダー波の照射事案で関係がギクシャクしている韓国海軍ですが、この連中を見ていると面白いことに気が付きます。

士官は別ですが、下士官以下の兵たちが士官に敬礼するとき、必ず何かつぶやくのです。何と言っているのかとよく聞いていると、「ピルスン」とか「チュンソン」と言っています。「必勝」「忠誠」という意味です。敬礼するたびにこれらの掛け声を合言葉のようにして発声するのです。

朝8時に国旗が揚がるまでは「お早うございます。」と言いますが、それ以後は黙って敬礼するだけの海上自衛隊から見ると韓国海軍の敬礼には違和感があるのですが、よく考えると、これは案外いい方法かもしれません。「必勝」の信念や国家への「忠誠」を強制的に深層心理に刷り込んでいく効果があるはずです。(ちなみに彼らは私のような外国士官に敬礼するときには黙って敬礼します。外国の士官にこれを言うと喧嘩を売ることになりますからね。)

勝つと思うな?

私が中学に進学して柔道を習い始める少し前、日本では美空ひばりさんが歌う『柔』という歌が流行していました。

この曲は「勝つと思うな。思えば負けよ。」と朗々と歌うのです。私が演歌が嫌いになったのはこれが原因です。

中学で柔道部に入った私は試合に臨むに際し、「絶対に勝つと思わずにどうして勝てるのだろう?」と素朴に思っていました。

この辺の事情について、かつてメールマガジンに書いたことがあります。
メールマガジン指揮官の休日 No.098 カラオケはお好きですか?

勝つと信じることができるようになるには

それでは危機管理に臨む経営者や経営トップはどうすれば自分たちには危機を克服することができるという自信を持つことができるのでしょうか。

ナポレオンや織田信長のような天性の才能は必要ありません。

人は経験から学ぶことができます。

それではどうすれば首相は一国を揺るがすような国家的な危機を何度も経験することができるのでしょうか。あるいは経営陣はリーマンショックなどの経営環境の激変をどうすれば実体験することができるのでしょうか。

その答えが「図上演習」です。

図上演習についてはすでに当コラムで何回かご紹介しておりますので、そちらをお読みいただければどのようなものかお分かりいただけます。

また、弊社ウェブサイトの「図上演習」のページにも詳しく解説しております。

これらをお読みいただければお分かりになりますが、図上演習を繰り返すことにより、あらゆる事態に対応することができるという覚悟や自信を持つことができるばかりでなく、その企画運営にあたるスタッフが、危機管理上の事態において経営トップをしっかりと支える人材に育っていきます。

またせっかく作られたBCPがどの程度のリスクにまで対応できるものであるのか、いわゆるBCPのストレスチェックも行うことができます。

さらに、図上演習は危機管理上の事態に留まらず、あらゆる意思決定に際して、その決定に際しても問題点を確認するための唯一のツールとなります。

この図上演習の使い方について、日本コンサルティング推進機構の機関誌に連載した記事をまとめて小冊子としたものが最近発行されました。

amazon等でもお買い求めになれますので、ご関心をお持ちの方はこちらもお読みいただければ幸いです。
『知らないと損をする経営トップのための「図上演習」活用術』 林 祐著 日本コンサルティング推進機構