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専門コラム「指揮官の決断」

第292回 

終戦、休戦、停戦

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またも『ウソだったのか!!』

常日頃、メディア批判を繰り返している当コラムですが、テレビを全く観ないわけではありません。しかし、たまにテレビを観るとろくなことがありません。

テレビ朝日の「池上彰のニュースそうだったのか!!」という番組をたまたま観てしまいました。観ようと思って観たのではなく、何気なくスイッチをオンにしていたら放映されていたということなのですが、ウクライナ情勢に触れた後、停戦・休戦・終戦という言葉の違いについて池上彰氏が解説をしているのが目に入りました。

曰く、終戦というのは交戦国間が平和条約を結び戦争を止めること、休戦というのはその終戦を前提として比較的長期間にわたって戦闘行為を中止すること、停戦はとにかく戦闘を中止することなのだそうです。

もともとこの池上彰氏という人の解説は間違いであることが多く、私たちは「池上彰のニュースうそだったのか?」と呼んでいるのですが、それくらい酷い解説が目につきます。

特に彼は経済に関して不勉強が目立ち、当コラムでもその過ちを指摘したことがあります。

一昨年の今頃のことですが、池上氏が彼の番組で、コロナウイルス対策の財政政策についての解説をしたことがありました。その中で池上氏は管理通貨制度について言及し、日本銀行券は価値のあるものと交換でなければ発行できず、昔は金、現在では国債を持っていることが条件であると説明されました。

念のために録画を繰り返して観ましたが間違いなくそう発言されています。

大学で財政学の入門的講義を受講した経済学部の1年生なら、この程度の理解をしている学生もいるかもしれませんが、Aを取ることはできません。

管理通貨制度はそのような有形資産の裏付けを必要としません。だから理論的には無制限に発行するとハイパーインフレを引き起こす恐れがあるため、通貨の発行量を政策的にしっかりと決める必要があるよね、というのが管理通貨制度の議論なのです。

多分、池上氏はその程度のこともご存じなかったのかもしれませんが、日本がいまだに金本位制度ではないにしろ、国債を持っていないと通貨が発行できない国であるとの認識はいくらなんでもひどすぎます。

もともと池上氏の財政、金融に関する解説は過ちが多く、日銀が国債を買う原資は私たち国民や企業が銀行に預けてある預金を銀行が日銀に預託して、それを原資としていると説明されたこともあります。これも間違いで、日銀当座預金からそれに見合う金額が国に移るだけなので、当座預金に市中銀行に私たちが預けた預金が入っていないとは言いませんが、それだけではなく、様々な預入がありますので、この表現は正確ではありません。

要するに池上氏は日銀が日々いかなるオペレーションを行っているのかまったく理解していないのです。

しかし、恐ろしいことに私たちが社会で起きていることを知ろうとするとニュースやワイドショー以外にソースがなく、また、それを理解しようとすると、そこに登場する識者と言われる人々に頼らざるを得ないのです。

池上氏の解説はその分かりやすさから、多くの視聴者が信じ込んでしまうでしょう。しかし、彼は財政学や金融論に関する基本的知識を持っていないので、うっかり納得してはいけません。

放置できない

この度の終戦・休戦・停戦の解説にも大きな誤りがあります。池上氏の解説などどうでもいいのですが、しかし、彼の解説を信じてしまう人が多いので、明らかに誤りであることに気付きながら看過するわけにもいかず、この度、ちょっと解説を試みることにした次第です。

何が間違いかと言えば、終戦と休戦の意味が間違いであり、停戦については誤りとは言えないという状況にあるということです。

終戦とは

終戦は国家間での戦争を終わらせることであることは間違いではないのですが、別に平和条約など結ばなくとも終戦状態に入ることは可能ですし、むしろ平和条約というのは両国間に戦争がなくなったということではなく、両国が平和に向かっていくことに合意したということですので、単に戦争を終わらせたということよりも一歩踏み込んだ意味を持ちます。

戦争は一方が降伏文書に調印すれば正式に終わり、それをもって終戦ということができます。つまり平和条約は必要不可欠ではありません。

1945年9月2日、日本国政府の代表団は米海軍軍艦「ミズーリ」艦上で降伏文書に調印しました。これをもって戦争は終わっているのですが、連合国との間で平和条約が結ばれるのは6年後の1951年9月です。

因みに、8月15日を終戦の日とすることは国際法上からは誤りです。政府もこの日を終戦とはしておらず、公的には「戦没者を追悼し平和を祈念する日」としており、終戦記念日などと称しているのはメディアです。国際法上終戦となるのは、米国海軍軍艦ミズーリ号艦上で日本政府代表が降伏文書にサインをした9月2日です。

したがって欧米では第二次世界大戦が終わったのは9月2日とするのが共通認識です。

それでは休戦とは

また、池上氏の「終戦を前提として比較的長期間にわたって戦闘行為を中止すること」という休戦の解釈も誤りです。ネット上ではそのような説明がされていることがほとんどで、池上氏もそれらを読んだうえでの解説なのかもしれませんが、「休戦」はハーグ陸戦条約において定義がなされています。

具体的には「交戦当事者間の合意をもって作戦行動を停止するものとする」と規定され、両当事者間の合意に基づいて戦闘が中止されるのが休戦です。

これは目的が終戦のための交渉をするとかいうレベルの話でなくても構いません。現実的には、両軍の間に戦傷者が多く横たわっている場合など、軍使を送ってしばらくの間戦闘を中止して戦傷者や戦死者の収容を行うことなどに合意することも休戦と呼ばれます。

この時、休戦の交渉をするために派遣される軍使が掲げるのが白旗であり、白旗を掲げた一団の指揮官、旗手、ラッパ手などは不可侵とされ、攻撃してはならないことがハーグ陸戦条約に定められています。当コラムではかつて「白旗」は降伏ではないと解説したことがあり、ご記憶の方もいらっしゃるかと存じます。つまり、敵に降伏を勧告する軍使も白旗を掲げるのです。

一方で、終戦のために戦闘を停止しても休戦ではない場合もあります。

1945年8月15日という日はポツダム宣言を受諾した日であり、日本が無条件降伏をする意思を示した日です。そのため実施されたのは連合軍による停戦であり、日本では陸軍と海軍がそれぞれの部隊に対して停戦と武装解除を命令しています。しかし、連合国と日本の間に休戦協定は結ばれていません。つまり、降伏文書への調印までの間は「停戦」状態であったのであり、「休戦」していたのではありません。

池上氏の終戦に向けて比較的長期間にわたって戦闘行為を中止することが休戦ということが誤りであることがここでも分かります。

停戦とは

「停戦」というのは戦闘を中止することですから、休戦の合意が出来た結果として停戦することもありますし、そうでない場合もあります。

かつてはキリスト教国側が一方的に「クリスマス停戦」として戦闘行為を中止して、相手側もその間戦闘行動を中止していたこともあります。

最近では「オリンピック休戦」という言葉がお耳に馴染みかもしれません。これはオリンピック・パラリンピック前年に開催国が提案国となって国際連合決議として採択されるものです。古代オリンピックでも開催時期の前後7日間を含んで争っていた国々が停戦をしたという故事に倣ったものと言われています。

つまり、国際法上からは紛争国間あるいは両軍の合意に基づいて戦闘行動が中止されるのが「休戦」であり、それはハーグ陸戦条約を読めばすぐに分かることです。同条約は56条しかありませんから、国際法の面倒な講義を聴く必要もありません。

付け焼刃でものを言うな!

池上氏はその程度のことも知らずにテレビで堂々と解説をするのが困りものです。

彼はどこかの大学の特任教授も務めているようですが、この程度の教員に教えられる学生が可哀そうです。

筆者も母校上智大学の非常勤講師として教えたことがありますが、学生は乾いたスポンジが水を吸い込むように吸収してしまうので、教えるということの怖ろしさを思い知った経験でした。このため、毎回100分の自分の講義のための準備とファクトチェックに3日くらいかかりました。常勤の教員ならいいでしょうが、非常勤講師というのは他に仕事を持っていますので、この手間は大変な負担になります。

それでもリアクションペーパーを書いてくる学生が可愛いから一生懸命にやるですが、とにかく非常勤講師は最初の年は大変な思いをするはずです。

池上氏もせめて知ったかぶりをせずに、自分の知らないことは解説しなければいいのですが、にわか勉強なのがすぐにばれてしまっています。この態度は無責任極まるものと言えます。

せめて専門の大学の研究者などに教えてもらえばいいのでしょうが、多分、ネットでにわか勉強をするのでしょう。ネット上での誤った見解をそのまま解説してしまっています。

繰り返しますが、テレビ番組というのはそのレベルであることを理解して観ていないと世の中で起きていることを誤って理解してしまうおそれがあります。