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専門コラム「指揮官の決断」

第297回 

危機管理とは何をするマネジメントなのか その6

カテゴリ:危機管理

特別な秘密があるわけではありません

そもそも危機管理とは何をするマネジメントなのかという根本的な問題に立ち返って解説を続けてきました。

ここまで読んでこられた経営者の方々やまじめに経営を考えている管理職の方々はがっかりされているものと拝察いたします。

それは、筆者が危機管理とは何かと言いながら、何ら特別なことを申し上げていないからです。おそらく、何を当たり前のことを言っているんだと思っておられることと存じます。

これまで5回にわたって書いてきた当人が言うのも変なのですが、そのとおりです。

はじめに危機管理とリスクマネジメントは別物ですよ、という話をした後に、意思決定、リーダーシップ、プロトコールの話をしてきました。

環境の変化に対応する意思決定、トップを中心として一丸となるようなリーダーシップ、外部から信頼される組織が大切、と述べてきたのですが、当たり前すぎてコメントするのも面倒です。

岸田首相が「危機管理の要諦は、最悪に事態を想定し、それに備えること。」と述べていることは間違いであるということは当コラムですでに何回も指摘してきたとおりです。

何度もお伝えしていますが、想定できるなら危機ではなく危険性であり、それはリスクマネジメントの問題です。

危機管理(クライシスマネジメント)は想定外の出来事に対応するマネジメントです。

そして危機管理とは「当たり前のことをきちんとやる。」ということなのであり、何か特別な魔法や呪文があるわけではありません。

危機管理専門の部門を作ることも間違いです。少なくとも危機管理の指揮権をその部門長に委任してはなりません。それはトップの専管事項です。

セミナーでは説明しているのですが・・・

実は弊社ではこのところ、新たな危機管理のコンサルティングをお受けしていません。

コロナ禍で多くの企業が活動を停滞させ、経営が極めて厳しくなることが予想された一昨年の今ころ、かつて弊社のセミナーを受講された何人かの経営者の方々から相談があるとの連絡をいただきました。

これらのご相談は筆者の元に届くことなく、門前払いされてしまいました。

筆者はセミナーで、危機管理において重要なことは経営者が覚悟を持つこと、そしてその覚悟を支えるためのマネジメントを常日頃から実践することとお伝えしています。それができていれば、危機管理上の事態においても毅然と対応でき、むしろその危機的状況の中に機会を見出すことができるということを学んでいただいていました。

ところがコロナ禍でご相談をされてくる経営者というのはどういう方かと言うと、経営が危うくなってうろたえて、何とかして欲しいという発想をされている方なのです。

弊社のコンサルティングをコロナ以前に受けられた経営者は、このコロナ禍において業績を伸ばしています。コロナ禍において、大きなチャンスが巡ってくることを信じていたからです。

コロナ禍でうろたえて相談の連絡をしてこられても、契約は受けることができないので、筆者に取り次がれることはありません。

セミナーを受講しなくても理解される方はいます

弊社で新たなコンサルティングをお受けしていないのにはいろいろな理由があるのですが、危機管理のコンサルティングは、案件ごとに非常に時間と労力がかかるため、同時に何件も受注できないというのも理由の一つです。現在はある医療機関のコンサルティングのみを実施しています。

この医療機関はコロナ禍の始まる直前にご相談を頂いてコンサルティングを開始したのですが、その始まり方はちょっと印象的でした。

コロナ禍の騒ぎが始まる直前の年末に理事長からメールを頂いてお目にかかりにそのクリニックに伺ったのですが、理事長は筆者の著書を読んでおられ、以後その医療法人の経営を若手の幹部職員に委ねたいので、彼らを教育して欲しいとおっしゃるのです。

拙著はタイトルに「クライシスマネジメント」と明確に記載され、危機管理をテーマにしたものです。しかし、理事長はその拙著が単に危機管理のノウハウについて書かれたものではなく、経営者が実践すべきマネジメントについて書かれたものであることを見抜いておられたということです。

筆者はその理事長の慧眼に感心してコンサルティングを引き受けることをお約束した次第でした。

危機に直面してからでは手遅れ

一方で、経営が危機に直面してうろたえ、なんとかならないかと相談をされても、それは受けることができません。経営者に覚悟がなく、しっかりとしたマネジメントが行われていないからであり、その覚悟を持っていただき、しっかりとしたマネジメントが実践できるようになるには時間を要するからです。

その態勢ができていれば、そもそも危機的状況に陥りにくい体質ができているはずなのです。そのような態勢を構築するには時間がかかり、したがって、危機に直面してからでは手遅れなのです。

したがって、そのようなご相談は筆者のところまで届くことがありません。

また、弊社ではコンサルティングをお申し込みの方は、弊社のセミナーを受講された方に限らせて頂いています。それは、危機管理のための特別な仕組みや魔法のようなものを期待されると困るからです。経営者であれば当たり前だと思われることしかお伝えしないので、そのようなコンサルティングになることを事前にご理解頂かないと詐欺師扱いされて困るからです。

ところがそのセミナーをここ数年開催しておりませんので、セミナー受講を前提とするコンサルティングにお申込みになることができないという事情が続いています。

これまでの経験上、一度にいくつもの契約を受託すると業務の質を保つのに苦労することと、危機管理の性質上、複数のクライアントが同じ原因で危機的状況に立たされることがあり、同時並行の対応ができないことを承知していますので、現在取り組んでいるプロジェクト以外のコンサルティングをお受けできていません。

コンサルティングを受けなくても大丈夫ですよ

弊社のコンサルティングの基本は拙著ですので、そちらをお読みいただければ特にコンサルティングをお受けになる必要もないかと思われます。

コンサルティングをお受けいただいても、特別な魔法はありませんし、アッと驚くようなノウハウを伝授するということもありません。経営トップの覚悟を問われ、経営の理念が確認され、普段見慣れている自分たちの業務や立ち振る舞いの中に問題点などが指摘されるだけかもしれません。

ただし、危機管理上の事態において経営トップは、少ない情報の中で次々に様々な意思決定を行っていかねばならず、しかもその決定は間違ってはならないという立場に立たされますが、その意思決定を正しく行うための合理的・論理的な意思決定の手法については懇切ていねいな解説が行われます。これだけでも弊社のコンサルティングを受けられる価値は十分にあるのですが、実はこれもネット上で勉強していただくことはできます。

米海軍のウェブサイトでNWP5.01という文書が公開されており、弊社のコンサルティングはこのNWP5.01を分かりやすく解説しているだけです。

この文書は、米海軍の作戦計画の立て方を説明しているものであり、米海軍が広く勉強してもらうために、あえて秘文書に指定せず、ウェブ上で公開しているものです。

必要なのは・・・

つまり、危機管理というものは、何か特別なマネジメントや秘密のシステムのようなものがあるというものではなく、経営者が日常からやっておかなければならないマネジメントを、丹念に手を抜かずに行っていくというだけのことです。

必要なのは経営者の覚悟です。