専門コラム「指揮官の決断」
第327回明けましておめでとうございます
はじめに
年頭に当たり、旧年中に賜りましたご意見あるいはご声援に感謝申し上げますとともに、本年も変わらずのご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
当コラムは危機管理の専門コラムとして、皆様に様々な角度から危機管理を考えて頂く機会になればと考えて執筆を続けてまいりました。
その数もすでに300回を超え、いささか「書き散らしてきた感」が強くなっております。
そこで、新年に当たり、コラム編纂の方針を見直し、新たな態勢と覚悟を持って執筆を続けていくことにいたしました。
今回は今後当コラムがどう変わっていくのかをご説明させて頂きます。
基本方針
当コラムが危機管理の専門コラムであることを変えるつもりはございません。
あくまでも危機管理論の観点から世の中を見回していくという基本姿勢は堅持いたします。
また、方法論へのこだわりも捨てるつもりはありません。科学的・論理的な方法論を踏み外すことなく、事実による検証もしくは論理の一貫性を重視してまいります。
バックエンドは置かない
通常、コンサルタントがウェブサイトに掲載するコラムは、バックエンドの商品への誘導が目的です。自分のコンサルティングへ誘導するか、あるいはセミナーへの勧誘、または教材等の販売というバックエンドが控えております。
当コラムをお読み頂いている読者の皆様はお気づきかと存じますが、弊社のコラムはバックエンドの商品を置いておりません。
時々、図上演習について触れることがありますが、これは「図上演習」という手法が極めて優れた戦略的な武器となることをご理解頂きたいという思いから綴っているものであり、その普及を目指していることは事実であり、それがバックエンドだというご指摘があれば甘んじて受けることもやぶさかではありません。
図上演習そのものを指導するコンサルティングファームがないということではありませんし、損害保険会社などでは実際に図上演習の指導を行っております。しかし、弊社のように、図上演習の企画・運営を自分たちでできるようになることを目的としたコンサルティングを行っているのは、筆者の知る限りこの国には弊社しかありません。
したがって、これがバックエンドであると言われれば、肯定せざるを得ないのですが、しかし当コラムの目的はバックエンド商品の販売にあるのではなく、危機管理という考え方の啓蒙にあります。
この社会にまん延している危機管理についての誤解を解き、皆様が正しく危機管理というマネジメントを理解し、強靭な社会が作られることが弊社コラムの目指すところです。
専門性の重視
専門コラムという性格上、専門外の領域に踏み込むことには臆病になります。専門領域をいい加減にしないということがいかに大変なことかを痛いほど知る弊社にとって、専門外の領域に踏み込むということの怖ろしさは耐えがたいほどであるからです。
体系性を意識した編纂
さて、いろいろな思いをもって書き綴ってまいりましたコラムですが、300号を超える本数になった現在、最初の頃のコラムから整理してみると、その体系に筋が通っていないことが目につきます。
特に一昨年からは、コロナ禍を巡るメディアと感染症専門家たちの出鱈目さに呆れた記事が多く、それはそれでこのコロナ禍を正しく認識して頂くために必要かと考えて執筆しておりましたが、どうも週刊誌的になってしまっている感がぬぐえません。
そこで、年が新たになったことを契機に、今後の当コラムの編纂方針を定めることといたしました。
今後、当コラムは二つの体系の下に執筆を続けてまいります。
一つは「危機管理」の概念を正しくご理解頂くための教科書的なコラムであり、もう一方は、危機管理論から世の中を見るとどう考えるかという視点からのコラムとなります。
前者はまとめてプリントアウトして綴じれば一冊の危機管理の教科書になるように作っていきたいと考えています。これまでも、時々試みては、様々な出来事が起きて、そちらへの対応をしているうちに疎かになってしまってきた試みですが、今後は通し番号を付けて、その体系性がご理解頂けるようにしたいと考えています。
まだ全体の目次体系などができておりませんので、番号が前後することがあるかもしれませんが、その番号により、本来どこに位置すべき話題なのかが明らかになるようにしていく予定です。
後者は、あくまでも危機管理論という学際的な学問領域から世の中の様々な事象を見るとどう見えるのかという視点を大切にし、特に学生がそれぞれの専門領域から世の中を見る際に、さらに一歩進んで、こういう見方もあることを知っていて欲しいと思うような内容にしたいと考えています。一昨年、母校の非常勤講師として「危機管理論」の入門的講義を行いましたが、その際に気を付けていたのがこの点でした。
筆者の専門は組織論、特に意思決定論ですが、読む方の専門が何であっても構いません。ただ、危機管理の視点というものを持っていただければ、御自分の専門を基礎にして、そこから危機管理の視点で世の中を見るといろいろなことが分かるということを理解して頂ければいいかと考えています。
危機管理「学」と「論」
昨年末に日本海側の豪雪に関してコメントをしていたある大学の教授の専門が「危機管理学」と紹介されていました。大学にも「危機管理学部」を置いている大学がいくつかあります。
しかし、筆者は「危機管理論」という呼び方はしておりますが、「危機管理学」と述べることはありません。
一昨年、母校上智大学で非常勤講師として開講した科目も「危機管理論入門講義」でした。
これには理由があり、「危機管理」の専門領域はまだ「学」と呼べるほどの体系を持っていないとの認識が筆者にあるからです。
独立した学問分野には特化した関心領域が明確にされています。「学」と呼ばれるのは、それら特化した関心領域において研究された理論に基づいて体系づけられた知識と研究方法であり、この国において危機管理はまだその地位を獲得していません。
極端な話をすれば、危機管理とリスクマネジメントの違いすら認識していない研究者がいるくらいであり、自分たちの研究領域が何であるのかすら理解されていない状態です。
様々な現象や事実を統一的に説明できる体系的な知識や明確に定義された概念を用いて定式化された法則や仮説を組み合わせることによって形作られた演繹的体系を持たないものを「学」とは呼びません。
危機管理論は、その意味ではまだ未成熟であり、現在、学際的研究が行われているところです。発祥は国際関係論でしたが、それが企業経営に応用されたり、防災や防犯の分野への展開が図られており、一層学際的研究の色彩が強くなっています。
しかし、未だ研究対象が明確に定義されずにいるところを見ると、まだ初期の揺籃期を脱していないのだろうと思われます。
イージスの危機管理論
弊社の危機管理論は方法論的には意思決定論に立脚し、企業や国や地方の行政府、その他の組織における危機管理を関心の対象として参ります。時には社会全体を関心の対象とすることもあるかと考えます。
そもそもが学際的研究であるため、周辺領域における研究成果はできるだけ活用してまいります。それらを紹介していくことも皆様の理解を深める一助になるかと考えております。
したがいまして、国際関係論や安全保障論などはそもそもの危機管理の対象とする領域を考える際に必要な周辺領域でありますし、社会全体を考える際には社会心理学、認知心理学あるいは財政学、金融論などの周辺領域の研究成果を生かしていきたいと思っています。
さらに企業などの具体的な経営主体を観察する際には、それぞれの操業分野における様々な知見を利用してまいります。
弊社が比較的得意とする数理社会学的な分析手法については、分かりやすい解説に努め、数学に対してアナフィラキシーショックを覚える方々にもご理解頂ける内容にしていこうと考えております。
弊社からのお願い
以上、今後のコラム編纂についての考え方について説明させて頂きました。ここ2年程度、記事が時事評論的色彩を帯び、ジャーナリスティックになってきているという反省の下に方針を見直したものではありますが、若干アカデミックな色彩が強くなるかと自分たちで期待しております。
コラムを読んでいただいている方々には、筆者の知る限り、社会で様々な分野でご活躍をされてきた方、あるいは現役でご活躍中の方々が多くいらっしゃいます。
どうか、弊社コラムに忌憚のないご意見をお寄せいただき、ご指導を賜ることができればと思っております。
このコラムが少しでも質の高いものに昇華され、この国がしなやかで強靭な社会を創っていくことに貢献できれば幸甚に存じます。
そのためにも、皆様のご指導ご鞭撻のほどをお願い申し上げます。