専門コラム「指揮官の決断」
第329回コロナ禍の実相
危機管理の観点から社会を眺めると・・・
今年から新しく当コラムの編纂方針を定め、前回は危機管理論入門のイントロダクションをアップいたしました。
今回は理論の実践面であるところの、危機管理論の立場から世の中を見るとどう見えるかという、新編纂方針の二本柱のもう一方についての議論を展開いたします。
現在、私たちの社会が取り組まなければならない危機管理上の問題は数多くあるのですが、第一回としては一番身近なコロナ禍を取り上げます。
当コラムでは2020年の早い時期からコロナ禍を巡る報道の在り方について疑問を呈してきました。また、公衆衛生学や感染症専門家のコメントについて、社会科学の側面から見ると理論的にいかがなものかという議論を繰り返してきました。
それらの記事はバックナンバーでお読みいただけますが、何を問題視してきたかを手短にまとめると以下のようになります。
報道姿勢
まず、報道が明らかに誤っていることが多いことです。
代表的な事例は、共同通信が配信して新聞各紙、テレビ各局がそのまま報道した東京大学の研究チームの論文についての報道です。この論文はエール大学の健康科学に関する査読前の論文が集められているサイトに発表されていたのですが、共同通信はこの論文において、コロナ感染者数とGoToトラベル事業参加者の数に関して関係があることが統計学的に証明されたと報道しました。各紙・各局は一斉にその記事をそのまま配信しました。
弊社でその論文を読んでみたところ、統計学的な証明はなされておらず、執筆した研究者チームもその証明をしていないことを認識しているので、論文中に統計学的証明であるという記述はどこにもないことが分かりました。統計学的な証明ではなく、関連性があるかもしれないという論文です。
しかし、共同通信の記者は英語が読めないのか統計学の初歩を理解していないのかどちらか、あるいは両方なのかもしれませんが、それを統計学的証明だと理解して配信したようです。さらに酷いのは新聞やテレビ局です。共同通信の配信をそのまま何の確認もせずにコピー&ペーストで報道しています。彼らに言わせると共同通信がそのような配信をしましたよというニュースだということなのでしょうが、ファクトチェックも一切行わず、報道するという出鱈目さ加減です。
感染症の専門家とは
感染症の専門家と言われる人々のコメントについても批判を繰り返してきました。
まず指摘したのは、彼らが致死率の計算方法すら理解できていないということです。
当初、テレビ各局に出演していた某女性教授が致死率3%と言い始めたところ、感染症の専門家たちも一斉に致死率3%と言い出すようになりました。
筆者は2020年の5月頃、この数字を直感的には大きすぎないかと考えてはいましたが、しかしデータがないのでその直感を裏付ける計算ができずにいました。
ところが2021年になって、その某女性教授が「致死率が1.5%に下がったとは言え、依然としておそろしい感染症であることに変わりはない。」と言い出すに及んで、「これは絶対に間違っている。」と考え、データを集めて検証を始めました。
検証は二通り行いました。
まず、なぜ彼女が3%や1.5%という計算をしたのかという点です。もう一つは、それでは正しい致死率はどのくらいなのかという点です。
先の点については、入手できるあらゆるデータを使って計算をしましたが、2020年の初期段階での3%、一年後の1.5%という数字を出すことができませんでした。
万策尽きて、何の気なしに目の前にある数字をエクセルに放り込んだところ、それが当初の3%と一年後の1.5%を示したので唖然とした次第です。
この間違いについてはかつて当コラムで指摘していますが、ここで簡単に説明をさせていただきます。
弊社の推定ですが、彼女の致死率の計算は、分子に一定の期間における全国のコロナ死者数を用い、分母に同期間におけるPCR検査陽性者数を用いています。そうでなければあの数字は算出されません。
全国のコロナ死者数というのはWHOから示された計算方法を使っているので、必ずしもコロナに罹患して肺炎を発症して亡くなった人数ではなく、自殺でも交通事故でも検視の結果コロナウィルスが検出されればコロナ死とカウントされるので、現実よりも分子が大きくなり、致死率が過剰に計算されることは否めないのですが、それは制度がそうなっているから仕方なくありません。
問題は分母にPCR検査陽性者数を使っていることです。
これはPCR検査を受けて陽性になった人数でしかありません。一方のコロナ死者数は全国の死者数です。分子に全国の死者数を用いるのであれば、分母は全国の陽性者数でなければなりません。逆に、分母がPCR検査陽性者数であるなら、分子はPCR検査を受けて陽性になり、その後死亡した人数でなければならないはずです。
分子に全国の死者数をカウントし、分母に検査を受けて陽性になった人数をカウントすると分子の割合が極端に大きくなってしまいます。
ところが、全国民が定期的にPCR検査を受けているわけではないので、全国の陽性者数は分かりません。また、検査を受けて陽性になり、その後重篤化して亡くなった人の追跡もされていないので、検査陽性から亡くなった方の数も分かりません。
ということで、簡単に致死率は計算できないのですが、方法がないわけではありません。
2021年、弊社では世田谷区が区内の介護施設職員5000人に対してPCR検査を行った結果というデータを入手しました。陽性者は50人だったそうです。1%です。
これを全国に当てはめると、日本国民全体では130万人くらいが陽性であると推定できます。介護施設職員は感染対策にはかなり気を使っている方々でしょうから、一般の人々では1%ではなく、5%くらいが陽性であっても不思議はないかもしれません。しかし、それを裏付けるデータがありませんので、とりあえず1%という数字で計算してみると致死率は0.15%でした。
この数字は例年のインフルエンザの致死率より若干低い値です。つまり、2020年の時点で致死率はインフルエンザとそう変わっていない感染症だったのです。
ところが、政府の専門家会議もアドバイザリーボードも騒ぎ続け、立て続けに緊急事態宣言が出されました。
2020年はまだ新型コロナが未知のウィルスであり、ワクチンもなく、治療法も模索が続いており、医療機関でも混乱が生じていた状況ですから仕方ないとして、2021年になっても何も学ばず、報道は出鱈目で視聴率稼ぎのために不安を煽る報道だけがなされました。
感染症専門家もその場しのぎの根拠のないコメントを繰り返しました。
政府の実情
政府の対応も出鱈目でした。2年遅れてオリンピックを開催するにあたり、「日本は大丈夫です。しっかりと対応してオリンピックを開催します。」と宣言するのではなく、宣言したのは緊急事態でした。
緊急事態を宣言しておきながら、当時の萩生田文科省大臣はスーパーコンピュータ「富岳」が適切に入場者を管理すれば大きな問題なく開催できるというシミュレーション結果を出したことを受け、「オリンピックを開催しても問題がないということが科学的に証明された。」と記者に答えています。
怖ろしいことに、コンピュータのシミュレーションと科学的証明の関係が理解できないオツムがこの国の文部科学行政のトップにいたのです。
アドバイザリーボードの無能さ加減
さて、コロナ第8波を受けて、この国の対応も変化しつつあります。この年末年始は規制がありませんでした。また、感染症法の2類から5類への分類替えも議論されています。
この期に及んで感染症専門家たちは陽性者数及び死者数が過去最高を更新し続けていることに警鐘を鳴らし続けています。
当コラムも新型コロナウィルス感染症が怖くないと述べたことは一度もありません。罹患すると恐ろしい病です。ただ、当コラムは正しく怖れよと主張してきているにすぎません。
陽性判定者数が増え続けているのも無理はありません。弊社の専門外ですが、実際に感染力が強いウィルスになっているのでしょうし、冬になれば呼吸器系の感染症は拡がりやすくなります。
また、当初のように一定体温の発熱が4日以上続かないと検査を受けられなかった頃と異なり、いたるところで簡単に検査が受けられますし、在宅でも検査することができるキットすら売られています。つまり検査を受ける人の数が桁数が何桁も異なるくらい多いのです。
ところが2類から5類の分類替えの根拠にある考え方には重大な事実誤認があるのですが、これが一般に知られていません。
今回はその解説をしたいと思います。
昨年末12月21日に厚労省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが提出した資料を入手しました。そこに致死率に関する考察が述べられており、インフルエンザによる致死率を下回ったことが記述されています。
ところが、この専門家の集まりが出している資料がとても専門家の検討とは思えないお粗末さなのです。
各クリニックの負担軽減のため、コロナ感染症に関する全数報告が取りやめられ、高齢者のみの報告とされ、後は人数の報告しかされなくなったことを受け、このアドバイザリーボードの検討は、データ提供の協力を得ることができた石川県、茨城県、広島県のデータを使用しているという注意書きがあります。
これは問題ではありません。3つの県のデータから全国のデータを推計することはそれほど困難なことではありません。各県に特有な医療上の考慮さえすれば統計学的手法の適用が可能です。
しかし、問題はその次の点です。
「死亡者数は、COVID-19の陽性者であって、死因を問わず亡くなった者を計上している。 本データは感染者が療養及び入院期間が終了した際のステータス又は期間の終了日から30日経過した時点でのステータスに基づき算出しており・・・」となっています。
一方、インフルエンザについては「2017年9月~2020年8月までに診断または抗インフル薬を処方された患者のうち、28日以内に死亡または 重症化(死亡)した者の割合を重症化率(致死率)と定義。」としています。
面倒なので簡単に説明しますね。
新型コロナに関しては死因を問わず、亡くなった時点で陽性であれば死者数としてカウントする。一方、陽性者数は感染者が治療中または治療が終わってから30日経過した時点の数をカウントしているということです。
そしてインフルエンザについては、インフルエンザと診断され、あるいは投薬を受けた患者のうち、28日以内に死亡した人数を死者数とすると自ら定義しています。
つまり、コロナに関しては陽性と判定された人数を分母に、全国のコロナ死と認定された人数を分子とするという過ちを踏襲しており、インフルエンザについてはインフルエンザと認定された人数を母数に、その中で亡くなった人数を分子とするという計算方法を用いています。
アドバイザーボードは両者の計算方法を併記しておきながら、その違いを理解できず、コロナの致死率の計算方法が間違っているのを認識していないようです。
彼らの統計に関する認識が低すぎるのです。それが顕著に現れたのが、新型コロナ受診患者の全数報告の廃止です。
これは個人クリニックなどにおける過剰な負担となっていた全数報告のために医師が疲労しきって肝心の診療が阻害されるという本末転倒を避けるために行われた措置であり、一定の高齢者のみの報告を行い、その他については数だけを報告するようにしたものです。
あっさりと全数報告を廃止してしまったことは各クリニックの医師たちが診療終了後、貴重な睡眠時間を削って報告していたデータを専門家たちや厚労省が利用していなかったことを示しています。重要なデータであるという認識があれば、あっさり廃止にするはずはありません。
また、彼らは統計学というものを知らないのでしょう。全数報告が負担が大きいのであれば、受診順に10人に一人の報告でもよかったはずです。10分の一の報告でも、全体の趨勢を見極めるのに何ら支障はありません。つまり、彼らには統計学的に推測するという発想がないのです。
社会科学の立場から見ると
弊社は感染症の医学的な問題に関しては素人の議論しかできませんが、感染症専門家たちの行っている計算については、ある程度考察することができるだろうと考えて検討を続けてきました。
その結果、現時点で弊社の得ている感触をお伝えするとすれば、この国の感染症の専門家たちというのは、少なくともテレビに出てコメントしている専門家たちや政府の専門家会合やアドバイザリーボードの議論を聞く限りにおいては、おそろしくレベルの低い集団のように見えます。
最初の緊急事態宣言が出されたころ、当時北海道大学に在籍されていた西浦教授(8割おじさんと呼ばれて有名になりましたので、ご記憶の方も多いかと存じます。)の論文が発表されて大騒ぎになました。
弊社では医学論文ですから専門外だと考えておりましたが、あまりにも騒がれたので読んでみてびっくりしました。医療統計学というのはこの程度のものか・・・ということです。
あれが経済学の論文であれば、修士論文くらいにはなるかもしれませんが、とてもではありませんが、学会に発表できるような代物ではありません。統計学において重要な前提に関する議論がお粗末すぎるのです。
その程度で話題になるのが感染症学の現状です。
コロナ禍とは何だったのか
さて、当コラムなりにこのコロナ禍の実相は何だったのかを考えます。医学的にはいろいろな分析ができるかと考えますが、社会科学の側面から見ると、これは無能な専門家と売り上げ至上主義かつレベルの低すぎるメディアによる人災です。
どちらかがしっかりしていれば、この国の経済はG7で最低の成長率を記録せず、多くの中学生・高校生・大学生が楽しいはずの学園生活を無駄にすることがなかったはずです。
若い人たちが、青春時代の貴重な2年半を閉鎖された空間で生きて行かなければならなかったということは、後にボディブローのように彼らの人生やこの社会に影響を及ぼしてくるでしょう。
この世代に対するカウンセリングが必要かもしれません。