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専門コラム「指揮官の決断」

第333回 

コロナ禍の実相 その3

カテゴリ:危機管理

はじめに

危機管理論の眼で社会に起きている様々な現象を見るとどう映るかという議論を続けます。

今回もコロナ禍を取り上げますが、当コラムは社会科学の領域からの観察に留まっておりますので、対象の全体を見ているということではありません。

その結果、対象の本質を見誤っていることもあるはずですので、お読みになる方はそこにご注意ください。

例えば、エジプトのピラミッドは遠くから見ると3角形に見えますが、実際は四角錘の建造物です。これは注意深く近寄って周りを回ってみるとか、上空から観察するなどの方法によって見ることができる本質ですが、ある方面からのみ観察することの危険性を示すものでもあります。

本稿をお読み頂く際には、その点への留意をお忘れなきようお願いいたします。

コロナ専用病床に関する問題

さて、これまでに2回に渡ってコロナ禍とは何だったのかということについての考察を行ってきました。

まずは、このコロナ禍においてテレビに登場して解説やコメントを繰り返してきた専門家の多くが、この病魔の致死率すらまともに計算できないレベルの連中であったことを指摘し、さらには病床の逼迫と言うのは行政の怠慢以外の何ものでもなく、究極の逼迫に耐えた病院とガランとしていた病院とがあるはずと主張してきました。

今回は、その病床に関して再び考察を加えます。

コロナ禍において、感染した患者を受け入れるということは多くの病院にとっては大きなリスクを抱えることでした。

スタッフも感染する恐れがあり、さらには風評被害にも見舞われます。

このため、感染者を受け入れてもらうために、国は多額の補助金を準備しました。

コロナ病床に交付される補助金

この補助金の算定に際しては次のようなものが考慮されています。

1 医療従事者の人件費

2 院内等での感染拡大防止対策や診療体制確保等に要する経費(賃金、報酬、謝金、会議費、旅費)、需用費(消耗品費、印刷製本費、材料費、光熱水費、燃料費、修繕料、医薬材料費)、役務費(通信運搬費、手数料、保険料)、委託料、使用料・賃借料、備品購入費

これらの要素を勘案し、緊急事態宣言により緊急事態措置を実施すべきとされた区域において重症患者を受け入れることになった病床には1床あたり1950万円を上限として補助されています。重症でない患者の受け入れ病床には1床あたり900万円を上限に補助されています。

緊急事態措置以外の区域においては重症患者は1床あたり1800万円を上限に補助され、

重症者以外の病床には750万円を上限として補助されています。

さらに、協力医療機関においてコロナ感染症疑い患者病床を準備した場合には1床あたり450万が補助されています。

この事業は令和2年度に開始され、当初は重症者病床1500万円程度から始まり、令和3年度に見直され、さらに緊急事態宣言解除後にも一部適用が行われています。

補助金行政の怠慢

弊社ではこの厚労省の施策について当初から文書を受領していたため、すでにお伝えした神奈川県の黒岩知事への辛坊治郎氏のインタビューにおいて、コロナ専用病床が30%埋まっているとして知事が大騒ぎしているのを見て、確かにいろいろ補助金を貰っても30%しか埋まらなかったら経営は大変だろうなと素朴に考えていたのですが、知事が専用ベッドの30%とは言っても即応のベッドから見れば70%が埋まっていると言い出したので心底驚いたのでした。

つまり、補助金を貰って整備したはずのベッドはいつでも入院患者を受け入れることができるということにはなっていないということなのです。具体的にはベッドや施設は準備したものの、医師や看護師が待機しているのではなく、他の患者の治療に当たっているということなのです。黒岩知事が神奈川県はコロナ対応を一生懸命にやっていると豪語していた実態はその程度のものでした。

しかし、さらに驚いたのは、よく調べると別の交付金があったということです。これは「病床確保料」であり、通称「空床補償」と言われる補助金です。

つまり、本来患者を受け入れて得られるはずの収入が減ることがあるため、コロナ患者を受け入れる病院に対して支給されるものです。

この交付金はコロナ病床に医師や看護師を集めたために一般病床を閉鎖したり、複数が入室する病室を個室にしたりして一つの病床を確保するために他の病床を空けたりすることがあるためで、そのような病床で休止せざるを得なかった病床とコロナ病床として確保したにも関わらずコロナ患者が入室せずに空き状態であった病床に対して日額で支払われるものです。

つまり、病院経営として30%の病床使用率で経営が悪化するということはなかったのです。

筆者がホテルのマネージャーだったとして、客室が30%しか埋まっていなかったら大変な思いをしたと考えますが、病院はコロナ専用病床を作ると補助金がもらえ、患者が入院してくると診療費が支払われ、患者が入ってこないと空床補償がもらえるということなのです。

たしかに、そうやって補助金を交付しなければコロナ感染症患者の受け入れなどというリスクの大きな業務に就いてもらえなかったという実情があるでしょう。

また、その金額についても、病院が元から持っていた施設や地域の事情など個別具体的な事情を勘案しなければならず、それは医学そのものの問題ではないにせよ病院経営という特殊な分野の問題であり、当コラムの議論の対象とはなりません。

しかしながら、これらの補助金に関しては、大きな問題が指摘されており、当コラムとしてもその点には関心を持たざるを得ません。

会計検査院の指摘

昨年の11月に会計検査院が国会に対し、この補助金について報告を行っています。

会計検査院の報告はウェブサイトでもご覧になれますが、ちょっと読みにくいという問題があります。

筆者はかつて海上自衛官だった頃、海上幕僚監部の監査官を務めていた時期がありました。海上自衛隊の全部隊に対し監査を行うのですが、部隊の運用や教育・訓練については監察官が担当しますので、監査官は予算の執行や国有財産・物品の管理。補給整備の効率などを監査することになります。さらに、海上自衛隊の部隊が会計検査院の実地検査を受ける場合には立ち会いを行います。

この結果年間140日くらいを出張で過ごすという激務ですが、この間、会計検査院からの照会に対する回答を起案したり、検査において浮上した問題点の取り扱いについて検査院と調整したりという業務を経験していますので、検査院の国会報告は読み慣れています。

この昨年11月の検査院の国会報告を簡単に説明すると、コロナ病床の使用率は「感染が拡大した時期においても平均して6割程度であった。」というものです。

具体的には2021年1月は54.5%、2021年8月は61.2%、2022年2月は61.2%だったということでした。

そして、病床使用率が50%を下回った病院の9割は「そもそも患者受け入れの要請自体が少なかった。」ということであり、1割は「空いている病床はあったが事情があって受け入れの要請を断った。」ということでした。

煽られた結果

私たちの社会は、緊急事態宣言下において、各病院ではコロナ患者が溢れかえって、救急車によって新たな患者が運び込まれてきても受け入れることができず、いくつも病院を何時間もたらいまわしされたのだと思い込んでいますが、実態は9割がたの病院が患者受け入れ要請がなく、病床使用率はピーク時ですら50%を下回っており、1割の病院は半分のベッドは空いていたものの、医師や看護師が別の治療に当たっているために受け入れることができなかったということなのです。

私たちが医療機関は大変な思いをしていると思い込んだのは、不安を煽り続けたメディアの一面的な報道を連日繰り返し繰り返し観せられたからなのでしょう。

弊社が全国のECMOや人工呼吸器の使用状況や重傷者数の推移を見ながら、病床がひっ迫しているはずはないと考えていたのは間違いではありませんでした。

検査院はこの病床の使用率の低さと、もう一件、一つの病床あたりに支払われる金額が適正かどうかという指摘をしてもいるのですが、この点については、先に申し上げたとおり、個別具体的な事情を勘案すべき病院経営の特異な分野に関する問題でありますから、危機管理の専門コラムとしては立ち入りません。

疑問点

当コラムが会計検査院の国会報告を読んで問題とすべきと考えるのは次の二点です。

まず、実態がそのようなものであるにもかかわらず、この3年間、メディアはまったく別の報道をし続けたのは何故かということです。つまり、病床が切迫して医療機関では大変なことになっているという報道は、ごく一部の病院についてのみ事実であり、全体的には真実ではなかったということです。

もう一つは、空床補償などが受給対象の日数を過大に申告した結果55億円程度が不適切に支出されたということであり、さらには会計検査院は指摘しませんでしたが、コロナ専用病床を準備して1床あたりの補助金を得ていながら多くの病院が医師や看護師を適正に配員せず、空床補償を得ながらもそれらスタッフを従来の診療に当たらせ、その結果コロナ患者の受け入れ要請を断り続けてきたということです。

これがコロナ禍の実相

新型コロナに感染して救急搬送され、いくつもの病院をたらいまわしにされ、診察をうけるまでに何時間もかかる例が多発したことは事実でしょう。

何故かというと、消防署には付近の病院の空き病床を一元的に把握できるシステムがなく、現場の救急隊員が電話で各病院と調整しているからです。

しかし、受け入れを断った病院の実態はというと、補助金を貰って整備したベッドの50%が使われておらず、ガランとしていたということです。

新型コロナ感染症は酷い後遺症を伴う恐ろしい病気です。

ただでさえ恐ろしい病気なのに、不安を煽り続けるメディアとそこに材料を提供する能力の低い専門家たちと責任逃れに終始する医療行政によりコロナ禍は大きな人災となってしまいました。

私たちが正しくこの病魔を怖れれば、私たちの社会はこのウィルスとの闘いにこれほど苦戦しなかったはずです。