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専門コラム「指揮官の決断」

第379回 

2024年の年明け

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元日早々に・・・

2024年はすさまじい幕開けでしたね。

1月1日から能登半島で震度7という最大級ランクの地震が発生し、このような災害において生存率が大きく低下する72時間を経過した時点で、死亡者81名、行方不明者79名と公表されています。行方不明者数はさらに増加することが見込まれています。

それだけでも凄まじい災害なのに、震度5という余震が続く中、翌日には羽田で着陸直後の日本航空機と滑走路にいた海上保安庁機が衝突するという事故が発生し、羽田の滑走路上で大型旅客機全体が炎に包まれていく映像がライブで映し出されていくという事態に発展しました。

 

予見されていたのにも関わらず

能登半島において発生した地震は、ある意味で予想されたものであり、ここ数年の同地域で起きていた事態を承知していた人々にとっては、「とうとう来たか。」という思いだったかと考えます。

かねてから同地域の危険性は散々に指摘されてきました。

だからと言って、家を建て直すということもなかなかできることではありませんし、まして生まれ育った場所を離れて他の場所に移り住むということもなかなかできません。

したがって、亡くなった多くの方々が住んでいた古い木造家屋が倒壊して、その下敷きになってしまったということも無理からぬことかもしれません。

ただ、今回の震災を眺めていると、地元自治体の準備不足は指摘されるべきでしょう。

4日の朝には自治体の担当者などが、仮設トイレをはじめとする様々な避難所を運営していくために必要な物資の不足を訴えていました。まだ丸二日を経過していない時点です。

災害が起きて、避難所を開設したらどれだけの物資が必要になるかの見積もりが無かったようです。

もちろん、所要量をすべて備蓄するなどということは非現実的であり、全国からの救援物資をあてにしなければなりませんが、被災地への補給ルートが閉ざされることも考慮しなければなりません。現実に発災後3日経過しても孤立したままの地区が多数あるようです。

それらの地区においても、救援物資が搬入できる態勢が取られるまではなんとか自分たちで頑張る態勢が必要なのです。

政府・自治体はかつては三日分の備えをしておくよう国民・住民に訴えていました。

東日本大震災を受けて、三日分と言われていたのが一週間分と言われるようになりました。

近い将来に予想されている地震・津波災害においては、自衛隊などが駆けつけるのに三日ではなく一週間かかる地域があることが予見されているからです。

国民や住民にそのように訴えておきながら、石川県のいくつかの自治体は、丸二日も経過しないうちに「モノがない!」と悲鳴を上げているのです。

能登半島は歴史的にも地震災害の多い地域であり、今世紀に入ってからもたびたび犠牲者を出しており、とくにこの三年間は大きな群発地震が続いていました。

にもかかわらず、二日で避難所運営に悲鳴を上げる事態となったことは準備不足を指摘されても仕方ないかと考えます。

相変わらずメディアは・・・

一方の羽田の事故では、相変わらず報道が出鱈目です。

最初の日本航空の会見においては、あたかも日航側に問題があったかのような質問が相次ぎました。

メディアの番組つくりの魂胆が透けて見えるようです。海保機は新潟への救難物資の輸送に当たっており、一方の日航機は休み明けで東京に戻ってくる人々を乗せていたからかもしれません。

日航機の強引な着陸により救援機が押しつぶされたという予断と偏見に基づくストーリーを作りたかったかのもしれません。

コロナ禍における報道は、明らかに不安を煽る意図が透けて見えていました。コロナ禍が終わってネタがなくなった社会部にとっては絶好の話題だったかもしれません。

その証拠に乗客が脱出するのに18分かかったことを非難する声があちらこちらで聞こえました。

例によって識者と称するコメンテーターが「旅客機は3分で脱出できなければならないことになっているのに、何故20分近くかかったのか?」とコメントしているのを観てびっくりしたものでした。

弊社に言わせれば、あのような事故が起きて、全員を脱出させたキャビンクルーの働きは見事です。

乗員たちは緊急時の訓練をしっかりと受けていますが、着陸時にクラッシュして燃える機体から脱出する訓練を受けたことのある乗客が一人でもいたとは思えません。

それらの乗客を誘導してしっかりと避難させたクルーは称賛されてしかるべきです。

3分以内の脱出というのは、旅客機の設計に当たり、3分以内にすべての乗客と乗員を脱出させることができる設計にしなさいということであり、主として脱出時に用いるシューターの数や配置に関する議論です。

その設計に基づいて機体のどこに被害を受けても、全員が速やかに脱出できるように、前部から後部にかけて左右に非常用ハッチが設けられています。

現実には、どのシューターから脱出させることが最も安全かという判断をして脱出口を定め、パニックになる乗客を落ち着かせ、順番にシューターに飛び込ませていかなければなりません。

乗客が次々に脱出してくる映像が一部で流されましたが、それを見ると次々にしっかりと跳び出しており、中でキャビンクルーがしっかりとリードしている状況が分かります。

かつてある航空会社の訓練センターを見学したことがありますが、そこでキャビンクルーが受けていた訓練は、乗客を90秒以内に避難させる訓練でした。その訓練が実を結んだのだと考えます。

その時の訓練は不時着水の場合を想定しており、あらかじめ不時着水する旨のアナウンスが流れて、キャビンクルーたちもその覚悟をして必要な指示をあらかじめ乗客に出していました。曰く「荷物を取り出してはいけない。」「姿勢を低くして着水時の衝撃に備える。」「機外に出るまで救命胴衣は膨らませない。」などです。

今回はタッチダウンした直後にいきなり衝突したため、そのような予告をする暇もなく、また、着水と異なり、火災が発生しています。

特にキャビン内に煙が入ってきている状態でキャビンクルーが不用意にハッチを開けると、新鮮な外気が流入して機内の火災を誘発してしまうおそれがあり、彼女たちもどのハッチを開けるべきか判断に時間が必要だったと思われます。

いずれにせよ、しっかりとした訓練が実を結んだ結果と考えます。

日本だったからかもしれない

これが日本の国内便であったことも幸運だったかもしれません。乗っていた方々の大半が日本人だったからです。

アジアの大国や隣の半島国家であったならそうはいかなかったかもしれません。我先にシューターに群がり、機内でパニック状態になっていたことも想像されます。

実際の機内では、多くの乗客が頭が真っ白になりながらも、乗員の誘導で小さい子供やお年寄りをいたわりつつ、済々と脱出していったものと推察されます。

多分、あの事故で一人の死亡者も出さなかった日航機は奇跡と言われるかもしれません。

素人の発言は・・・

しかし、ネット上での発言も出鱈目放題です。

Youtubeでも、素早く多くの動画が作られていますが、根拠不明の陰謀説に基づくものや、予断と偏見だけで作っているもの、素人がニュースを聞きかじって作ったとしか思えない者ばかりです。

なぜそのようないい加減なモノばかりになるのか、理由は簡単です。

本当の専門家は、現時点では何も言えないからです。

フライトレコーダーやボイスレコーダーの解析なしにモノを言えるのは素人だけです。

したがって、ニュース番組で飛行時間のたくさんある元旅客機の機長などを呼んできても、様々な角度からの説明はできても、原因について言及する飛行機乗りはいないはずです。

筆者も一応航空機の操縦資格は持ってはいますし、羽田に降りた経験はありませんが、12月のノーフォーク国際空港にジャンボ機に続いて夜間着陸した経験を持っています。

したがって、夜間の発着便の多い国際空港がパイロットからどう見えるかについては想像することができますが、今回の事故原因についてコメントすることはできません。

唯一言えることは、フライトレコーダーの解析には多くの時間が必要ですが、今回はボイスレコーダーを再生すれば、何が原因だったかを意外に早く特定できるかもしれないということだけです。

これらの地震や航空事故に関しては当コラムとしても無視はできませんので、いずれ取り上げて何らかの教訓を導き出すつもりでおります。

これからも当コラムでは危機管理の専門コラムとしての内容を充実させ、掲載を続けて参りますが、当コラムが他のSNSと異なるのは、専門コラムであるということです。

Youtubeをご覧いただければ分かりますが、羽田の航空機事故に関する動画はびっくりするほどたくさんアップされています。

テレビのニュースを切り抜いただけのものはいいのですが、そこから一歩踏み込んで解説をしている動画も目につきます。

しかし、パイロットや航空機の技術者、あるいは航空輸送の専門家の発言はほとんど見当たりません。

解説をしているのは、ほとんどが一般的な話題を日常的に取り上げているYoutuberたちであり、この連中は視聴回数を稼ぐためにトレンディな話題として取り上げているにすぎません。したがって、航空機運行に関する基礎知識がなにもないまま、テレビのコメンテータの議論をそのまま持ち込んだ動画がほとんどで、観るに堪えません。

つまり、ニュースの聞きかじりで発言したり、報道を鵜呑みにした発言をしていると、自分ではもっともらしい見解を述べているつもりにはなるのでしょうが、専門的に見ると滑稽な事態を惹起してしまいます。

そのようなYoutuberたちは、自分たちの発言の意味を考えるわけではなく、単に視聴時間と視聴者数を稼ぐことに集中しています。広告収入の入り方が変わるからです。つまり、事故を食い物にしているにすぎません。

典型がこの動画です。

この解説の中でYoutuberが使っている空港図は現在のものではなく、かなり以前のものであることを本人は気付いていませんし、離陸の優先順位をNo.1と言われて、それを離陸許可と受け取るパイロットはいませんので、邪推が過ぎています。

離着陸時に順番を管制官から言われるのは普通のことです。

筆者が操縦訓練を受けていた時、その空港が忙しい時には6番目とか言われたことがありましたが、ノーフォーク国際空港に着陸しようとしたときは32番目と言われて気が遠くなりかけたことがありました。いずれにせよ、No.1など言われるのは日常のことです。

当コラムはあくまでも「専門コラム」と言い切っていますので、そのような態度を取ることはできません。少なくとも危機管理の立場からものを見るという立ち位置を守るという態度は堅持し、それを単なる航空事故の紹介に終わらせず、私たちの日常に役立つ教訓へ昇華させてまいります。

新しい年に

2023年の最後の当コラムで、筆者は新しい年が「危機管理」などと無縁であることを期待したのですが、元日からそのような問題が生じてしまい、これからどうなっていくのか先行きの見えない年になってしまいました。

しかし今年は弊社でも様々なチャンネルを通じて、皆様に危機管理とは何かを体系的に理解して頂くことのできる仕組みを作ってまいります。

皆様の御意見や疑問点などをお寄せいただければ、よりいいものができていくと考えておりますので、忌憚のないご意見をお寄せいただきますようお願い申し上げます。

今年は幕開けから大変な年になりましたが、皆様方にとっては実り多い年にして頂けるよう願っています。

当コラムがそのご参考になれば幸甚と存じております。