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専門コラム「指揮官の決断」

第392回 

ファクトチェックすらできないメディア

カテゴリ:危機管理

メディアに登場する専門家には御注意を

前回、当コラムではマスコミの報道は記者の能力不足で事実が誤って報道されたり、あるいは意図的に事実が捻じ曲げられて報じられたりすることがあることを指摘し、母校で開かれたある懇親会で、マスコミ関係者との雑談の中で、彼らの本性を見せつけられたという話を致しました。

さて、今回は一見専門家らしく見える人々ですら怪しいという話です。

一昨年ですが、日銀がイールドカーブコントロールの見直しを行いました。

これは日銀が行っている金利操作による金融操作の一つの手法です。

短期金利にマイナス金利を適用し、国債を買い集めることにより長期金利を0%に抑えることを目的として2016年ころに導入されました。つまり、企業が借り入れをしやすい環境を作り、投資を活発化させようという金融政策です。

この政策は両刃の剣となりやすく、金利が低い国にはお金が集まりにくく、円安が助長されます。

当時の黒田総裁が記者会見でこの見直しを行いました、という会見をした瞬間から、あらゆるメディアが「金融緩和を解除した。」という報道を始めました。つまり、利上げに踏み切ったということです。

その結果、Youtube上では住宅ローンをどう見直すかという議論が溢れましたし、FXでは円高を見越した予測が溢れ、一斉にドル売り円買いに走ったため、本当に一時的に円高状態になりました。

これは、メディアに登場している経済評論家と称する連中の中の、黒田日銀が嫌いな評論家がテレビで解説したことから生じた騒ぎですが、テレビに出ていた評論家たちもテレビ局に呼んでもらうために局の御意向に沿う発言しかしない連中なので、日銀の記者会見をしっかりと聴かずにモノを言っていました。

筆者はたまたまこのニュースをテレビで観ていたのですが、途中から観たのと、テレビでは会見の一部が切り取られたものしか流されなかったので、翌週、日銀のウェブサイトに全文が掲載されたのを待って読みました。

黒田総裁は「国債買い入れ額を大幅に増額する。」と述べ、月間7兆円程度であった買い入れ額を9兆円にすると言い切っていました。これをどうすると「金融緩和の解除」と解釈できるのか筆者には理解不能でした。金融緩和の強化以外の解釈が筆者にはできません。

しかも、総裁は各年限における機動的な対応を行うとして、10年物の指値オペを0.5%で毎営業日実施し、各年限で更なる買入れ増額や指値オペを機動的に実施する、と述べていました。筆者は知らなかったのですが、それまでは10年物だけを抑え込んでいたのだそうですが、その会見以後は種類を問わずに抑え込むということです。

誰がどう解釈しても金融緩和の解除ではなく強化でしかなく、利上げもされていません。

しかし、それが「金融緩和の解除」と一斉に報道されたのです。

これがマスコミが「マスゴミ」と呼ばれる実態です。日銀のウェブサイトには上記会見の全文が掲載されているのに、誰も読まず、一部の能力の低い経済評論家の見解が一人歩きしたのです。

メディアが出鱈目なのは素人でも分かる

皆さまが接している新聞やテレビの報道と言うのはその程度のものでしかありません。

筆者は経済や金融は専門としているわけでもありませんが、一応経済学部出身ですので、経済理論や金融論についての入門的講義は受講した記憶があります。

大学院の入試で選択したのは理論経済学でしたが、専攻は組織論でしたので、経済学の知識は学部レベルで止まっています。

しかし、それらの基本的素養以前の問題として、弊社では事実を追求するか論理的な一貫性を追求するという基本姿勢を徹底していますので、他の専門領域に属する事柄であってもその観点から踏み込んでいきます。

当コラムで度々ご紹介してきていますが、弊社では医学を専門としていないにも関わらず、かつ、専門領域外に踏み込むことに極端に慎重であるにもかかわらず、エール大学の健康科学に関する査読前の論文をアップしているサイトからダウンロードした論文により通信社の配信した記事の誤りを指摘したりしているのは、医学論文としてではなく、統計学の論文として読み、解釈をしたからです。

今回の事例についても、テレビに出演している経済評論家の解説の誤りを発見することができたのは、日銀のウェブサイトを確認して総裁会見の記事を確認したからです。

感染症専門家が最も怪しい

コロナ禍の三年間、報道の出鱈目さ、テレビに出演してきた感染症専門家たちの能力の低さにはうんざりさせられてきました。宇都宮のある呼吸器内科クリニックの院長は、ほとんど連日テレビに出演し、そのクリニックの知名度はうなぎ上りに上がりました。

筆者は彼がテレビに出演するようになった最初の方の番組をたまたま観ていました。正確な日付は覚えていませんが、緊急事態宣言が出される前ですから、2020年の3月頃かと思います。

彼は小さなマスクを二つ手に持って、もう自分のクリニックにはマスクの在庫がなくなりかけている、それに対して国が支給してくれたのがこの小さなマスク二つです、国は私たちにこのマスクでコロナと戦えというのですよ、と訴えたのです。

筆者は仰天しました。彼が手に持っていたのは、私たちですら使わないであろう小さな綿のマスクです。

筆者がびっくりしたのはそのマスクが二つしか支給されないということではありません。

コロナ禍が騒ぎ出されて1~2ヵ月しか経っていないのに、呼吸器内科を専門とするクリニックでマスクの在庫がないということです。

当時、筆者は心療内科クリニックのコンサルティングを行っていたので(そのクリニックの状況については、図上演習を行ってテレビ報道されたことをご紹介したことがあります。)、その理事長に在庫を尋ねました。

すると、さすがにコロナ禍でマスクの消費量は増えていましたが、医師だけでなく、看護師、臨床検査技師、事務スタッフを含め、1時間ごとにマスクを交換するようにしても1年分くらいはある、ということでした。心療内科です。

それが、呼吸器科のクリニックで、1~2か月で在庫を切らしてしまうというのはどういうことなのでしょう。呼吸器科なら元々風邪やインフルエンザなど感染性のある病気の患者が多数来院しているはずですが、マスクの在庫には考えが及んでいなかったということでしょう。

ところが、テレビ的には国の対応に大声で批判の声を挙げたということでOKなようです。

以降、この院長をほぼ連日テレビで観ることになりました。

知り合いの医師に何人か尋ねましたが、この時期、感染症の専門家がテレビにそう頻繁に出演できるはずはないということで、まして呼吸器科クリニックの院長がテレビに出演できるというのは、それなりの経営をしており、自らは聴診器をあまり使っていないのではないか?ということでした。真偽のほどは分かりません。

また、これもメディアに時々出演していたある医療専門家について、大学で同窓だった医師が、「あいつが感染症の専門家だということは知らなかった。あいつの専門が何かは知らないが、少なくとも感染症については何も知らないことは間違いない。」と言うのでびっくりしたことがあります。コロナ禍の最中にあって、連日テレビに出ることができたのは、感染症対応の現場で相手にしてもらえず、仕事が無かったのではないかということでした。こちらも真偽のほどは分かりません。

筆者は感染症対応の業界を知りませんし、現場についても知りませんので、テレビに出ている専門家たちがどのような人たちなのかを判断できませんが、言っていることが事実と異なっていたり、簡単なグラフを解釈できない人の解説を見たりするとそうかもしれないと頷きたくなります。

感染症の専門医になるためには、いくつかの難関を越えなければなりません。つまり、感染症専門医というのは、本来高い専門性を持っているはずなので、コロナ禍の三年間、メディアで踊った専門家たちは、その業界でも最もレベルの低い人たちだったのでしょう。筆者のような素人にさえ、その出鱈目が見抜かれてしまう程度ですから。

ファクトチェックには、それなりの方法論と知見が必要

危機管理だけでなく、いずれの分野においても正しい情報を収集することは重要です。しかし、テレビや新聞からもたらされる情報はその程度であることを認識しておかないととんでもないことになります。

しっかりとファクトチェックをする、原典を当たるなどの手続きが重要ですが、ファクトチェックをしても、原典に当たっても、その解釈ができないと事実の認識を誤ることがあります。ファクトチェックは、それなりの方法論や知見がなければできません。

次回はそのような問題について取り上げます。