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専門コラム「指揮官の決断」

第418回 

国債発行は将来の世代に借金を残すのか?

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受益者は誰?

政府(厳密には財務省)は、プライマリーバランスを黒にすることに一生懸命です。

当コラムでは、プライマリーバランスを黒字にすることの受益者が誰なのかがまったくわからないと主張し続けていますが、最近、少しずつ分かってきました。

多分、財務省官僚の天下り先の確保が目的でしょう。

財務省には財務省の考え方がありそうですが、国債発行が将来の世代に借金を転嫁するものという発想はメディアには溢れています。

代表的には池上彰氏で、彼の番組では、子や孫の世代への借金という言い方がされています。また、モルガン・スタンレーの日本代表であった経済評論家の藤巻健史氏も同様の主張で、これ以上借金を増やすと日本経済は破綻するとここ10年以上、毎年その主張の本を書いています。

たしかに日本経済は危機的状況に陥りつつありますが、それは藤巻氏の主張とまったく逆の事態です。

藤巻氏は、過剰な政府支出を支えるための国債の過剰な発行により、日銀が債務超過になって潰れ、ハイパーインフレが生じて円は紙くずになるという主張なのですが、よくこの程度のマクロ経済の見識で外資系銀行の日本代表として勤務できたなと感心しています。

日本国家全体を見ると、国債発行高は1000兆円を超えていますが、資産はそれ以上にあり、借金大国とは言えませんし、日銀はどれだけ債務超過になっても制度上潰れることはありません。

債務超過で潰れるというのは、借金を返せなくなる、企業でいえば、手形を落とせなくなるという事態ですが、日銀が他の企業と異なるのは、紙幣を刷ることができるので、何が起きても借金を返せないという事態に陥らないのです。そこがモルガンスタンレーと異なるところで、藤巻氏はそんなこともご存じないのかもしれません。

もっとも、企業経営はミクロ経済の世界ですから、マクロの視点がなくてもできるのかもしれません。だから、経団連の主張がマクロ経済の眼で見るとバカバカしく見えるのでしょう。彼らは経営者の集まりですからね。ですから、経団連はいいのですが、経済評論家がマクロの視点を持っていないというのはいかがなものかと思います。

確かに、紙幣を刷りまくれば、その紙幣に対する信頼が低下していくことは考えられます。しかし、管理通貨制度の下では、インフレの率を見ながら紙幣を刷っていくので、その心配はありません。日銀もインフレレートが10%を超えるようなときに無暗な増刷などはできません。

たしかに、かつて小判の金の含有量を減らして小判の量を増やしたところで、市中の物価が高騰して大騒ぎになったことがありますが、管理通貨制度どころか、兌換紙幣以前の江戸時代の話です。藤巻氏の説明は、この時代には当てはまりますが、管理通貨制度のもとでは噴飯ものの議論です。

国債がなぜ将来世代の借金にならないか

池上彰さんは、国債が将来の世代に借金を残すことになると主張しています。

しかし、この見解には問題があり、現代の経済学や財政政策の視点から見ると、国債が必ずしも将来の世代に負担を残すわけではないことが分かります。本稿では、その理由を詳しく説明します。

1. 国債の基本的な仕組み

まず、国債の基本的な仕組みについて理解する必要があります。国債は、政府が資金を調達するために発行する債券です。政府は国債を発行し、その対価として市場から資金を得ます。この資金は、公共事業や社会保障、教育などのさまざまな政府支出に使われます。国債の償還は、将来的に税収や他の財源から行われると考えられていますが、現実的には、国債の再発行により得た財源で償還しています。いわゆる借り換えです。

2. 国債と経済成長

国債が将来の世代に負担を残すかどうかは、経済成長の観点から考える必要があります。国債を発行して得た資金を効果的に使うことで、経済成長を促進することができます。例えば、インフラ投資や教育への支出は、将来的な経済成長を支える基盤となります。経済が成長すれば、将来的な税収も増加し、国債の償還も容易になります。

3. 国債の持続可能性

国債の持続可能性は、政府の財政運営能力に依存します。政府が適切な財政政策を実施し、経済成長を維持することができれば、国債の償還は問題なく行われます。さらに、現代の通貨制度においては、政府は自国通貨を発行する能力があるため、必要な資金を創出することができます。このため、国債の償還が困難になるリスクはありません。ただし、これは自国通貨建ての国債を発行している場合に限ります。ドル建ての国債を発行している場合には、ドルを印刷することができませんので、外貨準備がなくなると債務不履行に陥ります。

ユーロ圏の国は、自分たちで通貨を発行できないので、そのリスクがあります。

4. 国債とインフレーション

国債の発行がインフレーションを引き起こす可能性についても考慮する必要があります。政府が過剰に国債を発行し、通貨供給が増加すると、インフレーションが発生する可能性があります。しかし、適切な財政政策と金融政策を実施することで、インフレーションを抑制することができます。例えば、中央銀行が金利を調整することで、通貨供給をコントロールし、インフレーションを防ぐことができます。これが管理通貨制度です。

5. 国債の社会的意義

国債は、単なる借金ではなく、社会的な意義を持つ重要な財政手段です。国債を発行することで、政府は必要な公共サービスやインフラを提供することができます。これにより、社会全体の福祉が向上し、将来的な経済成長が促進されます。例えば、教育や医療への投資は、将来的な労働力の質を向上させ、経済の競争力を高める効果があります。

6. 国債の歴史的背景

歴史的に見ても、多くの国が国債を発行して経済成長を支えてきました。例えば、第二次世界大戦後のアメリカは、大規模なインフラ投資を国債発行によって実現し、経済成長を遂げました。同様に、日本も高度経済成長期において、国債発行を通じてインフラ整備を進め、経済成長を支えました。

7. 国債と将来の世代

池上彰さんの主張に対する反論として、国債が将来の世代に負担を残すわけではない理由をまとめます。まず、国債を発行して得た資金を効果的に使うことで、経済成長を促進し、将来的な税収を増加させることができます。さらに、政府は自国通貨を発行する能力があるため、国債の償還が困難になるリスクは低いと言えます。適切な財政政策と金融政策を実施することで、インフレーションを抑制し、経済の安定を維持することができます。

8. 結論

国債は将来の世代に借金を残すという見解は、現代の経済学や財政政策の視点から見ると正しいとは言えません。国債を発行して得た資金を効果的に使い、経済成長を促進することで、将来的な税収を増加させ、国債の償還を容易にすることができます。さらに、政府は自国通貨を発行する能力があるため、国債の償還が困難になるリスクはありません。適切な財政政策と金融政策を実施することで、インフレーションを抑制し、経済の安定を維持することができます。

そもそも、債務と借金は異なる概念なのですが、池上氏はそこも理解していないようです。

税金が国の事業の財源であると考える人々には共通した過ちなのですが、彼らのマクロ経済に関する知識は、管理通貨制度の時代には時代遅れの骨とう品でしかありません。

経済学史の議論として、かつてはそういう議論もあったよね、という程度の理解で構いません。

筆者が学んだ経済学はケインズそのものでした。ケインズ理論は1900年代初頭の議論ですが、その程度の知識でも藤巻氏や池上氏のような発想にはなりません。

お二人の程度の認識では、マクロ経済学の単位が取得できません。

彼らの話は、江戸時代の貨幣が小判だった頃の話として聞いておけばいいということです。

余 談

 要するに、国債発行は将来の世代に借金を残すどころか、大きな財産を残します。

 例えば、昭和の時代の東京オリンピックに合わせて作られてきた東海道新幹線、首都高速道路、東名高速道路などは、その後の高度成長の基礎となりました。

 これらは大量の国債発行によって経費が賄われましたが、私たちがその借金に苦しんでいるという実感はありません。

 これらは建設国債という、いわゆる公共事業に使われる費用をねん出するための国債でしたが、国債の発行は、極端な話が、穴を掘って埋めるだけの工事のために使われても経済的な効果を持ちます。

 例えば、10兆円の国債を発行して穴を掘って埋めるだけの作業をするとします。

 集まった労働者に10兆円の報酬が支払われます。

 各労働者がその20%を貯蓄し、80%を消費に回すとします。

 各労働者の消費を受けた業者が、やはり20%を利益として、80%を仕入れに使うとします。これが延々と繰り返されると、経済全体にどのような効果を与えるでしょうか。

 これが投資乗数と呼ばれる数字です。

 これは等比級数の和で現わされます。

 つまり、10兆円が労働者に支払われると、そのうちの8兆円がスーパーやコンビニ、あるいはアマゾンなどで消費されます。不動産が購入されるかもしれませんし、家族で旅行に行くかもしれません。

 そして、その消費を受けた様々なサービスも、80%を仕入れに使うと仮定するということです。

 この連鎖が経済全体に与える影響を計算すると、消費性向0.8の等比乗数の和で、50兆円となります。

 つまり、政府が穴を掘って埋めるだけの作業を10兆円の国債を発行して行うと、経済演対には50兆円のお金が回るということです。

 マクロ経済を理解しない政治家たちは、その50兆円に課税して当初の10兆円を償還しないと借金となって残ってしまうと考えるのですが、政府はそのような国債償還はしません。

 償還期限が来ると、10兆円の国債を発行して資金を集め、それで償還するのです。あるいは、世の中に回っている貨幣量を見ながらインフレ率を考え、お札を印刷して償還費に充てます。

 つまり、税金を集めて借金を返しているわけではありません。

単に高等学校の数学の問題でしかないんです

 単に穴を掘って埋めるだけの仕事であっても、社会には大きなお金が回ります。それが、道路やダムの建設に使われれば大きな便益を世の中に残します。

 教育や国防に使われると、豊かで安全な社会が将来世代に伝えられます。

 借金が将来世代に残されるという考えが全くの誤りであり、かつて民主党が政権を取ったときに国民の前で行った事業仕分けという政治ショーが、いかに浅はかな馬鹿々々しいものであったかということがこれで分かります。

民主党は、そうやって公共事業を圧迫し、さらには東日本大震災に際して、復興支援費を賄うための消費税増税を行い、消費を冷えさせました。

この結果、日本の経済成長は絶望的になったのです。

すべては、等比級数の和という高等学校の数学を理解しない政治家たちのレベルの低さが原因であり、池上氏や藤巻氏のようにマクロ経済を分かっていないのか、財務省の御用達の解説をしているだけなのかのメディア登場者のプロバガンダに惑わされている私たち国民の選択の責任なのです。