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専門コラム「指揮官の決断」

第442回 

陰謀論をどう考えるか その3

カテゴリ:危機管理

承 前

前回、当コラムでは、弊社の陰謀論に対する態度を示しました。

大勢の見解に反する意見を陰謀論として切り捨ててしまうのではなく、それらの説が組み立てられている根拠を丁寧に検証し、根本にある前提が崩れればその説は根拠がないと断言してもいいが、それを否定できない場合には、一つの見方として尊重すべきというのが弊社の基本的な態度です。

そのような態度を取る理由は、大きく二つあります。

まず、歴史的に陰謀論とされてきた説の中で、極めて重要な真実が述べられてきたものが多数あるということです。

典型的には「地動説」です。当時の「天動説」に対して、神を恐れぬ異教の説とされていました。

こういう事例は山ほどあり、一概に陰謀説と切り捨てていると、真実を見誤ることがあります。

第二に、いわゆる陰謀説を唱える人々の議論は、基本的にはまず結論があり、その結論を裏付けるための根拠をひねり出してきます。そこで、その根拠を論破してしまえば説自体がなりたたないのですが、往々にして「無かったことの証明」をしなければならないことになります。「無かったことの証明」というのは「悪魔の証明」とも言われることがあり、陰謀論を根拠づけるのに便利なのですが、一方でその「悪魔の証明」ができれば、陰謀論を打ち砕く強力な根拠になるからです。

筆者は、陰謀論が世の中にどれだけ渦巻こうがどうでもいいと考えています。例えば、アポロ11号は月には行っていないと主張する人たちがいますが、アポロ11号が月に行っていようがいまいが弊社や筆者に直接の関係がないからです。

しかし、自分が当事者だったり、自分が直接関係したり、利害関係があったりする場合には反応せざるを得ません。

日航123便の墜落事故に絡む陰謀論がその典型例です。

日航123便事故に関するシンポジウムに登壇して

筆者は先に参議院議員会館で開かれたシンポジウムにパネリストとして登壇したことは以前皆様にお伝えしたことがあります。

当日は元自衛官が4人パネリストとして登壇していました。

事故当日、空挺隊員として御巣鷹山に最初に救難に出動した元陸上幕僚長、松本の連隊から道なき山道を現場に向かった元方面総監、実際に現場を確認するために飛んだファントム搭乗員の元航空自衛官と筆者でした。

ただ、筆者には違和感がありました。

筆者以外の三人のパネリストは、実際に事故現場に行った人たちであり、当事者であった人たちでした。ところが、筆者は現場に行ってもいないし、たまたま日航機をミサイルで撃ったとされる「まつゆき」を見てもいないのです。

たまたま、当日、別の護衛艦で三宅島の東側を北上中であり、その週に「まつゆき」が相模湾で試験をしているという情報を出航前に得ていたので、当日も「まつゆき」が相模湾にいたのだろうと思っていただけでした。

当日の夜、日航機が行方不明になったという情報を得たため、航空救難の準備をしており、任官二年目であった筆者にとっては、結構大きな出来事であったことから印象が強く、かつ、我が家の司令長官(海上自衛隊では、司令官の女房は司令長官と呼ばれます。つまり、我が家の最高指揮官です。)がその年まで日本航空の社員であったことから大きな関心をもっていたため、この事故に関する様々な陰謀論に関心を持ってきただけでした。つまり、筆者だけが他の三人の元自衛官とスタンスが異なっていたのです。

実際に事故現場に赴いた3人の元自衛官は自分が何をしていたのかを証言したのに対して、筆者は、自分が近くにいて、航空救難を下令された場合に備えて準備をしていただけでしたが、基本的な立場が、陰謀論が寄って立つ根拠が論理的に根拠になりえないことを証明していただけなのです。

具体的には、123便を撃ったとされている「まつゆき」が、陰謀論では海上自衛隊の護衛艦「まつゆき」とされていたのが、当日はまだ海上自衛隊に納入されておらず、造船所で納入前の試験を行っていた段階であり、指揮を執っていたのが海上自衛官ではなく、造船所の船長が指揮を執っており、試験であるため、造船所の技師や下請け企業の技師が多数乗り込んでいた段階であって、そんな船がどうやって相模湾の真ん中で、夕方の6時過ぎに旅客機をミサイルで撃てるのか、常識で考えれば分かるでしょう?ということでした。

また、その時間にミサイルを撃つと、ミサイルが凄まじい爆音と炎を出しながら飛ぶことになるけれど、月曜日の夕方、相模湾には多くの船が航行中だったはずであるけども、一隻でも目撃した船があるんですか?という問いもありました。

弊社のコラムでは、さらに別の社会科学的な考察も展開したのですが、自衛隊に直接関係しないため、当日は触れませんでした。

つまり、当日パネリストとしては、経験者として証言したのではなく、論理的に陰謀論の根拠がないよね、という話をせざるを得なかったのです。

当日のシンポジウムで、メインのパネリストを務めた空挺隊員として最初に現場に乗り込んだ岡部元陸上幕僚長の話は、彼でなければできないリアリティがあり、彼らがどのような思いをしながら救難作業に当たったのかが分かり、また、隊に戻っても、毎晩、彼が収容した犠牲者の霊が現れるというストレス反応に見舞われるという思いをしたことも披瀝されました。現場に赴いた陸・空自衛官たちは肉体的だけではなく、精神的にも凄まじい経験をして救難作業をこなしてきたのですが、その連中を、証拠を隠滅するために火炎放射器で生存者もろとも焼き払ったなどと主張する陰謀論者を許すことができないという思いにとらわれ、筆者に関してはこの問題に関する関心が却って深まったという思いです。

弊社のこの事故に対する態度

筆者は現場に赴いた当事者ではないので、社会科学を専門とするコンサルタントの一人としてこの問題に取り組むことになりますので、弊社の基本的な態度を踏襲してあたっていくつもりです。

その観点から申し上げると、陰謀論を論破するためには、弊社の方法論の方が効果的かもしれません。

弊社が当コラムで4回に渡り連載した123便の事故に関するコラムをYouTuberのワタナベケンタロウさんが目にとめ、彼のチャンネルで取り上げた際の陰謀論者のコメントを見ると、ネットで陰謀論を振りかざす人々は、「元自衛官の言うことなんか信じられない、本当のことを言うと家族が殺されるから」、という乱暴な話に飛んでいきますのでまともな議論ができません。こういう連中を相手にするには、具体的に参加した元自衛官たちが体験を語るよりも、彼らの論拠を崩していった方が効果的なように思います。

「悪魔の証明」は難しいですが、彼らが根拠としている事実を否定し、その否定を覆す論拠を求めることが、第三者にも分かりやすい議論になります。

弊社としては、この事故に陰謀がなかったと主張する意図はありません。ただ、海上自衛隊がミサイルで狙っただの、航空自衛隊の戦闘機が最終的にミサイルを撃ち込んで撃墜しただの、陸上自衛隊の特殊部隊が証拠隠滅のために生存者もろとも焼き払ったなどと言う自衛隊に対する誹謗中傷は許すつもりはないのと、そのような馬鹿げた議論が、むしろ真実を覆い隠してしまうかもしれないと怖れるものです。

この事故の真相は究明されるべきです。

そこで、当コラムでは、陰謀論をどう考えるかという問題を議論するにあたり、抽象的な概念を扱うのではなく、具体的なこの日航123便墜落事故を例に取り、陰謀論をどう考えればいいのかを次回以降、議論してまいります。

この問題は、単に陰謀論をどう考えるかという問題ではなく、世論を作るメディアの役割なども考慮しますので、危機管理にとっては重要なテーマであると考えています。