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専門コラム「指揮官の決断」

第471回 

コロナ禍に学ぶ危機管理の発想法 その5

カテゴリ:危機管理

承 前

前回お約束したとおり、今回もコロナ禍を題材として、私たち感染症の基礎知識を持たない一般人が、メディアのデマにごまかされて、騒ぎが大きくなった現象について考えます。

なぜ、このような考察に拘るかと言えば、危機管理というものが、決して専門家や政治家のものではなく、逆に、彼らがいざという時に、いかに出鱈目であるかを認識し、自分たちである程度の判断をしていくことが重要だと考えるからです。

専門家とは

前回は、テレビに出てくる感染症の専門家たちが、実は致死率の計算もろくにできない連中であったことを指摘しました。

ここで、何度も「テレビに出てくる感染症の専門家たち」という表現をしているのには理由があります。

感染症の専門家には、立派な方々がたくさんいらっしゃいます。

彼らは、基本的には病院内では目立たない存在です。自ら診察や治療をしないからです。

彼らの主な使命は、感染症の患者の受入れに際し、 他の患者、医師、看護師、その他の病院職員をいかに感染症から守るかということにあり、重要な役割を果たしているにも関わらず、目立たない存在です。麻酔科医も同様です。

この感染症専門家たちは、コロナ禍にあって、凄まじい働きをしていました。連日泊まり込みで、一週間に一度、奥様が着替えの下着などを届けにくるなどという光景は珍しくなくありました。

ところが、私たちがテレビでコメントをしている専門家たちは、数人の同じ人たちが、番組ごとに連日登場していました。

本来の感染症専門家であれば、あの事態で、連日テレビに登場するなどということはあり得なかったはずです。彼らは、テレビ局から、「こういう質問をしますから、こういう方向でお応えください、それを立証するデータをご用意ください」と言われて、それを呑んだ、連日テレビに登場する時間のあった人たちです(同様の依頼は、筆者のオフィスでも受けましたが、弊社の主張と真っ向から異なるのでお断りしました)。

つまり、テレビ局の申し出を呑んだ人たちだったのでしょう。

そもそもの始まり

さて、本論に入りましょう。

コロナ禍における論点は、無数にあるのですが、まず、最初の頃の記憶を掘り起こして頂きたいと思います。

そもそも、中国では前年の冬の初めには騒ぎが持ち上がっており、中国国内でマスクが品薄になり、日本のドラッグストアで、買い占めていく中国人が話題になっていました。

それが切実な問題になり始めたのは、横浜に入港しようとしていたダイヤモンド・プリンセス号というクルーズ船で、香港で下船した乗客が体調を崩しており、その後、船内に感染が広がったことに端を発しています。

結局、横浜は人道的な見地から受け入れを決め、大黒ふ頭に横付けして、除染が始まり、自衛隊も災害派遣で出動しました。

この時、中華街が酷いことになりました。中国を回ってきたクルーズ船であったこと、発症した最初の人が中国人だったこと、入港したのが横浜港であったことなどで、中華街に行くと感染すると考えた人が多数いたのでしょう。

筆者が見た中華街では、いつもは人で埋め尽くされている通りに誰もおらず、キョンシーが2匹ほど跳び歩いてる景色でした。

横浜まで乗ってきた乗客のほとんどは日本人であり、しかも横付けしているのは大黒ふ頭で、横浜港の反対側、鶴見側でした。中華街に影響など及ぼすはずはありませんでした。

ところが、SNSなどで、情報はすごい速度で駆け巡りますので、あっと言う間に中華街が空になりました。(中華街は、その後の営業自粛要請で、結果的に空になりますが)

さらにSNSが酷いのは、そのクルーズ船が時々、午前中に出港して、午後には帰ってくることを怪しみ、つまらない憶測が飛び交いました。何をやっているのか分からなかったからです。

船は乗客は乗せたまま大黒ふ頭に横付けしていたので、トイレの汚水処理をしなければならないのですが、横浜市当局が、感染を心配して、その処理船を派遣しなかったので、仕方なく、定期的に捨てに行っていたのです。距岸5海里を離れると、汚水処理ができるので、多分、大島近海まで行って汚水処理をしていたのでしょう。SNSでは、そんなことも知らない素人が、意外なインフルエンサーだったりしますので、あらぬ噂が立ちました。

関東大震災の直後、「朝鮮人が略奪、放火をしている」という流言飛語により多くの朝鮮籍の方々が虐殺されたと言われていますが、多分、現代ではその流言飛語の量とスピードが、当時と比較にならないので、この問題も深刻に考える必要があるかと思っています。

PCR検査におけるメディアの煽り

さらに、コロナ禍が始まった頃の話を思い出して頂きます。

PCR検査です。

テレビ朝日が毎朝やっている情報番組で、レギュラーのコメンテータが、37.5度の熱が4日間続かないとPCR検査を受けられないという国の指示はおかしい。全国民が受けられるようにすべきだ、と連日かなりの口調で主張していました。

このコメンテータは厚労省が各県経由で全国の保健所に出した通達を読んでいなかったとみえます。筆者は、その頃、あるクリニックの顧問をしていたので、その写しを読みましたが、通達には、発熱が4日も続いたら、必ず検査を受けてください、帰国者外来や高熱外来などで検査を受けられるように準備しています、という内容で、そうでなくても、高齢者や基礎疾患のある方は、早めに受けてください、という注意書きまでありました。彼はこの通達を読んでいないのです。

この局の全国民に受けさせるべきだという主張は、実は混乱を招くだけです。

前回申し上げましたが、PCR検査では、被験者が感染しているかどうかは分かりません。検体を採取した時点で、コロナウィルスの破片でも見つかれば陽性です。

感染と言われるためには、寄生と増殖がはじまっていなければならないのですが、それは分かりません。

逆に言うと、検体を採取した時には陰性であっても、その5分後に強烈な感染源に触れて感染しても分からないのです。つまり、全国民にPCR検査をすると、多くの人が、自分は「陰性だ」と言って、勝手な振る舞いをし始めるおそれがあります。

ということは、全国民に半日ごとにPCR検査をしないと実態が分からないのです。こんなことは現実的ではありません。リトマス試験紙のように、簡単に検査できるキットがあれば別ですが、この男の言っていることはナンセンスでした。当コラムでも、当時、そのことを指摘し、その局の主張を批判しています。

(専門コラム「指揮官の決断」第184回 論理性の問題:PCR検査を無駄に行ってはならない理由 https://aegis-cms.co.jp/1947 )

素人判断

この時期、「ソーシャル・ディスタンス」という言葉が流行ったことを覚えておられる方も多いかと思います。

この言葉の解釈も、次第に変わっていきました。当初は、密閉された空間で話しをする場合、十分な距離を取って話をし、それができない場合にはマスクをすべきという議論でした。

ところが、その後、外出時には常時マスクを着用しなければならなくなり、本来の意味を考えずにそれを強要する人が現れ始めました。

筆者が実際に目撃したことですが、JRに乗っているときに、端の優先席に座って寝込んでいた初老の男性がマスクをしていませんでした。筆者の前にいた若い男が、ブツブツ言っていたのですが、そのうち、その初老の男性を起こし、「マスクをしろ。そんな常識もないのか」と怒鳴りました。初老の男性は驚いたようですが、マスクを持っていなかったのか、次の駅で降りていきました。

私の前に戻ってきた男性に、筆者が、一人で居眠りをしていたら、誰ともしゃべらないし、あんたのような大声も出さないから、マスクは必要ないんじゃないか、あの人は夜勤明けで疲れて眠り込んでいたんだろう、可哀そうに降りてしまったじゃないか、と語りかけると、彼は理屈を考える能力のある人物だったらしく、「そう言えばそうですね。つい、かッとしてしまいました」と言っていましたが、この時期、ことの本質を見ない「自粛警察」などという連中が歩き回り、困ったものでした。素人判断でもいいのですが、与えられている情報から冷静に事の本質を見るという習慣がなく、表面的なものに拘って大騒ぎをする連中が多くて困るという事態でした。

さらに続きます

メディアが堕落し、そこに登場する専門家たちが出鱈目であり、SNSでは素人が勝手な説を流し、それを解釈する私たちが本質を見なければ、世の中がまともに動くはずがありません。

不安を煽って視聴率を稼ぎたいメディアとそれを助長した専門家たち、右往左往するだけの政府、流言飛語流し放題のSNSのお陰で被害が拡大し、経済の停滞を招きました。

筆者たちは、新型コロナは日本では欧米や中国に比べて、それほど大きな騒ぎにはならないと考えていましたが、専門知識なしに、その事態の本質を見る方法について、次回も言及してまいります。

いろいろな方からご意見を頂くのですが、多いのが、「お前のコラムは長くて、読むのがしんどい」というご意見です。

それを回避しつつ、基礎知識をお持ちでない方にも分かるように解説するとすれば、回数が多くなります。ご勘弁ください。