専門コラム「指揮官の決断」
第93回No.093 防災に関する情報
気象庁の情報の意味
中国・四国地方を襲った大雨のために多くの方々が亡くなり、行方不明の方も多数発生しています。
このような自然災害の発生に際し、避難所が設けられ、適切な誘導が行われると財産はともかくとして貴重な人命が損なわれるという悲劇を防ぐことができます。
よくニュースを観ていると避難指示や避難勧告などという言葉が聞かれます。
本コラムでは、本格的な台風シーズンを前にあらためてこれらの言葉について考えてみます。
台風等で大きな人的被害が予想される場合、気象庁から様々な情報がもたらされます。
まずそれらがどのような情報なのかを確認します。
最初に出されるのが通常は注意報です。
注意報は大雨、洪水、大雪、強風、風雪、波浪、高潮、雷、濃霧、乾燥、なだれ、着氷、着雪、融雪、霜、低温の16種類があり、私たちが日常注意するのは大雨や洪水ですが、農業に従事する方々は霜、漁業に従事する方々は強風、高潮などの情報に注意を払っていることと思います。
注意報だからと言って侮っていると大変な目に遭うことがあります。いきなり次の「警報」レベルに脅威が増大し、対応が間に合わなくなることがあるからです。
注意報の次に重要なのは警報です。
これは重大な災害が発生するおそれがある場合に発表されます。
警報には大雨、洪水、大雪、暴風、暴風雪、波浪、高潮の7種類があり、それらが複合されて発表されることも珍しくありません。
そして、警報の発表基準を遥かに超える状況が予想される場合、気象庁は以下の6種類の特別警報を発表し、最大限の警戒を呼びかけます。
大雨特別警報、大雪特別警報、暴風特別警報、某敷設特別警報、波浪特別警報、高潮特別警報
自治体の発する情報の意味
これらの気象庁から発表される情報をもとに、自治体から避難に関する情報が発せられることになります。
これは災害対策基本法に基づくもので、市町村長の責任と権限となっています。
通常、最初に出されるが「避難準備・高齢者等避難開始」という情報です。
この情報は、いわゆる災害弱者と呼ばれる高齢者・障害者・乳幼児など特別の配慮が必要な人々に早期の避難を促すもので、この情報が発せられると避難所として指定されている施設に行っても受け入れてもらうことができます。
避難準備の情報が発表された場合には、これらの要配慮者を抱えた家庭では、まず、それらの方々をとりあえず避難所へ送り、引き続き速やかな避難準備を始める必要があります。
具体的に何をすればいいでしょうか。
まず、避難場所の確認です。
次に持ち物を準備します。
そして、近所にいる要配慮者への声掛けもして頂ければと思います。
また、避難開始前には外出中の家族や親戚等へ避難場所等を連絡しておくと皆さんが安心されるはずです。
さらに、避難する前には、電気のブレーカーを落とすことが必要です。これは通電火災を防ぐために是非行って頂きたい措置です。
冷凍食品などがダメになってしまうことを恐れてこの措置を取らないご家庭が多いのですが、必要な措置です。
わずかな冷凍食品のために自宅が火災になったり、あるいは隣近所の家まで延焼させてしまってはいくら後悔しても後の祭りです。
避難の場合、必ずしも避難所に行かなければならないわけではありません。
避難所が遠く、車でなければ行けない場合、かえって危険な場合がありますので、近くの高い建物などにとりあえず移るということも考えた方がいい場合もあります。
また、家の中のより安全と思われる部屋に移動することも有効な場合があります。
例えば、2階の裏山に面していない側の部屋に移るなどにより土砂崩れの場合に無事だった例も数少なくありません。
避難所に移ることが要避難者にとって最善の方法かどうか、冷静な判断が求められます。
ただし、避難所に移ると食事等の支給を得られますが、自宅で待機しているとそれができないので、電気やガスが止まった場合にはそれも考慮する必要があります。
避難準備情報の次に、より情勢が緊迫し、人的被害が発生するおそれが高まった場合には、避難勧告が出されます。
移動に特別の支障がない限り、避難所への移動が必要です。
そして、状況がさらに悪化してくると避難指示(緊急)が発令されます。
災害対策基本に定められた避難に関する情報は以上のとおりであり、日本には「避難命令」というものはありません。
ただし、原子力災害特別措置法では避難勧告に基づき立ち入り制限区域が設けられるので、これは事実上の避難命令に等しい効力を持ちます。
問題の所在
これらは災害対策基本法に定められた避難に関する情報であり、発令の責任と権限は市町村長にあることは先に述べました。
問題なのは、発令の権限と責任が市町村長にあるということです。
地元の様子を一番よく知っている市町村長が、それぞれの実情に合わせてきめ細かく適時適切に避難を誘導していくことが最も望ましく、また、それが最善であることに異論をはさむつもりは毛頭ないのですが、問題は市町村長の危機管理能力なのです。
かつて伊豆大島を襲った台風のために土砂災害が生じ多くの方が亡くなったことがありましたが、この時、町長と副町長は特に重要でもない会議に出席するために島外に出張中であり、残った教育長が指揮を執りました。
その出張も、台風が間違いなく大島を直撃すると分かっていたその日の午前中に出発したものでした。
残った教育長は、地元警察署から早く避難指示を出すように再三要請されたにもかかわらず、雨の降っている夜間に避難させるとけが人が出るおそれがあるとして指示を出さないまま大規模な土石流が発生し大災害となってしまったのです。
以前に私は当コラムで私の地元自治体の危機管理能力について記述したことがありますが、市町村レベルの危機管理能力には大きな問題があります。少なくとも私の地元はそうです。
これまでにも多くの自然災害において地元自治体の避難勧告・指示の遅れにより被害が拡大していますが、それらのほとんどは、やはり早期に勧告・指示を出すことに対する躊躇いが原因です。
たしかに、避難勧告・指示を出すタイミングというのは難しいものがあります。
とにかく出しておけば責任を追及されないとばかりに安易に出されるのも困りものです。勧告・指示の重要性の認識レベルが下がってしまい、オオカミ少年になりかねないからです。
また、確かに年寄りや乳幼児などの災害弱者に移動を強いることになり、避難に伴う事故を心配しなければならないことも事実です。
このため、自治体は避難勧告を発するのに慎重になりすぎるきらいがあります。
しかし、だからこそ地元を熟知している市町村長に任されているのです。
地元の地形などの特性、住民の状況などを一番よく知っている市町村長が、きめ細かく適時適切に対応することが求められており、そのために各自治体には危機管理専門の部門が設けられているのです。
しかし、その専門部門にいる職員に期待ができるのかという問題になると話が別です。
問題は地方自治体の危機管理能力ではなく責任の観念
私はかつて私の地元自治体の危機管理部門に、そこが発行しているハザードマップに記載された津波の高さと浸水面積の算出の根拠を訊ねたことがありますが、それは県のハザードマップに記載されているものを根拠としているので、詳しくは県に訊いてくれという返事が返ってきてびっくりしたことがあります。
県のハザードマップと異なる数字が記載されても困るのですが、県が何を根拠としたのかを知りもせず、また、市民が尋ねても自分で県に問い合わせるのでもないのです。
こうなると市町村自治体の危機管理担当者の能力の問題ではなく、責任観念の問題です。
この程度の責任感しか持たない自治体の危機管理能力にまったく期待できないので、市町村長の出す勧告・指示もそれが適切に出されているのかどうか判断しようがないのです。
望むらくは、このような責任観念の欠如した危機管理担当者がいるのが私の地元だけであって欲しいということです。
どうすればいいのだろうか
気象庁から出される情報や自治体から出される情報については先に記載したとおりですが、これらの情報はかなり一般的なものになりがちです。比較的広い範囲に対して出されるので、自分の住む地区と状況が異なることがあります。
日常から自分の住む地区の強点及び弱点を知っておくことが必要です。
予想される津波に対して大丈夫か、裏に崩れるかもしれない山や崖はないか、極端な雨が上流で降った場合に溢れる川はないかなどをチェックしておき、それらの災害が起こりそうな場合にはどの経路を通って避難するのか、その際に持っていくものは何か、避難に際して連絡しておくべきところはどこかなどをメモしておくことが重要かもしれません。
そのうえで、地元自治体の判断を待つことなく、怪しいと感じたら直ちに行動に移すことが自分と家族の命を守るために必要です。
自治体の指示が遅れたから逃げ遅れたと後でいくら非難したところで失われた命は戻ることはありません。後悔は後には絶たないのです。
自治体が守ってくれるという幻想は捨て、自分の命は自分で守るという覚悟が必要です。