専門コラム「指揮官の決断」
第99回No.099 プロトコール:弔意の表し方
この夏、戦後73回目の終戦の日を迎え、同時に平成最後の終戦の日でもあったことから、追悼式の中継を感慨深くご覧になった方も多いかと存じます。
当コラムではかねがね危機管理に重要な役割を果たす3本の柱として、「意思決定」「リーダーシップ」そして「プロトコール」を挙げてきています。
何故プロトコールが重要なのかは専門コラム「指揮官の決断」 No.003 プロトコールが企業経営に不可欠な理由 https://aegis-cms.co.jp/127 をご覧ください。
今回は、そのプロトコールの一環として、組織が弔意を示す方法である旗の扱いをテーマとしています。
追悼式が行われる場合など、官公庁の玄関正面にある国旗掲揚搭の国旗を少し下げて弔意を表すことがあります。半旗と呼ばれる措置です。
会社でも正面の入り口の前に掲揚搭が設置され、社旗と国旗を掲揚している会社では半旗の礼を行うようです。
終戦の日も注意して見ていると警察署などでは少なくとも追悼式典が終わるまでは半旗にしているようです。
しかし、この半旗がどのような意味合いでいつ頃から用いられているのかをご存知の方は意外に少ないかと拝察いたします。
船の歴史においては古くから旗が弔意を示すために用いられてきました。
船が弔意を表すために旗を用いた歴史上最も古い例として記録されているのは1612年のHeart’s Ease号だと言われています。
この船は僚船と2隻でアメリカ大陸の北端を回る北西航路開発のために行われた探検のために出航し、途上で船長William Hall がエスキモーに殺害されてしまいました。
この船がロンドンのテムズ川に戻ってきた時、同船は国旗を船尾から垂らしてその半分を航跡になびかせて入港してきたそうです。それがこの船の船長の死に対する弔意の表し方だったようです。
それ以前の歴史において船は弔意を表すに際しては黒い帆を用いていました。
しかし、いつ使うか分からないセールを狭い船内に格納しておくのも不経済なので、いつの頃か黒い旗が用いられるようになりました。
しかし、旗には濃い青や赤の旗もあり、天気の良くない日に遠くから見るとはっきりと見分けがつきにくかったようです。
そこで今度は旗を掲げるマストを特別にした方が、特別な事態に臨んでいることを示すうえで効果的であるとの考え方に基づき、マストの中ほどに国旗を掲げるという方法が取られるようになりました。
英語で半旗を” a flag at half mast “と呼ぶのはこのためです。
船では一般に国籍を示す旗を船尾に掲げます。
軍艦も通常航海の場合は艦尾に掲げています。
しかし軍艦の場合、戦闘準備を整え、これから合戦に臨むという場合、この軍艦旗を一番高いマストのトップに掲げ、戦闘旗とすることがあります。
したがって弔意を示す場合には旗をトップではなく、あえて中ほどに下げて掲げるという方法がとられたようです。
現在では、船が弔意を示す際にこの方法が取られることが多いのですが、軍艦の場合はメインマストに国旗を掲げると戦闘旗を掲げているのと間違われやすく、せっかく弔意を表しているのに逆に喧嘩を売っていると勘違いされても困りますので、艦尾に掲げた軍艦旗を下げる方法を取っています。
それにならって商船も船尾の旗を下げることにより半旗としている船がほとんどですが、横浜港あたりで見ていると、ヨーロッパから来た船は、しっかりとメインマストを使って半旗を揚げていることがあり、船長が船乗りとしてのプロトコールを熟知していることを思わせます。
一般のご家庭などで祝日に国旗を掲げる家は最近ほとんど見なくなりましたが、市販されている家庭用の国旗でも弔意を示すことができます。
市販品はポールの上端につける国旗球が金色なので、黒い布で覆う必要がありますが、そのようにして半旗すれば、立派に弔意を表していることになります。
ただ、国旗を半旗にするには一定の作法があります。ご家庭では半旗になった状態の国旗を掲げればいいのですが、会社の正面入り口のポールなどに国旗と社旗を掲げている場合には、その作法によって掲揚しないと恥をかくことがあります。
かつて私が勤務していた商社で半旗を掲げるところをたまたま見たのですが、総務課の担当者が国旗を揚旗線につけるとスルスルと揚げはじめ、適当な位置まで揚げたところで止めていました。
これは作法に反しています。
半旗は一度全揚してから降ろすのが作法です。
揚げる高さですが、半旗と言いつつ半分の高さではありません。
マストの上から3分の1のところに旗の中央がくるように掲げるのが正規です。
私はこの類の儀式に極めて厳格な組織で30年間過ごしましたので、そういうことに敏感になっています。
風の強い日に街を車で走っていて、警察署の国旗がポールに絡みついていたり、あるいは揚旗線がたるんで国旗がしっかりと上まで上がっていないのを見つけたりすると無性にイライラします。
駐車場に入って署内に飛び込み、署長を呼び出して教育してやろうかなどと思うほどイライラするのですが、よく考えると単なる「嫌なおじさん」ですね。