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専門コラム「指揮官の決断」

第288回 

数字は嘘をつかないが、読み方を知らないと騙される

カテゴリ:危機管理

ウクライナ情勢についてのコメントは

世界はこの1か月以上にわたりロシアのウクライナ侵攻に翻弄されています。

当コラムは執筆担当が元自衛官ではありますが軍事評論をするつもりもなく、安全保障論、国際関係論の専門家でもないので、あくまでも危機管理論の観点からこの問題を観察しています。

コロナ禍と同様、メディアは様々な専門家と称する人々をほぼレギュラーとして起用して報道を続けていますが、コロナ禍と異なるのは、それらの専門家たちが、筆者のような素人が聞いても「エーッ?嘘つけ!」と思うような出鱈目を並べるエセ専門家ではなさそうなことです。

コロナ禍においてテレビでコメントをする専門家の中には、致死率の計算もろくにできず、何のファクトチェックもせずにメディアのいい加減な報道を鵜呑みにしてコメントするような人々が目につきました。普段白衣を着ているというだけでテレビでコメントをするので、白衣を着るのに必要のないグラフの話になると筆者のような素人でも簡単に分かる内容であっても素人の議論しかできないのが明らかになってしまうのです。

ただ、相変わらずメディア側の問題なのですが、国際関係論の専門家にロシア軍が苦戦している理由を尋ねたりする愚挙を繰り返しています。

防衛研究所の専門家であれば、日常的に様々な軍事情報に接していますから、例えば、ロシアが「極超音速ミサイル」を使ったとテレビが報道しても、それが「キンジャール」であると気が付けば、空中発射の弾道ミサイルであることくらいは常識的に分かります。

しかし大学で国際関係論などを教えている学者は、よほど軍事情勢などに関心をもって研究を続けている研究者でないかぎり「キンジャール」が何なのか理解しないはずです。

それらの人々にロシア軍が苦戦している理由を尋ねること自体が見当違いなのです。

当コラムでは先月初頭にロシア軍の指揮官が近代戦の戦い方を知らないのではないかという疑問を呈し、さらにロシアがウクライナ侵攻に予定よりも時間がかかった結果、気象状況のロシア側にとっての悪化により雪解けにより戦車が動けなくなっているのではないかと推測しています。また、テリー伊藤氏が「ウクライナは勝てませんよ。」と言い放ち、橋下徹氏が「市民の犠牲を拡大させないためにもウクライナは降伏するべき」という議論をしている最中に、ロシアに勝機はないであろうという予測をしています。

それらの推測は、ロシア及びウクライナ両軍の戦い方から、それぞれの装備の活用状況、兵士の士気、採用されている軍事ドクトリンの適否などを評価し、さらに気象状況やロジスティックスの状況などを見据えて行うもので、軍隊において幕僚業務を経験していれば特別なことではないのですが、そのような経験を持たない人々が何を根拠にウクライナは勝てないなどと断言するのか不思議でなりません。

また、白旗を揚げれば平和になるという能天気さにも呆れます。当コラムでは降伏すれば始まるのは虐殺だけだと指摘していますが、まだ激戦が行われている最中にすでに虐殺は始まっています。

ウクライナ情勢に関する専門家たちさすがにそのような低レベルのコメントはせず、各専門分野からのコメントを続けているようです。

ロシアの戦費は誰が計算したのか

筆者がどうしても納得できないことがないわけでもありません。

ロシアの戦費が一日2兆円かかるので、ロシア経済を考えるとそれほどもたない、ということがよく言われています。テレビでコメントしている専門家たちもこの数字を採用しているようです。しかし、コロナの専門家たちと違うのは、ウクライナ情勢についてコメントしている専門家たちがこの戦費に言及する際には「ロシアの戦費は一日二兆円に上ると言われています。」というように伝聞推定の言い方をしていることです。自分で計算しておらず、またその推計の検証もしていないということを表明しているのですが、これが専門家の態度だと考えます。

コロナ禍では、一昨年は致死率が3%ということが公然と言われていました。2020年に3%の致死率の疫病で緊急事態が宣言されるような事態であったのであれば、その年の死亡者が前年度よりも1万人も減少するなどということが起こるはずはありません。しかし、この数字が公然と使われていましたので、当コラムでは再三疑問を呈してきました。

この度のロシアの戦費についても筆者は2兆円と言われている根拠について疑問を持っています。

戦費を見積もる場合に考えなければならない問題が二つあります。

まず、どの程度の兵力が投入されているのかです。伝えられているロシアの兵力をどう見積もるか、連日どの程度の犠牲が出ているのかについての確かな情報がないので計算がしにくいのは事実でしょう。

また、戦費を作戦を維持していく費用として見積もるのか、あるいは失われた戦力の回復に要する費用も考えるのかによっても見積もりは桁が変わってきます。

弊社は軍事や安全保障を専門とするコンサルティングファームではないのでロシアの戦費を算出する具体的な根拠を持ち合わせておらず、極めて大雑把に見積もるしかないのですが、それでもどう考えても2兆円という見積もりは桁が間違っているのではないかと考えています。

海軍が動くと戦費は大きくなるのですが、この度のロシア海軍はそれほど大規模に作戦を遂行しているようには見えません。海軍の輸送艦が港で陸揚げ中にウクライナに攻撃されて撃沈されていますが、これは大きさの割に建造費が安い艦種ですので、それを計算に入れても2兆円という数字の根拠が分かりません。

現在のルーブルの最大40%の下落やロシア国内の10%を超える強烈なインフレを考慮すると計算ができなくなりますので、日本円に置き換えて、かなり大雑把に見積もっても戦費が一日1000億円程度ではないかと考えられます。ただ、この数字はちょっと前提が変わったり、見方を変えたりすると数倍になったり、数分の一になったりしますが、それでも2兆円という数字が何をもって算出されたのかを疑問視する根拠にはなるかと考えます。

したがって、戦費一日2兆円を前提としてロシアの継戦能力を見積もるのは危険かもしれません。

とにかく酷いのは感染症専門家

厚労省の専門家会合が2018年末に大流行した季節性インフルエンザの致死率よりもオミクロン株の致死率が高いと考えられるという分析をしました。

この時のインフルエンザの致死率を0.01%から0.05%と計算し、オミクロン株の2月21日時点での致死率を0.13%と計算しています。

筆者はこの専門家会合のメンバーの専門性を疑っていますので、この数字は信じていません。

彼らもインフルエンザの致死率については自信がないようで、感染者数が推計に基づくので正確な評価は難しいと言っているようです。

インフルエンザと新型コロナでは死者の数え方が全く違うので、そもそも致死率を比べることにそれほど意味があるとも思えませんが、それにしても彼らの計算は意味が分かりません。

そこで、彼らがどのような計算をしてこの数字をたたき出したのかを調べようと考え、その計算根拠となる資料を見せて欲しいとある筋を通じて頼みました。

すると、資料が独り歩きして世間にあらぬ噂が広がることが懸念されるし、そもそもが専門家会合のメンバーの先生方の資料であり、公文書ではないので国から開示することはできないとのことでした。

まぁ、筆者も元は国家公務員で、防衛省内部部局や海幕勤務で役人の発想くらいはよく知っていますから、そんなことでは驚きません。

しかたなく、公表されている数字から、専門家会合がどのような計算をしたのかを類推することとして、三日間ほどかけていろいろな計算をしてみました。

何故三日もかかったのかというと、結論としては筆者が専門家会合の方々の能力を過信していたからです。

結局分かったのは、さすがにこんな計算はしていないだろうと検証をしていなかった計算をしていたということです。

正直に申し上げます。それが分かった瞬間の筆者の感想は「こいつらのバカさ加減は半端じゃないな。」ということです。

彼らがやった計算は結局はある期間におけるコロナ認定死亡者数を同一機関の検査陽性者数の累計で割っただけです。

彼らは2月21日におけるオミクロン株の致死率を計算したとしていますので、今年の1月1日から2月21日に期間を限定します。

同期間の検査陽性者数の累計は27万3433人です。一方の同期間におけるコロナ死者数の累計は3610人です。

この割合を計算すると0.134%です。

中学生向けの説明をすると

検査陽性者数で致死率を計算しようとするなら、検査陽性者の中から亡くなった人数を計算すべきですし、全国のコロナ死と認定されて人数で致死率を計算するのであれば、全国の陽性者数で計算しなければなりません。全国民を検査しているわけではないので、全国の陽性者数の集計はありませんから、これを推定する必要があります。

この陽性者数の推定はちょっと面倒ですが、できないことではありません。しかし、厚労省の専門家会合はその手間を省き、手元にある数字を使ったようです。

これは中学生ならやってはいけない間違いであることに気付くはずです。分母と分子が異なる次元で集計された数字なのですから、そのまま割合を出してはならないことくらいは中学生なら十分に理解できます。

ところが専門家会合はこの簡単な理屈が理解できないのです。

あるいはさすがに自分たちの計算が安直で拙劣であることには気付いていて、それが公表できない理由になっているのかもしれません。

まん延等防止重点措置や非常事態宣言などがこの程度の頭の専門家たちの助言によって出されてきているのです。

そもそも、コロナ禍における致死率を計算するに際して、コロナ死と認定された人数を死亡者としてカウントすること自体が間違いです。

ご承知のとおり、この認定は死亡した後、遺体からコロナウイルスの破片のようなものが検出されてもコロナ死とするものです。コロナが発症して重篤化して亡くなった人数ではありません。事故死だろうが自殺だろうが、死亡後にウイルスが検出されたらコロナ死です。

一方のインフルエンザ死者数は、医師がインフルエンザであると診断して治療に当たったものの亡くなった人数です。

そもそも重篤化した人より死亡者が圧倒的に多いのはおかしくないか?

コロナ死者数がいかにいい加減な数字なのかを説明するのは簡単です。

一般に病気で亡くなる場合、病気が発症し、それがだんだん悪化し、危篤状態になり亡くなるという過程を取ります。

コロナの場合であれば、陽性判定を受け、重篤化し、そして亡くなったのがコロナ死と言われれば納得ができます。

しかし世の中で起っていることはそうではありません。

オミクロン株が猛威をふるいだした今年初めから3月半ばまでを見てみましょう。

1月1日から3月16日までにコロナに感染し重篤化した人数は1491人です。これに対して同期間にコロナ死と認定された人数は8210人でした。

重篤化した人数の5倍以上の方が亡くなっているのです。どう考えても理屈が合いません。

100歩譲って死者数と重篤化数が同じならまだ話は理解できます。

重篤化した人々がすべて亡くなってしまうということですから。

本当にコロナで亡くなった人数は?

これまでのコロナ死と認定された方々の荒っぽい推定では8割以上の方は病院のコロナ病棟で亡くなった方ではありません。ほとんどが介護施設や自宅で看取られて亡くなった方々です。

弊社での推計では、3月17日現在のコロナでの死者数の累計は2777人です。これはこの二年間におけるコロナ病棟における死者の累計です。

計算は全国のコロナ病棟で亡くなったECMO装着者数と人工呼吸器装着者数の合計が把握されている病床数の8割程度での計算であることを考慮しています。

コロナを発症してECMOを着けて亡くなる方は装着数に対してはそれほど多くはありません。これはECMOの装着に伴う苦痛などを考慮して、装着による効果が期待できる患者にのみ装着されるからです。一方、人工呼吸器は肺炎の末期では苦痛を和らげるためにほとんど装着されるはずですので、その合計はコロナを発症して亡くなった方の合計と判断してそれほど大きな誤差はないかと考えています。

しかし、コロナ死の認定を受けた死者数の二年間の累計は27000人程度ですから、単純に考えると致死率は10分の一になるはずです。

これは例年のインフルエンザに比べて遥かに低い値です。

これが我が国におけるコロナ禍の実相であり、しっかりと数字を見れば読み解くことができるのですが、この国の感染症の専門家というのは、その程度のことができない人々なのでしょう。あるいは、何らかの意図があって、その数字を使って社会を騙しているとしか思われません。