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専門コラム「指揮官の決断」

第289回 

専門家の質の差

カテゴリ:危機管理

コロナ禍に登場した専門家たち

一昨年、コロナ禍が始った頃、当コラムでのこの問題の取り上げ方として、危機管理の専門コラムであり医療を専門としていないので、この問題を危機管理の側面から考え、主としてメディアの取り上げ方やそれに対する社会の反応の面を注視していく旨を宣言しています。

しかし、実際に始まってみると、弊社の武器とするところの数理社会学的手法によってこの問題を眺めるといろいろな分析ができ、かつテレビでコメントを述べる専門家たちがいかにレベルが低いかを目の当たりにすることになりました。

それら専門家たちの多くは致死率の計算もろくに出来ず、医師会会長はそのメディアを鵜呑みにして政治的発言を繰り返して自粛を求め、一方で自分たちは政治家を囲んだパーティなどを開催していました。新聞やテレビは通信社の英語も数学も理解しない記者が書いた出鱈目な記事を何のチェックもせずにそのままコピー&ペーストをしているだけであることが判明しましたし、とにかく出鱈目な報道が目につきました。

この中で特に酷かったのがテレビに専門家として呼ばれる感染症専門医たちでした。彼らは医師なので、目の前の患者を診ることにかけてはプロなのでしょうが、統計学的知識を持ち合わせていないらしく、グラフの見方を全く知りません。

それは政府の専門家会合もそうですし、多くの自治体のアドバイザリーボードも然りです。ある専門家会合のメンバーと会ったことがありましたが、本当に大学の教養課程の入門的な統計学すら理解していないことに愕然としました。

これがどの程度酷いかと言うと、相加平均と相乗平均が異なること程度は理解しているものの、両者の使い分けについては理解していないという程度です。本当に私が会った専門家はその違いを理解していませんでした。

恐るべきは、その程度の専門家たちがこの国のコロナ対策を決定し、経済をどん底に陥れ、子供たちや大学生たちの人生を台無しにしていることです。

ウクライナ情勢についての専門家たち

一方で2月末に始まったウクライナにおける戦争についても数々の専門家が動員されてテレビでの解説などを行っています。

筆者は国際関係論や軍事についての専門家ではありませんが、海上自衛隊に30年間在籍しておりましたので、それぞれについては職業上の必要から学んできました。したがいまして、専門家ではないものの、只の素人でもありません。自分なりの見方は持っているつもりではあります。

その筆者の眼から見ても、このウクライナ情勢について解説をしている多くの専門家たちは、国際関係論や安全保障論などの立場は異なっているものの、それぞれの分野における専門家としてなるほどと思わせる議論を展開しています。

テレビの司会者の質問の仕方が拙劣であるため、国際関係論の専門家に軍事に関する技術的な質問などをして見当違いの答えが引き出されたりすることはあるものの、概ね当を得た解説がなされているようです。つまり、筆者のような素人にも簡単に出鱈目だと分かるような解説があまり見当たらないということです。

差異はどこから生まれるのか

このコロナ禍とウクライナ情勢に関する報道における専門家の違いがどこから生まれるのかを時々考えます。

一つの仮説でしかありませんが、次のように考えています。

国際関係論や安全保障の専門家たちを見ていると、多くが大学の研究者や防衛研究所の研究員たちです。つまり、専門家としての研究方法を熟知しており、その方法論を外していません。そして専門家として専門分野について語る際の怖ろしさをよく知っています。

したがって、専門分野について語る時と、専門分野以外のことに言及する際のものの言い方を区別するなどの配慮がなされています。

一方、コロナ禍については呼吸器内科の医師などが公衆衛生に関わる内容などの統計学的知識が無ければ発言できないようなテーマについて平気で発言をします。また感染症専門医と称する医師たちも登場しますが、この人たちの発言が筆者でも看破できるほど出鱈目であるところを見ると、感染症専門医という職業はそれほど敷居の高いものではなく、素人でもなれる程度のものか、その程度の能力なので感染症病棟で仕事をさせてもらえない連中がテレビに出ているのかもしれません。

私たちは真実をいかにして知ることが出来るのか

問題は、それら玉石混交の解説から私たちが何を学べばいいのかということです。

社会における問題について、私たちはテレビや新聞から知ることがほとんどでしょう。

筆者はたまたま数理社会学の手法によりテレビのコロナに関する報道が出鱈目であることに気付き、海上自衛隊で得た知見によってウクライナ情勢に関する報道を評価しているのですが、そのような基礎的知識や経験がない分野については報道を信ずるしかありません。

しかしオルテガの言う「大衆の反逆」の時代において、低レベルの専門家たちによって大衆の空気が醸成され、その空気が政策を曲げていく結果、大衆が社会を支配していくとすれば、それは怖ろしいことです。実はその専門家たちこそオルテガがもっとも攻撃した人々ではあるのですが、権力を掌握した「大衆」にもっとも大きな影響を与えるのがその専門家たちなのです。

私たちは真実を見極める眼を持たねばなりません。

真実を知らずに行われる意思決定は誤ったものになります。

当コラムでは、危機管理上の事態においては的確な情報は得られないのが常であると何度も申し上げてきています。

情報が適時適切に淡々ともたらされるようなら、事態は心配するようなものにはなっていません。本当に切羽詰まった状態においては、情報は入ってこないのが常態で、たとえ情報がもたらされたとしても、それらは前後の脈絡なく、断片的で、かつバイアスがかかっているのが普通です。

しかし危機管理上の事態を乗り切るための経営トップはそれらの情報から真実を見極めなければなりません。

ましてやテレビや新聞の報道くらいに騙されるようであれば危機管理上の事態を乗り切る経営者には慣れません。

「真実を見極める眼」を持つこと、これが危機管理においては極めて重要であると言えます。

今後、当コラムでも、いかにして報道から真実を見極めていくかについて研究を重ねていく必要があるとの認識に立って議論を展開してまいります。

皆様の御意見などをお待ち申し上げるとともに、積極的な議論へのご参加をお願いしたいと存じます。