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専門コラム「指揮官の決断」

第374回 

図上演習の薦め   ビジネスへの応用

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はじめに

これまで4回にわたって図上演習とはどういうものかをお伝えしてきました。

今回は、その図上演習をビジネスに応用するとどうなるかという話題です。

これまで、図上演習を何のために行うかということについて何度か語ってきました。

図上演習の目的は大きく分けて3つあります。

第一は、計画の立案に際して、時系列で検討することです。

第二は、立案した計画の実効性を確認することです。

第三は、これは「図上演習」ではなく、「図上訓練」の話ですが、関係者の訓練に用いることができます。

企業経営の現場では

企業経営の現場では、実に様々な計画を立てなければなりません。経営計画だけでも長期・中期・年度・月間など様々な計画があります。

その他にも株主総会を行う時には、その実施計画が必要でしょうし、創業からの節目の年にはそれなりの記念行事を行うことも必要でしょうから、そのための計画を立てることになります。

毎年入ってくる新入社員の教育や配属に関する計画も必要になるでしょうし、その類の恒例行事に関しては「計画」ではなく「実施要領」と呼ばれているかもしれません。いずれにせよ現状に応じた計画の立案作業が必要となります。

恒例行事で実施要領がある程度確定しているものの場合はいいのですが、会社が経験したことのないような事態への計画などには図上演習が大きく役に立ちます。

図上演習の実例

ある会社で実際に行われた図上演習の実例について説明します。

その会社で創立30周年記念行事を行うことになりました。

本社とは別のところにある工場において、工場従業員が参加する記念行事が行われ、社員食堂で社長以下の役員が出席して昼食会を実施する計画でした。

その工場での祝賀式典を終えて、本社社員や役員たちは一度会社に戻り、来賓が参加する祝賀式典が行われるホテルに移動、社長は着替えと奥様の迎えのために自宅に戻る予定です。

その意連の流れをどうするかという概案が出来たところで、企画部で図上演習が行われました。

図上演習では、ホテルでの式典開始時刻を中心において、その他の行事や行動についての時間が割り振られました。

そして、演習上では工場での式典は滞りなく実施され、本社社員や役員たちは会社に戻り、背広に着替えてホテルに向かいました。

社長は作業服から礼装に着替えるために一度自宅に戻りました。

ところが、そこでコントローラーから想定が出されました。

一度自宅に戻った社長とその奥様を迎えるために会社を出発した社長車が、途上で交差点で停止していたところに信号無視の車に衝突されるという事故が起こりました。自転車を巻き込んで人身事故になったため、警察の事情聴取や現場検証に時間がかかり、社長を迎えに行けないという状況が想定として出されたのです。

社長車に乗っていた秘書も社長宅に到着することができず、社長車に積んでいた社長の奥様手作りの来賓の方々へのお土産をどうするかも問題となりました。

結局、秘書が会社に戻り、会社のワンボックスカーを出して社長を迎え、途中の事故現場で社長車からお土産を移し替えて会場に着いたのですが、社長が開会に間に合わず、最初の挨拶ができないという事態になりました。

このことが図上演習の事後研究会で問題となり、対策を講じることになりました。

この会社が考えた対策は、そのような行事などを計画する際には、予期せぬ交通事故に備えて、会社と向上に業務車両を待機させる、あるいはタクシー会社と契約をして、スタンバイの車両を準備するというものでした。

その会社の祝賀行事の当日のことです。

社長を迎えに行った社長車は無事社長宅に着いてご夫妻を乗せて会場のホテルに向かいました。

ところが、首都高を走行中に事故渋滞が発生し、大幅に予定が狂い始めました。

図上演習に参加していた秘書の機転で、すぐ近くのICで首都高を降り、地下鉄に乗り換え、奥様手作りのお土産は秘書がタクシーに持ち込むことになりました。

その秘書は同時に首都高を使って移動中の数人の来賓に電話をして近くで降りるよう依頼し、本社のマイクロバスを調整して、ほとんどの来賓を拾い上げて15分遅れで開催ができることになりました。

この事例でも分かるように、あらかじめ図上演習を行って社長車が動けなくなるという事態を想定していたので、図上演習とは異なる事態での社長車が巻き込まれたトラブルでしたが、本社での待機車両が役に立ちました。

また、秘書が図上演習に参加しており、社長車が動けなくなるという事態を疑似的にではありますが経験していたので、その場での機転を効かせることがことが出来ています。

企業では防災訓練よりも計画立案に用いるべき

この会社が創立記念行事に関して図上演習を行った理由は、10年前に行った記念行事の担当者がすでにいなくなっていることと、創立記念行事自体の考え方が変わったことから、まったくの新規事業として扱う必要があったからです。

その図上演習により、各行事に必要な時間、移動に必要な時間などを見積もることができ、また、起こりうる事態についても検討を積み、自信を持って開催に臨みました。

このように、図上演習というのが、防災のためのものだと思われている一般の認識に反して、あらゆる計画の立案に用いることができます。

時系列で一つ一つ検討しながら、同時並行で行わなければならない作業なども検討していくことができ、クリティカルパスがどこにあるのかが明白になります。

計画の立案と言っても、イベントの計画だけではありません。長期や中期の計画に関しても同様に用いることができますし、その時点で様々な想定の下に中長期の計画が出来ていれば、年次計画はしっかりと地に足がついたものになるはずです。

次回は、企業における計画の立案に図上演習を用いる方法について、別の例をあげて解説します。