専門コラム「指揮官の決断」
第462回イラン情勢
はじめに
筆者のもとに、イラン情勢についての見解を聞かせろとか、危機管理の専門コラムとして、この事態について言及すべきであるというご意見がいくつか来ています。
にも拘わらず、当コラムはイラン情勢について語ってきませんでした。
開戦後、しばらくの間、それは国際法の問題として扱われ、メディアや評論家たちは、米国の国際法違反であるという筋書きで番組を作っていました。
筆者は、米国の国際法違反かどうか分からなかったので、見解の表明ができずにいました。
多くの評論家や国際法を専門とすると言われる大学の研究者まで、米国の攻撃は国際法違反だという立場に立っていましたが、その根拠は、先制攻撃だからだというものでした。
それは専門家の見解としては驚くべきもので、素人議論に過ぎません。
先制攻撃は国際法違反なのか?
現代では、自衛権の発動以外の攻撃は認められていません。
それでは、先制攻撃は自衛権の発動にならないのかという議論になります。
この理屈を説明し出すと論文一本、本一冊になってしまうので今回は詳しくは論及しませんが、テレビの評論家たちは殴られたら殴り返すのが自衛権の発動だと思っているようですが、それが素人議論なのです。
イランの事情がよく分からないと、どちらが国際法違反なのかよく分からないというのが正直なところです。
国際法の教科書を書くつもりはないですし、この分野の論文が少ないので、まともに書けば博士論文になるのですが、今さら学位を取ろうとも思っていません。そもそも論文審査をする学者と議論するのも面倒です。
ところが、4月28日、出光興産系の原油タンカーがホルムズ海峡を通って日本に向かっているというニュースが流れたのを機に、また世間が騒がしくなりました。
この間のエネルギーに関する報道も出鱈目ばかりでしたので、さすがに当コラムとしてもこれ以上放っておくこともできず、今回、筆を執った次第です。
コロナ報道と同じレベルの出鱈目さ
コロナ禍において、当コラムではテレビに出てくる専門家と称する連中を批判してきましたが、今回も、テレビの報道は出鱈目でした。
TBSは、いかにトランプ大統領がやったことが酷いことかを印象付けるために、境野晴彦という専門家と称する男を登場させ、ナフサについて「間違いなく、今の状況が続いたら、6月詰むんですよ、日本」と断言させ、「もう『ホルムズ海峡を通る』一択しかない」と持論を展開させました。
その嘘は、日本の備蓄量を見れば簡単に分かります。たしかに、ナフサは製品として備蓄する性質のものではないので、ナフサとしての備蓄量は10~20日分で、原油の備蓄が8か月分あってもナフサの備蓄が同程度と見ることはできませんが、首相が言うとおり、4か月分は確保できそうであり、その後の努力により、さらに年越しまでの分を境野の「ホルムズ海峡を通る一択しかない、という発言とは異なり、ホルムズ海峡を通らないルートで確保できたそうです。
評論家の中には、悔し紛れに、ナフサは品質管理上、備蓄はできないと指摘する者もいますが、原油を確保できれば、国内で生成することもできるので、ナフサの形で備蓄する必要はありません。
TBSの報道だけが出鱈目であったわけではありません。
筆者がたまたま観た番組では、某大学の経済学部教授と経済評論家の対談で、イランが1バレル当たり1ドルの通行料を課すことの経済的打撃について、これが石油化学製品価格にどれだけの影響を与え、ひいては日本経済に与える影響が計り知れないと述べていました。
原油タンカーは200万バレルくらいを積んでいるのが普通なので、通行料が3億円を超えるからです。
この連中は経済の専門家ではないでしょう。専門家なら、1バレル1ドルの通行料を課せられたら、製品価格にいくら反映され、それが日本経済にどのような影響を与えるかを計算できるはずです。
筆者は経済の専門家ではありませんので、製品価格にどれだけの影響を与えるかという計算はしませんが、ほんの微々たるものであることは瞬間に分かります。計算も要しません。
1ドルが160円としても、1バレル1ドルなら、1リットル当たり1円です。
ガソリンに課されていた暫定税率は1リットル当たり25円程度だったはずです。
それに比べれば微々たるものです。そんなことを経済学部教授と経済評論家が理解できないのです。(どの大学の何という教授なのかはここでは控えます。大学の営業妨害になりますからね。筆者の母校ではありませんでしたが、そこの卒業生であるというだけで、世間では一目置かれる大学です。はっきりと言います。こういう大学の教授を表現する言葉として「バカ」という言葉以外に思いつきません)
この連中は一隻3億円という通峡料に反応しているだけで、首都高や東名の料金と比べたのでしょう。
つまり、コロナ禍に限らず、テレビに出てくる専門家というのはその程度です。
テレビはコロナ禍で不安を煽って視聴率を稼ぐという経験に味をしめたのか、必死になってホルムズ海峡を通れないことによる影響を騒ぎ立てていますが、日本は世界でも極めて安定している国の一つです。
今回の事態に対して、日本政府は危機管理上はよくやっていると思います。
これまで原油の国家備蓄を放出したことはありませんでしたが、 国際協調の判断から先行して放出しています。前例のないことをやるのは役人らしくないですが、経産省の英断です。船が到着しなくなる前に放出を始めたのは見事です。
香港ではガソリン1リットルあたり660円にまで跳ね上がり、韓国は車のナンバープレートごとに給油できる日が決まったり、スリランカでは工場で燃料を使わないように週休3日になったりしています。
ヨーロッパ各国はジェット燃料の精製を中東に依存していたのでまもなく航空機が飛べなくなるでしょう。
翻って日本ではガソリン価格は、暫定税率廃止後に期待したほど下がりませんでしたが、レギュラーで160円台を推移していますし、統計を見ても、3月の燃料消費量は、前年と同様で、特別に締め付けられている様子も見えません。
テレビでは、燃料が高いので遠出は控えているというようなインタビューが出てきますが、諸外国のパニックに比べれば静かなものです。
日本は、1973年に第4次中東戦争によるオイルショックを経験し、全国のスーパーの店頭からトイレットペーパーが消えるという経験をしています。
また、1978年はOPECが大幅な原油価格の値上げを発表し、翌年のイラン革命や翌々年のイラン・イラク戦争の影響を受け、国際的に原油価格が2.7倍に跳ね上がり、日本も物価上昇に見舞われ、経済成長率も減速しましたが、第一次オイルショックの反省を踏まえてパニックが起こらず、大きな社会的混乱を生じませんでした。
この時の経験から、政府は原油の国家備蓄の方針を決め、今年の3月時点では280日分の備蓄を確保していました。この備蓄のための経費は毎年1280億円と言われています。
この備蓄のお陰で、今回の最大のオイル危機に際して、諸外国に比して落ち着いた対応ができています。
備蓄もさることながら、高市首相が就任以来、諸外国と積み重ねてきた信頼関係が効を奏していることも間違いありません。
原油はホルムズ海峡を通らずに太平洋を渡って北米から届きつつありますし、液化天然ガスはインドネシアや豪州から届きつつあります。
このような日本の状況を許しがたいと考えているのが、隣国韓国のようです。
この問題については、今回は言及しません。
とにかく、イラン情勢に伴うエネルギー危機に関し、日本政府はよくやっていると評価できるかと考えています。
ただ、いくらよくやっても、この状況が長引くことは好ましくありませんので、早期の収集が望まれます。
先制攻撃が必ずしも国際法違反ではない理由
最後に冒頭で述べた、先制攻撃が必ずしも国際法違反にはならないという議論の解説をしておきましょう。
西部劇の決闘のシーンを思い出してください。
お互いが距離を置いて睨みあい、相手が抜くの待っています。
相手が銃を抜きかけたところを確認して、それよりも早く抜いて撃ち、相手を倒します。
それで、その決闘の勝者は殺人罪に問われることが無くなります。
これと同じことが国際法に適用されます。
いいですか、重要なのは相手が撃ったら撃ち返すのではないということです。
相手が銃を抜く構えを見せたら、こちらも抜いて、先に撃って相手を倒しています。
こちらが撃たれるまで待つ必要はありません。
評論家たちや一部の野党の政治家たちは、先に攻撃することが国際法違反だと主張しますが、敵が攻撃に着手したところで、攻撃をかけるのが自衛権の発動であり、攻撃されたらやり返すのは自衛権の発動ではありません。
殴られて殴り返すのは正当防衛ではなく、単に復仇にすぎません。
最初の一発の攻撃を受けてからでなくては相手を攻撃できないのでは、最初の一発が核ミサイルだった場合に、どれだけの犠牲が出るのでしょうか。それが東京だったら、この国は機能しなくなります。
相手が攻撃に着手した段階で、その攻撃を止めるために攻撃しなければ、自衛権の発動にはなりません。必然的に先制攻撃になりますし、敵地攻撃になります。
社民党に福島という東京大学法学部を卒業して弁護士の資格を持つ頭の悪い参議院議員がいますが、彼女は、司法試験は合格したのかもしれませんが、正当防衛の要件を知らず、まして国際法における自衛権の概念も理解できていません。
彼女に言わせれば、飛んでくるミサイルに対処すればいいのでしょうが、迎撃ミサイルの命中率が100%でない限り犠牲が出ますし、飽和攻撃には耐えられません。
撃ち漏らした一発が核兵器だった場合、何万人の日本人が命を落とし、下手をすると首都が破壊されて行政が機能せず、この国がなされるままになってしまうことなど、彼女の発想は追い付かないのでしょう。あるいは、そうなっても構わないという信念の持ち主なのかもしれません。筆者たちは、そういう人間を「売国奴」と呼んでいます。
彼女の言う自衛権などは、国民に多大の犠牲を強いるための陰謀でしかありません。
イラン事案に関しては、イランの核ミサイルの準備状況が分からない限り、アメリカとイスラエルの攻撃が自衛権の発動だったのかどうか分からないのが現実です。
そもそも国際法は機能しているのか
ロシアのウクライナ侵攻は、どう考えても国際法違反です。
ブタペスト覚書によって、世界第三位の核ミサイル保有国であったウクライナに核ミサイルを放棄させ、代わりに安全は守ってやると約束しておいて、それを自ら破りました。
また、中国はフィリピンとの国連海洋法条約における仲介裁判所の判決を「紙くず」 と呼んで無視しています。
また、日本に対しては「サンフランシスコ講和条約」は無効だなどと主張し始めました。
中露ともに国連安保理事会の常任理事国です。
つまり、この世界には国際法秩序はすでに崩れてしまっていると言っていい状況になっていると思われます。
現在あるのは、常識が通じる国の間で交わされた約束を守ろうという道徳心だけです。
国連もほとんど機能していません。
国連の自由権規約委員会や人種差別撤廃委員会が、中国の手先となって、アイヌと琉球・沖縄の人々を「先住民族」として認識するよう日本政府に複数回勧告を繰り返していますが、最近、その動きが顕著になってきました。いよいよ、沖縄が日本の領土ではないということなのでしょう。
先住民族に領土を返さなければならないとなると、アメリカ合衆国は大変です。
インディアンに北米大陸を明け渡し、イギリス、フランス、ドイツなどに分散しなければならなくなります。
中国が賢くないなと思うのは、その論理を進めていくと、台湾は中国にとって不可分に一体化すべき領土ではないということになることです。台湾には高砂族という先住民族がいるからです。
そもそも、中国は対日戦勝記念日などを盛大に祝っていますが、日本が戦ったのは中華民国であり、その頃、中華人民共和国は存在していなかったことすら彼らは認識できないようです。
これを要するに、国際法というのは、すでに秩序が崩壊しており、「守る」ものではなく、「利用」するものだということです。
国際紛争において、どこが国際法違反だという議論は虚しいだけです。
強いて申し上げれば、現在、ホルムズ海峡はイランと米国の双方が封鎖しています。
これを国際法に照らすと、ホルムズ海峡は国際海峡なので、国連海洋法条約上、通過通行権が認められ、これを全面的に封鎖しているイランが国際法上は違反です。
一方の米国は、イランを目的地とする船舶、あるいはイランから出航してきた船舶の通峡を阻止しているので、これは交戦国の権利の行使であり、国際法上の違反ではありません。
この状況を見ていると、国際法を無視しているのがイランで、国際法を利用しているのが米国のように見えます。
国際法というのは、その程度に見ておけばいいものでしょう。法執行機関がありませんからね。
