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専門コラム「指揮官の決断」 

No.101 南海トラフ地震:図上演習のすすめ

南海トラフに関する情報はどう扱われるのか

 9月1日を迎え、全国で防災訓練などが実施されました。
 我が国を取り巻く状況を考えると、9月1日の1回ではなく、3月11日も新たに防災の日として年に2回くらいの総合的な防災訓練を実施したほうがいいと考えています。
 私たちは熱しやすく冷めやすい国民性を持っているようで、喉元過ぎるとすぐ熱さを忘れてしまうからです。

 今年の防災の日は特別な意味を持っていたはずです。
 政府が南海トラフに関連する情報の出し方を変えたのが昨年の9月26日であり、それ以後、初めての防災の日であったからです。
 私自身は、この情報の出し方を変えたことを発表するタイミングについて、政府の何らかの思惑があったのではないかなどとも考えていますが、これについては昨年に掲載した当コラムの記事でご確認ください。(専門コラム「指揮官の決断」 No.054 南海トラフ https://aegis-cms.co.jp/724 )
  
 要するに、大規模地震対策特別措置法により地震予知をして速やかに避難をはじめとする様々な防災上の措置を取るということが現在の地震予知技術では不可能だと認めざるを得なくなった気象庁が、地震に関する収集データの異常を察知したことを情報として発表するというに留まるということです。
 
 多くの皆様は、政府の発表の仕方がいつの間に変わったのかと思っておられるかと存じます。
 この発表が行われた昨年の9月というのは、日本中が北朝鮮の弾道ミサイルで騒いでいた時期であり、内閣府の発表はその間にさらりと行われてしまったので見過ごしてしまった方が多いはずなのです。
 
 巨額の予算をつぎ込んで結局地震予知はできませんという発表を行うに際しては絶妙のタイミングだという穿った見方もできないわけではありませんが、ある意味で気象庁は立派だと言うべきかもしれません。 
 もう勝てないと分かっていた戦争で、国民に嘘の戦果を発表し続け、特攻などというまともな作戦家はまず考えない狂気の沙汰に多くの若者の命を注ぎ込んだ太平洋戦争時の軍部に比べれば、大変立派な態度だと言わざるを得ません。
 気象庁も官庁であり、官僚もいるはずで、多額の予算を注ぎ込んでダメでしたとは言いたくないという思いもあっただろうと思うのです。

南海トラフ地震が起きると・・・

 東日本大震災以降の地震に関する研究の進歩の結果、南海トラフ周辺でスロースリップという現象が頻繁に観測されていることが分かり、特に豊後水道近辺で顕著に観測されているとのことです。
 私は地震の専門家ではないのでこの解説には踏み込むつもりはありませんが、このスロースリップという現象が南海トラフに起因する大地震の背中をひと押しするおそれがあることが指摘されています。
 
 南海トラフに起因する地震の東日本大震災と異なる最も顕著な点は、津波の到達時間です。
 東日本大震災の場合、最初の津波が到達したのが早いところで発災から30分後、福島県相馬では50分後でした。
 一方、南海トラフに起因する地震が起こす津波は、早いところでは発災後2~3分後に到達すると予測されています。
 
 さらに問題なのは伊豆半島から九州まで伸びる東海、東南海、南海の各震源域の長さです。
 
 仮に東海でプレートが弾けて大地震が発生し、それが東南海に連鎖し、さらに南海に連鎖していった場合、最初の揺れが始まって南海トラフ全体の揺れがおさまるまでに15分程度かかると予測されています。
 この間、震度5~7の揺れによりほとんど身動きが取れません。 
 しかし津波は3分後には襲ってきます。
 つまり、地震で身動きが取れずにいる間に津波に呑み込まれてしまうのです。

 この恐ろしい南海トラフ地震が起きる確率が、今後30年間に70%と言われてきましたが、今年の1月に70~80%に引き上げられました。

 私は元国家公務員でマスコミ対応や国会対応なども経験していますので、行政機関がある発表をする際にどのような内部の議論や思惑があったのかを考えることがあります。
 70%と言われた確率を70~80%に引き上げるということの裏には、かなり大きな事情があると考えて間違いありません。
 政府は相当重要な情報を持っていると考えても不思議ではありません。

 なぜなら、この確率は10単位で発表されており、75%でも85%でもないのです。
 次に引き上げるとなったら90%と言わざるを得ないのですが、この数字を出すとこの社会はパニックになります。
 だからと言って70%で据え置くことのできない事情があるのかもしれません。

 あるいはそれは穿った見方で、過去2000年くらいの歴史を概観して単純な確率を出すと1年経てばその分確実に確率が高くなることも間違いありません。
 試しに私が手元にある荒っぽい資料で単純に統計的処理を施して向こう30年以内の発災確率を計算すると、二項分布でもポアソン分布でも80%程度の数字が出てきます。
 同じ処理で富士山の噴火確率を計算すると向こう30年で30%弱の数字が出てきます。

 いずれにせよ、南海トラフに起因する地震は30年以内に極めて高い確率で生起します。
 向こう30年以内と言うことは25年くらいたつと要注意ということではなく、明日起きても何の不思議もないということなのです。
 さらに向こう30年以内が70~80%の確率ですが、南海トラフに起因する地震が起こること自体の確率は100%です。
 プレートが毎年数センチずつ動いている以上、この歪が溜まってある時弾けるのは時間の問題であり、避けることはできません。

私たちはどうすればいいのか・・・

 
 
 それでは気象庁が各地に設置したセンサーで異常が検出され、臨時情報が出された場合、私たちはどうすればいいのでしょうか。
 
 基本的には地方自治体から避難勧告が出されるのに従って避難を開始すべきなのですが、当コラムでも度々指摘しているとおり、その地方自治体が問題なのです。
 防災に関する情報及び指示を出すのは-災害対策基本法により市町村長の責任と権限となっています。
 私は私の地元自治体の危機管理部門がどの程度の責任感を持って仕事をしているのかを目の当たりに見て唖然とした経験がありますので、これをまったく信頼していません。
 自分の判断で動くしかないのだろうと思っています。
 (詳しくは当コラム No.093 防災に関する情報 https://aegis-cms.co.jp/1209 をご覧ください。)

 さらに問題なのは、これは地方自治体にとっても判断するのが大変だろうなと同情を禁じ得ないのですが、緊急情報を受けて避難勧告を出した場合、その状態がどの程度の期間続くのかということです。
 
 東日本大震災の場合、前々日3月9日、M7.3の地震が起きており、これが前兆現象だったと言われていますが、歴史的に観ると前兆現象から発災まで2年以上の期間があったことも珍しくなく、この間避難勧告を出したままにすることはできないだろうと思われます。
 避難生活が長引くことに起因する健康管理上の問題、社会生活上の問題、経済活動の沈滞の問題など様々な問題が生起するはずです。
 そこで自治体は避難勧告をどうするかという問題に取り組まなければなりません。
 そこで下される判断は、地震に関する科学的な根拠をもとにしたものではなく、多分に政治的、経済的な判断が行われることになるでしょう。

 
 私たちの社会が経験したことの無い未曽有の災害の発生が目の前に迫っているのです。
 社会はおそらく大混乱に陥るでしょう。
 その中で行政も企業も的確な対応を次々に行っていかなければなりません。
 行政は住民の安全を確保しなければなりません。
 企業にもやはり大きな責任が課せられます。
 
 この未曽有の災害に日本が襲われた場合の我が国の損害を金額にすると災害発生から20年間に渡り1400兆円という気の遠くなる額に上ると計算されています。

 世界の2流国に留まることはできず、3流国に転落することは必至です。

 企業は何としてもこの大規模災害に生き残り、復興の先駆けとならなければなりません。

図上演習の勧め

 そのためにはしっかりとした危機管理を行っておく必要があります。
 南海トラフがズレてから考えるのでは遅いのです。

 来る南海トラフ地震で何が問題となるのか、その際に自分たちは何ができるのか、何をすべきなのかを洗い出しておくことが重要です。

 そのための非常に強力なツールとなるのが図上演習です。

 図上演習は実際に人員器材を動かさずにできるので便利というだけではなく、誰も経験したことのないような事態に立ち向かう際、あらゆる知恵を集めて検討するために極めて強力なツールとなります。

 図上演習については当コラム「指揮官の決断」No.032 図上演習の秘密 https://aegis-cms.co.jp/581 または弊社ウェブページ https://aegis-cms.co.jp/cpx をご覧頂きたいと思いますが、皆様に一刻も早くこの手法に習熟して頂き、来る未曽有の大規模災害に毅然と対応する経営者となって頂きたいと願っています。

 数多くの市民を救うのは警察・消防・海保・自衛隊かもしれませんが、この国を救うのは経営者の皆様なのです。