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専門コラム「指揮官の決断」 

No.102 トイレを使うにも順番があるのです:プロトコールとは何か

そもそもプロトコールとは

 当コラムでは度々危機管理に重要な3要素として「意思決定」「リーダーシップ」そして「プロトコール」をあげています。
 
 「意思決定」と「リーダーシップ」は一般のビジネスマンの皆様にとっても何となく何を語ろうとするものなのかをご理解頂けるのですが、「プロトコール」はあまりお耳に馴染みが無いかもしれません。

 当コラムも100号を超え、このプロトコールという言葉が何度も登場していますので、この意味が曖昧なままであると、何を言いたいのかをしっかりとご理解頂けないおそれがあります。
 今回は「プロトコール」とは何を意味するのかをお伝えしたいと思います。

 
 プロトコールとはもともと外交用語です。
 儀礼、儀典、議定書などの意味で使われていました。
 
 もともと古代ギリシャでパピルスで作られた書物の最初のページをプロトコルと呼び、そこにはその書物の内容などが記載されて目次のような役目を果たしていたと言われます。
 
 外交の場においては、国際的な儀礼や儀式の手順などの基本原則を示すものとして扱われています。
 
 そこから派生したのでしょうが、情報工学の世界では情報通信を行う際の取り決めなどを指してプロトコールと称するようになりました。

 さて、当コラムでプロトコールと言う場合には特別な意味合いがあります。

 それは外交儀礼を指しているのですが、組織が組織の外部と何らかの関係を持つ際の、組織の振舞い方全てを称してプロトコールと呼んでいます。

 つまり、「意思決定」と「リーダーシップ」が組織内部の問題であるのに対して、「プロトコール」は組織がいかにその外部と関係を持つかという問題を扱うのです。

 それは会社に来られたお客様への対応に始まり、マスコミとの対応、広告の出し方など、およそありとあらゆる対外的な関係を含みます。

危機管理においてプロトコールを重要視する理由

 これを何故重要視するのかという点についてはかつて掲載したことがありますのでそちらをご確認いただければと思いますが、この対外関係がしっかりとしているということは危機管理上も極めて重要なのです。(専門コラム「指揮官の決断」 No.003 プロトコールが企業経営に不可欠な理由 https://aegis-cms.co.jp/127 )

 危機管理上の問題のほとんどは、自らに問題があるか、あるいは見落としから生じます。
 
 例えば、コンプライアンス違反は自らに問題がある場合の典型であり、まさに身から出た錆なのです。
 
 また、事故のほとんどは見落としが原因です。
 
 つまり、降って湧いたような、自らにまったく原因の無い、あるいは予見不可能な危機というものは滅多にないのです。
 何らかの原因があったり、手抜きがあったりということがほとんどです。
 
 ここで私たちが学ぶべきなのは老舗旅館の女将のおもてなしです。
 
 まず普通の感覚では気が付かないような細かい気配りをして、あるべきものをあるべきように整えてお客様を待ち受ける、その女将の執念のようなものには学ぶべきものが多々あります。
 僅かな汚れどころか置物の位置のずれ、従業員の立ち振る舞いなどあらゆるもの、動きを把握し、完璧を目指す、その覚悟は組織を危機から救うことに繋がっています。

 完璧なおもてなしができる女将は、自ら危機を招くようなヘマとは無縁です。
 何があっても暖簾にかけた誇りを守りとおすという覚悟があればコンプライアンス違反などを起こしようがないのです。その意味で吉兆の女将は失格だったということです。
 
 また、わずかな異変も見逃さない心配りは危機の前兆も見逃すことがありません。
 次々に手を打って行くはずです。

 つまり、より完璧を求め、そしてそれを何があっても妥協せずに維持し続ける覚悟や執念が組織を危機から救うのです。
 
 そのような組織は脇が固く、部外からの信頼を得ることもできます。
 組織が外部から信頼を勝ち得ているということはあらゆる面において重要なことです。

 

トイレを使うにも順番があるのです

 米国で現地法人の経営責任者を勤めていた頃、日本への出張の帰りにシカゴのクライアントに会うために成田からシカゴに飛んだことがありました。
 私がCEOとして勤務していた会社は南カリフォルニアにあったのですが、この時はシカゴに寄って帰るつもりでした。

 シカゴでの入国審査の行列が異常に時間がかかり、私たちVISAを持っているものの方がESTA申請で入国する方々よりも時間がかかるという異常な日でした。

 その時、私の前に並んでいた方とその処理のもたつきに関してちょっと話をしたのですが、なんと翌々日、私がサンディエゴへ戻る飛行機に乗るために搭乗ゲート近くで座っていると、その彼が同じ便に乗るために現れたのです。
 偶然に驚きつつ、自己紹介などすると、彼は日本でも有名なホテルチェーンの役員でした。
 そのホテルは私もお気に入りで、泊まる都市にそのホテルがある場合には極力そこを予約するようにしているホテルです。
 サンディエゴからの便の到着が大幅に遅れ、したがって出発も大幅に遅れたため彼といろいろな話をしたのですが、その中でそのホテルのプロトコールについての話を伺いました。

 その方が得意げに語るのは、彼がある都市で支配人をしていた時、毎朝、課長以下に社員用のトイレを手作業で掃除をさせていたということでした。自分も課長の頃に部下を率いてやっていたのだそうです。

 自分の手でトイレを徹底的にきれいにすることにより、客室を見回る時の観察眼やいろいろな気付きのポイントを得ることができるからなのだそうです。

 私は学校を出て就職した先が、トイレの清掃が徹底してうるさいことが伝統となっているような組織だったので、この話に大変興味を持ちました。

 その役員の方の指導には感心したので、社員がどのように受け止めていたかとか、具体的にどのような効果が上がったかなど根掘り葉掘り聞いていました。

 私がやけに関心をもっていろいろ聞くのでその役員の方も、いろいろな想いについて語ってくれました。

 そのホテルチェーンを私が気に入った背景がよくわかるお話をいろいろ伺うことができて長い待機の時間も苦にならなかったのですが、一つだけ確認したいことがあって質問をしました。
 
 「社員用のトイレを使うについて、社員に使う順番についてどれから使うか何らかの指導をされましたか?」

 その役員の方は「?」という顔をして、「特にそういうことはしませんでした。」ということでした。そして「何かあるのですか?」とお尋ねになりました。

 私は「学校を出て就職した先で指導を受けたのですが、トイレは入り口から見て奥から使えと教えられました。奥から使うようにしていると、必然的に一番奥の便器が桁が異なるくらいに多数回使われるようになります。その結果、確率の問題ではありますが、一番奥の便器の故障が多くなります。これを万遍無く使っていると、ある時一斉に故障がおこるおそれがあります。一番奥が故障している場合には修理作業も一番奥で行われるので手前の便器の使用には支障がありませんが、手前の方でいくつかの便器の修理が行われると全体が使えなくなったりして不便極まりありません。
 その上、手前で用を足していて偉い人が入ってきて後ろを通られるのもいかがなものかということもあります。
 ビジネスの世界で考えると、社員用のトイレは会社に来られたお客様も使われます。そのお客様に入り口近くではなく、奥の方まで行けということにもなりかねません。また、身体障碍の方もお出でになるかもしれません。そのような方々のために入り口近くを空けるために、社員には一番奥から使うように指導されるのはいいかもしれませんね。」と申し上げました。

 その役員の方は、しばらく黙って考えておられましたが、「貴方が学校を出てそれを教えられたというのはどういう会社ですか?」とお尋ねになりました。
 私は「企業ではありません。海上自衛隊の幹部候補生学校です。」とお伝えしたのですが、その役員は「あゝ、江田島ですね。」と腑に落ちたような顔をされ、そのまま黙ってしまいました。
 しばらくして、「さすがですね。」と頭を下げられました。そこまで気が付かなかったとのことなのです。
 「その江田島の海上自衛隊の学校は見学ができるのですか?」ということなので、一般の見学ではなく、ある目的をもった研修ができるようにコンタクトポイントなどをお伝えして別れました。

 そのホテルチェーンには最近行ったことがありませんが、その後どのようなプロトコールを見せてくれるのかを楽しみにしています。

 私が当コラムでプロトコールという言葉をつかう時はこのような意味を含んでいるということをご承知おき頂ければ幸いです。