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専門コラム「指揮官の決断」

第146回 

戦場を間違えてはいけない

カテゴリ:コラム

意思決定において最も重要なことは・・・

当コラムでは意思決定において最も重要なことは意思決定の目的を誤らないことだと指摘したことがあります。

また同様に、意思決定における自らの使命をしっかりと認識することの重要性についても触れてきました。

その観点からビジネスマン必読の書と言われる『失敗の本質』もこの重要な論点を理解していないと批判してきました。

なぜ私がそこまで意思決定の目的や自らの使命にこだわるかと言えば、それらがあまりにも自明で疑う余地のないものと受け取られ、皮相な理解のまま意思決定が行われた結果、すべてが失敗に終わってしまうという例が数限りなく見受けられるからです。

企業のコンプライアンス違反などはほとんど100%が自らの使命を忘れて目先の利益に走ったことによるものであり、意思決定の目的を誤った典型例です。

危機管理上の意思決定は、十分な時間的余裕を与えられず、情報も極めて不十分なまま現場で何が起きているのかを看破しなければならないのが普通です。そして、これから何が起こるのかを正しく予測し適切な対応をしていくという極めて困難な課題と戦うことになります。しかし、そのような場合でも意思決定の目的、自らの使命を忘れさえしなければ、そう酷く誤った意思決定にはならないはずです。

政治家を志す奴なんか嫌いだ!

昨年、ある会合の席で、現職の市議会議員や次の市議会議員選挙に立候補しようとする人たちが何人も集まっているのに出くわしたことがあります。 

私の政治家嫌いは筋金入りであり、公務員だったころは有権者の代表である彼らに表面上は最大限の敬意を払っていましたが、公務員でなくなったときから、私の政治家に接する態度はにべもないものになり、事情を知らない人が見ると、なんと非常識かつ無礼な男だろうと思われるような対応に変わりました。何せ、政治家を目の前にして「俺は政治も政治家も大嫌いだ。」とはっきり発言したりするので、我が家の司令長官もハラハラしどうしではないかと思ったりもします。

(なぜ我が家に司令長官がいるのかはこちらをお読みください。i=aegismm&no=all&m=26

この会合の時も、主催者の一人がいろいろな市議会議員に私のところに名刺交換に行くように勧めているらしく、次から次へと私のところに名刺を手にやってきました。

その会合で私は地元の漁業協同組合の方と面識を得て、地元で獲れる魚について質問攻めにしていたこともあり、市議会議員が近寄ってきてもあえて知らぬ顔をして話を続けていました。

そもそも私の政治家嫌いを知っているのに私と名刺交換をするように勧めている主催者に腹を立てていたのです。

しかし、市議会議員の方は自分と話をしたがらないという人間がいるということが分からないらしく、平気で人の話に割り込んできます。

この時集まっていた議員たちは若い人が多く、20代の議員すら混じっていました。

もともと政治家が嫌いな上に、若くして政治家になろうなどいう野心を持っている輩には我慢がならないので、私の対応は不愛想極まりないものになります。

しかし、議員になろうというような人物はそんなことを斟酌したりしません。人の機嫌にお構いなく、自分の話を始めるのです。

特に私に向かって、「今後とも危機管理についていろいろご指導を賜りたい。」などとぬけぬけと抜かす奴には我慢なりません。

私はコンサルタントです。私から指導を受けたければコンサルティングを受ける必要があるということを彼らは理解していません。

私にすれば「お前を支持しているわけでもないのに、なぜ教えてやらなければならんのだ?」というところです。

戦場を間違えるな

この会合が開かれたのは統一地方選挙の前であり、それらの議員を応援しようという意味もあって彼らを招いていたのでしょう。彼らの話は来る選挙にどうやって立ち向かうかという話がほとんどでした。

一人一人があいさつするときも、「この度の戦いでは全力を尽くしてまいります。」などという決意表明が相次ぎました。

会の終わりの頃、主催者が何人かの参加者を指名して彼らに対する応援の言葉をお願いすると言い出したので、いくらなんでもこの政治家嫌いの私には回ってこないだろうと思っていたら、いきなり私が指名されてしまいました。

海上自衛隊の制服を着ていたころ、若い幹部に何か一言と言われると、私はいつも「死に場所を間違えるな。」と言ってきました。士官たるものは名を惜しみ、見苦しいふるまいをしてはならないということを伝えてきたのです。これは若い人へ伝えると同時に自らにも言い聞かせていたというのが真相でした。

政治家にそのようなことを言っても馬の耳に念仏でしょう。彼らには名誉よりも名声と権力が大切であり、それらを手に入れるためには見苦しかろうが何だろうがなりふり構わないのですから。

しかし、何か一言とリクエストされているので何もしゃべらないわけにはいきません。

私がその時に一言だけ彼らに向けて発したメッセージは、「戦場を間違えるな。」でした。

彼らが戦うべき戦場は地元の選挙ではなく、公約を実現するための議会であるはずです。

それを来る選挙戦を戦うことが自分たちの戦いであると彼らは勘違いしているのです。

彼らが全力を挙げて戦う場は議会であり、公約を実現するためにあらゆる努力を傾注して有権者の負託に応えるのが選挙で議会に送られた議員の使命であるはずです。

しかし彼らの認識はそうではなく、選挙で議席を確保すれば次の選挙まで安泰なのです。当選することが彼らの勝利であり、公約は議席を獲得するための方便でしかないのでしょう。

私は「皆様のご期待に沿うべく命がけで戦ってまいります。」と選挙戦でがなり立てながら、公約を実現できなかったことを恥じて自決した政治家をこの国の憲政史上でただの一人も知らないと当コラムで言い続けていますが、彼らの覚悟や言葉などはその程度のものなのでしょう。

しかし私の専門とする組織論の世界では、意思決定を誤らないために最も重要で基本的なことは目的を正しく見据えること、その使命を正しく認識することなのです。

つまり、戦場を間違えるということは戦う相手を間違えているということであり、それは自分の使命が何かを分かっていないということに他なりません。

私のきわめて上から目線のメッセージに居並ぶ市会議員たちは憮然とした表情を浮かべていましたが、散会後、一番年長の議員が私のところに「ありがとうございました。私たちが戦う場についてこれまで全く間違った認識をしてきました。12年間の議員生活でそのようなお話を伺ったのは初めてでした。」と言いに来ました。

漁協の方に地元のいろいろな遊漁船の得意な魚種について質問を浴びせていた私は「それは良かったですね。」と一言だけ返事をして、漁師さんとの話に戻ってメモなどを取り始めたので、その議員はびっくりしたような怒ったような顔をして立ち去ってしまいました。

私に言わせれば20代の若造議員ならともかく50代にもなって12年間もその程度のことも分からずに議員を続けていたなんて税金泥棒以外の何物でもないでしょ、ということなのです。

生理的な問題です・・・

政治家の多くは社会のために一生懸命になっていろいろな活動をしているのだろうとは思っています。政治家がすべてダメだと言っているのではありません。

政治家が嫌いなだけです。理由はありません。多くの方がヘビが嫌いなのと同じです。生理的な問題だとご理解ください。