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専門コラム「指揮官の決断」

第175回 

大丈夫なんだろうか? その2

カテゴリ:

軍隊における武器の使用の意味

以前、社会党党首、参議院議長を経験された土井たかこさんの講演を通じて、国会議員たちの現状認識がどの程度のものなのか、そしてそれらの政治家に私たちの社会の行く手を託していいのだろうかという問題を提起しました。(専門コラム「指揮官の決断」第173回 大丈夫なんだろうか?  https://aegis-cms.co.jp/1866  )

大切な問題ですので、今回もその話題に触れていきたいと思います。

そのコラムでは国会で牛歩戦術まで繰り出して成立に反対したカンボジアPKO法の目的が何であったのか、当時の最大野党の党首すら理解していなかったという点に触れました。

この時、やはり問題となったのは派遣される部隊の武器の使用でした。

派遣される自衛官個人については正当防衛が認められるので、個人が生命の安全に対する危機に遭遇した場合には正当防衛による武器の使用が認められるが、部隊として武器を統一した指揮の下に使用することは憲法の禁止する武力の行使に当たるので認められない。したがって、部隊指揮官が射撃命令を出すことは許されない、というものでした。

この論理がどこまで非常識で馬鹿げているのか政治家たちは気づいておらず、しかも信じられないことに、中東に海上自衛隊を派遣するに際してもこの論理を振りかざす議員がいます。

確かに正当防衛の権利は自然権として認められるものであるので、自然権の権利主体ではない軍隊の部隊に当然に認められるものではないかもしれません。

しかし、この論理を冷静に考え直すと、絶対に許してはならない事態が生起してしまうことが避けられないことが分かります。

何故でしょうか。

隊員が上官の命令なしに自分の判断で勝手に射撃をしてもいいということです。そして、上官の射撃中止の命令を聞く必要もないということです。

あってはならない事態なのですが、それ以外に自分たちを守る方法がないので、そうせざるを得ないのです。

政治家が自衛隊の部隊に個人の正当防衛の場合にしか武器の使用を認めないというのはそういうことなのです。

国会で政治家たちが牛歩までやって議論していたのはこの程度の中身だったのです。

機関銃の使い方

さらに派遣に際して部隊が装備する武器の種類と数についても問題がありました。

陸上自衛隊が機関銃2丁の装備を要求したのに対し、野党は2丁は多すぎるので1丁にすべきという反対論を唱えたのです。

陸上自衛隊が2丁を要求したのには根拠があります。

機関銃の使い方というのは実は一般の皆様の想像されるような使い方ではありません。皆様は歩兵がライフルを撃っている横で機関銃がいろいろなところに狙いを定めてバリバリと撃っているところを想像されるかもしれません。映画などではそのように描かれています。

ところが実際の戦闘場面では必ずしもそうではありません。

機関銃の基本的な用法は抵抗線を敷いている部隊の左右に配置し斜め前方への一定の射撃を行うというものです。

もう少し具体的に説明します。

1個中隊の防御正面の広さというのは科学的な根拠の下に算出されます。部隊の装備する銃火器の発射速度、射程などから算出するのですが、これが80メートルとか100メートルに設定されます。

つまり1個中隊が守備する抵抗線の横幅が80メートルや100メートルということです。

この防御正面に対して部隊の左右の端に機関銃が据え付けられます。そして右側の機関銃は左前方、左側の機関銃は右前方に狙いを定め、敵が突撃してきた際にはその照準に引き金を引き続けるのです。それぞれの機関銃の斜め前に一定の弾を送り続けるのです。映画などで射手が引き金を引いて、その横で装弾手が弾の帯を機関銃に送り続けているシーンがよく出てきますが、実際にはそのような射撃をすることになります。

これにより部隊の左右の端から撃ちだされた弾が中央の全面でクロスして反対側へ飛ぶ帯のようなものが出来上がります。これを突撃破砕線と呼び、突撃してくる敵はこの破砕線を2回潜り抜けなければ守備部隊の抵抗線に突入することはできません。

この突撃破砕線を構築するために陸上自衛隊は2丁を要求したのです。

実際にはこの機関銃は装填不良を起こして弾が出なくなることがありますので、控えの銃が1丁ずつ必要なので4丁要求すべきだったのですが、そのような戦闘が生起する確率を考えて2丁としたのでしょう。

このことは法案の審議中に野党議員からの説明要求に応えて防衛省や陸上自衛隊から何度も議員会館などに説明に行っています。説明から帰ってきた職員や陸上自衛官などに聞くと、説明を要求しておきながら説明を聞く耳を持たないと苦笑いしていました。

つまり野党の2丁は多すぎるので1丁とすべきという主張には根拠がまったくありませんでした。

単なる反対のための嫌がらせに過ぎないのです。

さらには機関銃と自動小銃の違いも理解せずに反対していたのです。

それがカンボジアPKOの時代の政治家の認識でした。

無防備都市宣言

またこの土井たかこさんの講演会でもう一つびっくりするような話がありました。

土井さんは同志社大学で法律を学び、のちに同大学などで憲法学を教えておられました。

そして自分は法律の専門家であると前置きして、国際法上の手続きに言及されたのです。

戦時国際法に無防備都市宣言という手続きがあるというのです。

この宣言を行った街を攻撃することは国際法違反になるので、日本中のあらゆる地方自治体が無防備都市宣言を行えば、日本に対して攻撃をすることが国際法違反になるのでそうすべきだというのです。

たしかに無防備都市宣言という手続きによって攻撃をするなと敵軍に要求することができます。

しかしこれは降伏するので武装解除等を行うから、その間攻撃をしないでくれという要求なので、日本のすべての自治体に無防備都市宣言をさせるというのは日本全体をどこかの国に売り渡すのと同じ結果を生ずるのです。

これは法律の専門家の議論ではありません。素人の議論です。

彼女は憲法論が専門なので国際法をご存じなかったのかもしれませんが、たとえ憲法が専門であったとしても国際関係に論及するのであれば、周辺の法律体系や国際法にも通じていなければなりません。

もし無防備都市宣言の本来の意味をご承知でそのような発言をされたのであれば国民を欺いていることになります。

最近は彼女の弟子である社民党の福島瑞穂さんが同じような主張をされているのを聞いたことがありますが、福島さんは弁護士です。普通の弁護士は国際公法の知識をほとんど持たないので無理もないかもしれません。

もともと無防備都市宣言などせずとも、現代では戦争行為に訴えること自体が国際法違反で、自衛のための武力行使しか認められません。国を売り渡すような無防備都市宣言をすれば攻撃されないというのは高校生レベルの意見であり、とても法律の専門家の議論とは思えません。

永世中立国

福島瑞穂さんは一歩進んで日本も永世中立国の宣言をすべきだとも主張されています。

永世中立国の宣言をした国には他国の軍隊は攻撃ができないから戦争に巻き込まれないという論理です。

本当に法律の専門家なのかと思わせる幼稚な論理です。

永世中立国の宣言は攻め込まれない権利を得るだけではありません。

国際紛争に際し、国土や港湾、空港、コンビナートなどの産業を他の紛争当事国に利用させてはならないという義務を負います。そのためには武力を用いてでもその利用を阻止しなければなりません。

つまり、日本の島や港、飛行場などを紛争当事国に軍事利用させてはならないのであって、そのためには強力な軍隊を持たねばなりません。

現にスイスはその中立を守るために国民皆兵を義務付け、各戸に武器を配布しており、命令一下たちまち50万名の陸軍部隊が編成されるようになっています。

日本は地政学的に太平洋とユーラシア大陸の間にあり、東アジアで武力衝突が勃発した場合には当事国のどちら側からも狙われる存在となっていますので、永世中立の宣言は慎重に行わなければ、徴兵制だけではすまず、国民皆兵の制度が必要になるでしょう。

福島瑞穂さんはそのような中立国の義務はご存じないようですが、日本を国民皆兵の社会にしたいと主張しているのと同じなのです。

このように我が国の平和を維持するための議論を国会で行う議員のレベルが疑わしいのです。審査する法律の目的をまったく理解していなかったり、軍事のいろはも知らずに装備する武器にクレームをつけたりという政治家たちが実のある審議を展開できるのだろうかという疑問が尽きません。

野党がその程度で、政権が外務大臣と防衛大臣を兼務させるという無神経な政権なのです。

私たち一人一人がしっかりと事の本質を見極めていかなければなりません。