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専門コラム「指揮官の決断」

第186回 

非常時における私たちの行動態様

カテゴリ:危機管理

なにを観ているのか

新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、連日憂鬱な報道が続いている時に、1週間に一度のこのコラムまで毎回コロナの話ではうんざりかもしれませんが、今しばらくお付き合いください。今が踏ん張り時です。

私は感染症の専門家ではありませんが危機管理を研究してきた者として、この事態をある視点から興味深く眺めています。

それは、このような危機管理上の事態における政府・マスコミの動き、そしてそれに反応する私たち市民社会の動きです。

これは社会心理学の研究対象でもあるのですが、しっかりと理解しておくことが危機管理上の事態への対応を考える時に重要であることは間違いありません。

たとえば東京都知事が驚いたのは、娯楽施設や飲食店への休業を求めた結果、繁華街の人出は大幅に減少したものの、住宅街近郊のスーパーや商店街への人出が逆に増えたことです。このような市民の行動態様をあらかじめ予測できなかったのでしょう。

ネット上の文献サーベイでしかないのですが、このような危機管理上の事態における一般市民の行動に関する研究はびっくりするほど見当たりません。

さすがに米国では核攻撃が予測される場合に米国市民がどのように行動するであろうかという研究は数多くなされていましたが、いくつか読んでみるとまるでSF小説でした。

そのような観点から見ると、今回の事態から私たちが得られる教訓は極めて多岐にわたるはずです。

この事態を切り抜けたあと、世界と日本が大きく成長し、次の感染症に打ち勝つ準備が進むことを期待しています。

若い人たちではなく中高年

政府は感染症による経済的損失対策として、所得制限を設けた一世帯30万円の給付から国民一人当たり一律10万円という支援策に、補正予算を組み替えるという前代未聞の作業を行うことになりました。

私は経済政策の専門家ではありませんが、これは当然の措置であると考えます。

政府が所得制限を設けたのは公平の観点を重視したからでしょう。この事態においても給与所得が減ることのない公務員などに給付する必要はなく、本当にこの騒ぎで所得を大きく減らした家計に給付すべきという発想でしょうが、しかし、それでも公平ではありませんでした。逆にこの施策はおそろしい不平等を内包しており、発表された時にびっくりしたものでした。

非正規雇用で年収300万円の家庭が仕事がなくなって250万円になると30万円補助してもらえるのに、シングルマザーで保育園に子供を預けるお金もない年収200万円の家庭のお母さんが、それでも必死に働いて200万円をなんとか維持したら何も貰えないというのはどう考えても不平等です。

一方、一律10万円というのは経団連の会長にも支給されるので実質的不平等といえば不平等ですが、しかしどん底にいる人々にくまなくお金が回るという意味では評価されるでしょう。圧倒的多数の人々にお金が回るのであれば、一部の富裕層にも回ってしまうのは仕方がありません。手続きは郵送などで口座などを指定する形で行われるそうですので、できることであれば高額所得者や公務員など、この騒ぎで生活困窮に陥らない人々は辞退できる選択肢を設けて欲しいものです。

ただし、年金生活者への給付にはしっくりこないものがあります。マクロ経済スライドの制度下において年金の支給水準が下がることは予想されますが、しかし現時点で年金は通常通り支給されており、直ちに生活困窮に追い込まれているとは言えません。

むしろ私は高齢者のこの事態への対応について大きな問題があると考えています。

GPSのデータの解析によると、今年の花見で行動を自粛していなかった年齢層は60代であり、滞在時間に至っては昨年よりも増大していたそうです。

自粛が求められ始めた2月には外出を自粛しない若者たちを問題視する報道が多かったようですが、蓋を開けてみると問題があるのは年寄りだということのようです。

新宿や渋谷でも中高年の割合が高くなっています。3月末に神戸の居酒屋で宴会をしてウイルスに感染した警察官たちも若い巡査ではなく署長をはじめとする幹部職員でした。

私のような零細企業の経営者が若い社員を自宅待機やテレワークとして、自らあちらこちらを飛び回って歩いて経営を支えているということであればそれなりに同情の余地もあるのですが、多くは管理職として書類に決裁をしなければならないなどの理由での出社なのだそうで、オンライン決済システムを導入していない会社がいかに多いかが分かります。

若い人たちが街から姿を消した大きな理由は経済活動の停滞でしょう。働く場が奪われて出勤することができず、その結果お金がなくて遊びにも出れないということなのだと思いますが、そうであれば一律10万円の現金を給付したとたんに街に繰り出して来るおそれもありますので、その対策が自治体には必要になるかと思われます。

そのような社会心理学的な研究、検証、そして対応が求められます。

国籍確認中?

もう一つ、この事態を観察するとき、興味深い事実があります。

私は3月中旬から厚労省のウェブサイトに注目しているのですが、4月20日12時現在、新型コロナウイルスの感染者は10,751例です。その中で日本国籍の者は4803人、外国籍の者60人であり、その他は国籍確認中なのだそうです。つまり、半数以上が日本国籍を簡単には確認できない人たちです。

在日する外国人は総人口の約2%ですので、感染者に含まれる外国人及び国籍不明者の割合は異様に大きいと言えます。いくら何でも常軌を逸した大きさですので、国籍確認中の人の多くは何らかの事情で国籍が一目でわからない日本人なのでしょうが、それにしても国籍不明者の割合が多すぎます。

私のオフィスでは国の依頼による仕事も行っておりますので、そのルートを逆に使っていろいろと調べることができます。

厚労省のデータの感染者の内訳については個人のプライバシーの壁に阻まれて詳細に調べることはできないのですが、いろいろなことを推測することができます。

3月初旬、感染経路不明という感染者が確認され始めたころから感染者が増えはじめ、同時に国籍を確認しなければならない感染者も増え始めました。

日本には多くの外国人が居住していますが、外国人登録制度が廃止され、新しく在留管理制度が施行されています。まともなビジネスや留学などで日本国内に居住していればこの制度下で在留カードが交付され、住民基本台帳に記載されているはずです。

これら外国人のうち、日本進出企業の経営や留学で来日にしている人々はそれなりの居住環境にいるものと推定されますが、発展途上国などから出稼ぎに来ている外国人の多くは、アパートで集団生活などをしている人たちが少なくなく、感染症には極めて脆弱な生活環境にあります。

技能研修制度などで非常に多くの外国人が日本で働いています。彼らはこの枠組みに入っているので在留カードを交付されていますが、会社が提供する寮などはこの手のアパートが多く、集団生活をしていることが多いのでやはり感染症のリスクは高いと推定されます。

しかし、彼らは外国人であることが確認されているので、もし感染しているとしても60人の中に入っているはずです。

それでは国籍を確認しなければならない人々というのはどういう人々なのでしょうか。

ここからは厚労省は教えてくれないので推測でしかありません。

国籍が一目で分からないということは在留管理制度の下にないということですから、不法就労の外国人が多いのではないかと思われます。そのような外国人が働くことができるのは夜の街なのでしょう。

接待を伴う飲食店の営業が早々に自粛を求められていましたが、そのような外国人が働くのは飲食を伴わない接待業のお店が多いのではないかと思われます。濃厚接触もこうなると意味が変わってくるかもしれません。

感染経路が不明な感染者が増えた理由もそこから推測できます。そのような店に3月になっても出入りしていたことを明らかにしたくないという感染者が多いのでしょう。警察の副署長ですら調査に対して居酒屋での会合はやっていないと虚偽の説明をしていたくらいですから、そのような人々を責めることはできません。

このところ感染者数は急増していますが、その原因を作ったのはそのような人たちかもしれないのです。

ネット上でこのような推測を行うことは、感染者への差別を生む危険があるため、本来は避けるべきことです。しかし、当コラムは危機管理の専門コラムであり、この事態を危機管理の専門的見地から分析する必要があります。そして、現在の状況が何故引き起こされ、一向に終息していかないのかを考える必要もあります。そこであえてそのような推測もしなければならないこともあります。

ここでこのコラムをお読みの方々にお願いしたいのは、このコラムにおける単なる推測をあたかも事実であると認識しないでいただきたいということです。

執筆者は感染症の専門家ではなく、厚労省のウェブサイトに記載されたデータについても、詳細な内容を入手できなかったので仕方なく推測するという方法でしか分析できていません。

悪意ある報道では、このような言い方をしても肝心な部分は切り取られて報道されることは百も承知です。

それでもあえてこのような記事としているのは理由があります。

誤解を恐れずに申し上げれば、3月末までの感染者のうち、病院で感染症対策に奔走していて自らも感染してしまった医療関係の方々や、まだ感染拡大の恐ろしさが分かっていなかった初期の頃に中国からの旅行者などと関わったバスやタクシーの乗務員とその関係者、あるいは屋形船などに乗り合わせた人々を除き、多くの感染者は自覚ある行動を取っていれば感染しなくて済んだかもしれないということです。しかしこの人たちを責めることもできません。繰り返しますが、この時期、神戸では警察署長ですら宴会をやって感染しているのです。

本当に必要な行動をして感染してしまうということも当然あったでしょうが、大丈夫だろうと甘く見て感染した人が多いのではないかと思われます。

分別ある大人の対応を

日本の緊急事態宣言とその対応は遅きに失しているだけでなく生ぬるすぎるという批判を諸外国のマスコミはしています。しかし、まだ日本は崖っぷちにいますが耐えています。感染者は日に日に増えていますが、オーバーシュートは起こしていません。

そのうえ、厚労省のデータによれば一番大きな感染源だったかもしれない日本国籍以外の人々による感染はそれらの店が休業要請によって閉店しているため頭打ちになっていくことが期待されます。この人たちから拡散した感染者がこれから国内でどう動き、どのように拡散させていくかがこれからのカギかもしれません。そのような人々の多くは自粛の重要性の認識を持っていないからです。

推測統計の示すところによれば5割では感染者は増え続け、いずれ堰を切って増加してきます。なんとしても最低7割を達成しなければなりません。

その際カギを握るのは若い人たちではありません。若い人たちは耐えています。問題は休業要請に応じないパチンコ店に県外から車でやってくるような中高年の人々です。自覚のない人々の自分勝手な行動により高齢者や基礎的な疾患を持つ感染者が重篤化して亡くなり、いつまでも感染者が増加し続けて自粛要請が続き、この国の経済が破壊されていきます。

ここで感染拡大を止めることができるかどうかは、分別があるはずの大人たちにかかっています。