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専門コラム「指揮官の決断」

第232回 

コロナ禍で分かってきたこと

カテゴリ:危機管理

この事態は検証が行われるべき

湾岸戦争において米国政権内でいかなる意思決定が行われたのかを描いた”The Commanders “という本があります。ボブ・ウッドワードというワシントンポストの記者でウォーターゲート事件の調査報道で高い評価を得た人物が著したもので、ブッシュ大統領、ベーカー国務長官、チェイニー国防長官、パウエル統合参謀本部議長などのやり取りがかなり詳細に描かれた本です。

また、キューバ事件に関しては封鎖という意思決定がどう行われたのかを三つのフレームワークで鮮やかに切って見せた意思決定論の不朽の名著であるグレアム・アリソンによる『決定の本質』があります。

今回の新型コロナウイルス騒動も、これらの書物のような視点で様々なアクターがどのような過程で意思決定を行って、どう行動したのかを分析してくれるジャーナリストが出てくることを期待しています。

データが集まって分かってきたこと

さて、当コラムではこのコロナ禍はメディアがまき散らす「コロナ怖いウイルス」による人災だと断じていますが、その根拠は数字だけです。

したがって、データが無かった昨年の春頃においては、PCR検査はむやみにやっても意味が無いことなどについて簡単な数式で証明したりしていたに過ぎません。当時の政権や自治体等の意思決定についても、科学的根拠などは求めずにいました。むしろ、学校の休校を求めた政権に対して「科学的根拠があるのか」と噛みついた野党を批判しています。根拠を求めるようなデータがまだなかったからです。その科学的なデータが得られず、当コラムがまだ様々な判断ができないでいるうちに、「今日のニューヨークは2週間後の東京です。」とコメントしてスターダムにのし上がった専門家と称する女性教授がいましたが、何を根拠にしているのかと驚いたものでした。

しかし、すでに1年が経過し、四季のそれぞれのウイルスの特徴が判明し、様々なデータが集まり、世界中で無数の関連論文が発表されている現在、統計学上の初歩的な知見を用いれば様々なことが分かってきます。

1年たって分かってきたことは、このウイルスが「新型コロナウイルス」と呼ばれるだけあって、例年わが国に風邪を流行らせるコロナウイルスの一種であることが間違いないということです。つまり、これは風邪の一種ということです。

風邪の一種だからと言って怖くないということはありません。MERSもSARSもこの度のウイルスと同様コロナウイルスの一種ですが、MERSの致死率は14%ですし、SARSも10%近い致死率です。

つまり、コロナウイルスの一種であるから例年の風邪と同じ脅威と即断するのは誤りで、MERSやSARSに近いウイルスであるのかどうかを見極める必要があったということになるのですが、一年を経過した現在、発症者数や死亡者数を見る限り、例年のインフルエンザの方が遥かに深刻であることが分かります。

例年、風邪は冬に流行ります。夏にも夏風邪というのがありますが、冬は夏の10倍の感染者が出てきます。今回のコロナウイルスもこの冬になって昨年の夏の10倍の感染状況となりました。このことも、このウイルスが風邪の一種であるという根拠の一つとなっています。また、特別に恐ろしいウイルスではないことは重篤化率や致死率を見れば明らかであり、例年のインフルエンザが小学生なども情け容赦なく死に至らせることを考えると、60歳代以上の高齢者の重篤化が50歳代以下の15倍となる新型コロナウイルスの特徴は例年の風邪を流行らせるコロナウイルスに近いものと考えられるようです。

現在、新たな脅威として変異ウイルスがメディアで取り上げられていますが、メディアはとにかく新たな脅威を探し出して煽らないと視聴率を稼げないので騒ぎますが、ウイルスはほぼ2週間ごとに新種が生まれているので、変異株が生まれてくるのは珍しいことではありません。さらに、感染力が強いと言って煽りますが、感染力などいくら強くても重篤化したり死亡したりしなければ問題ではありません。水虫の菌の感染力は恐ろしく強いですが、それで自粛などしませんからね。

ちなみに、重篤化率は1.6%(60歳以上では8.5%)、致死率は1%(60歳以上は5.7%)と発表されています。致死率は例年のインフルエンザが0.1%と推定されるのに比べると高い値となっていますが、これは新型コロナウイルスが高齢者を中心に狙い撃ち、もともと持っている疾患によって死亡する引き金を引くこと、病床の受け入れを待っている間に症状が急速に進行してしまうことが多いことなどが原因と考えられています。当然のことながら、例年のインフルエンザに比べて感染者数が数十分の一しかいないため、死亡者が一人出てもこの割合が変化してしまうということも原因の一つです。

ゼロコロナは幻想に過ぎない

衆議院における予算審議の代表質問で、立憲民主党の枝野代表は「ウィズコロナではなく、ゼロコロナを目指すべき。」と主張しました。

このウイルスが天然痘やエボラ出血熱のような致死率の極めて高い強毒性のウイルスであればその主張には頷けますが、それらのウイルスは強毒性であるがゆえに感染力はそう強くありません。多数の他人に感染させる前に本人が死んでしまうからです。

しかし、新型コロナウイルスは致死率はそれら強毒性のウイルスに比べると桁違いに小さいものの、逆に欧米における感染力は桁違いに強力です。そして終息したかに見えても動物などに寄生を続け、適温のシーズンになるとまた現れてきます。

このウイルスをゼロにすることは不可能です。風邪が毎年流行するのと同様です。

枝野代表は一年かけてそんなことも学ばなかったようです。

ゼロコロナが幻想であるならば、私たちの社会がどう対応すべきかは自明です。

社会全体が免疫を獲得することが必要です。日本人の多くが結核に対する免疫を持っているので、毎年3000人が死亡する結核で大騒ぎにはなりません。

インフルエンザでも毎年3000人が亡くなり、多い年では1万人が亡くなりますが、緊急事態宣言などは発令されません。ワクチンの効果も大きいのでしょうが、免疫記憶を私たちが持っているからでもあります。

先に新型コロナウイルスは欧米においては感染力が強力であると述べましたが、日本においてはどうでしょうか。

データの示すもの

データから分かることは、日本に於いてはこのウイルスは感染力も大きくないことです。1年間でPCR陽性判定を受けた人数が40万人です。陽性判定者の大半は発症しないので、検査を受けていなければ分からなかったはずです。一方、インフルエンザでは例年1千万人が受診すると言われています。つまり、それがインフルエンザに感染して発症した人数であり、新型コロナウイルスの感染力は例年のインフルエンザの数十分の一ということです。

日本に於いてはなぜ感染力が小さいのかは、数字のデータだけではよく分かりません。我が国は例年風邪が流行るのでコロナウイルス全般に対する抵抗力があったのかもしれませんし、多くの感染症の専門家が指摘するのは、武漢発祥のウイルスは昨年の10月頃から中国人観光客によって日本に持ち込まれており、それが静かに日本の社会に免疫を作っていたということです。

もちろん、そのような説を唱える専門家がテレビに呼ばれることはないので一般には知られていない説なのですが、この説を主張する専門家は多数います。

何故テレビに呼ばれないか。この説によれば、この国はある程度の免疫を獲得しているので、それほど騒ぐほどのものではないということになるからです。さらには、日本が中国からの入国制限を行ったのが3月になってからというのが更なる免疫の獲得に寄与したことになるので、それが遅きに失したという批判が当てはまらなくなるからです。

事態を深刻に見せたいテレビは第1波、第2波、第3波と数え、第4波の恐れも指摘することを忘れていませんが、しかしこれを彼らが好きな外国との比較を行ってみれば、それがさざ波以下であることがすぐに分かります。グラフにすると対数グラフを作らなければ同じスケールでは日本の感染者数の動きは見ることができないほど少数ですから。

欧米ならロックダウン解除どころか、ウイルス制圧宣言すら出すであろう状況なのです。

これまで、例年日本を襲う風邪のウイルスとして4種類が知られていましたが、今後は5種類ということになるでしょう。今回はその初回だったため、社会全体における免疫力が小さく、騒ぎがちょっと大きくなるのは仕方ありません。来年以降は免疫記憶を多くの人が持ちますので、それほどの騒ぎにはならないでしょう。インフルエンザ並みの話題になるはずです。

このウイルスが戦後わが国を襲った最大の危機になったのは、単にテレビが視聴率稼ぎに騒いだためであることがデータから分かった真実です。