TEL:03-6869-4425

東京都港区虎ノ門1-1-21 新虎ノ門実業会館5F

専門コラム「指揮官の決断」

第233回 

コロナ禍を危機にした人々:医師会

カテゴリ:危機管理

どうしても理解できない事態

世界を席巻して第2次大戦後最大の危機になりつつある新型コロナウイルスの騒動ですが、この事件を一大騒動に仕立て上げているアクターを一つ一つ見ています。前回は、テレビに登場してこの国の空気をミスリードし続ける専門家と言われる人々を概観しました。

そもそもこの問題が日本に於いて深刻なのは、爆発的な患者数ではありません。それはこれまで何度も指摘してきているとおり、例年のインフルエンザに比べると桁が違う少なさでしかありません。重症者数も死亡者数も例年のインフルエンザの方が多いのに、この一年に渡り国を挙げての大騒ぎとなっています。

それなのになぜ医療崩壊の危機が叫ばれているのか、誰にどのような説明を聞いても納得のいく説明をしてもらえません。

当コラムは医療は専門外ですので、危機管理の面からこの問題を扱おうとしているのですが、その際に武器となるのがデータです。つまり、数字が示されれば専門外の事柄でも大体の見当をつけることができます。

しかし、このコロナの問題に関しては、その数字をいくら説明してもらっても理解ができません。今次騒動の最大の疑問がそこにあります。

今回は、その根底に関わる素朴な疑問について考えます。

何故日本の医療が崩壊すると言われるのだろう

その原因が医療のキャパの小ささです。単位人数当たりの患者数が米国の30分の1、英・仏に比べても20分の1でしかないのに重篤者を収容する病室がないことです。

日本は人口当たりの病床数は全世界で圧倒的にトップですが、コロナ患者を受け入れる病院が非常に少ないのが問題の根源です。

公立病院は7割弱、公的病院は8割弱が受け入れていますが、圧倒的多数を占める民間病院は2割弱しか受け入れていません。結局、日本全国の160万床のベッドのうち2%しかコロナウイルス患者を受け入れていないのです。

厚労省が日本全体の医療態勢をコントロールしていないから、医療資源の再配分ができないということなのだそうです。医療機関の大半が国公立ではなく民間に任されているからなのだそうです。

国立の医療機関が少ない理由

元々日本は高齢者医療を中心とする方向に舵を切り、さらには癌治療などが花形であって、感染症を専門とする医師や病院が少ないという特質がありました。昭和の時代には赤痢やコレラが流行ったこともあり、法定伝染病というのも珍しくなかったのですが、世界でもトップクラスの衛生観念の行き渡った国ですので、それらの感染症が流行することもあまりなくなり、令和の現在、感染症の専門家は医学部よりも農獣医学部にいるという状態になりました。

ウイルスは最初は動物から人間に感染が広まるものですし、日本では鳥インフルエンザや豚が感染するコレラ、あるいは蹄のある動物が感染する口蹄疫などの感染症が絶えず流行していますので、農学部では重大な関心事なのです。人間の間に流行するよりは望ましい状況かもしれませんが、ひとたび人間界が襲われると対応ができません。

マーケットメカニズムに任せるとうまく機能しない部分こそ国の役割なのですが、財政の健全化という財務省の方針により民間に任せることができる分野は民営化する方針が取られた結果、病院の多くが国のコントロールの及ばない民間病院となり、その結果、わが国では需要の少なかった感染症への対応ができないということになったのです。

デフレで苦しんでいる国がプライマリーバランスの黒字化を目指すという政策も信じがたいのですが、何が何でも民間でできそうなところは民間に渡してしまうという発想の結果がこのコロナ騒動です。

国立病院については、旧陸軍及び海軍が持っていた病院が戦後に国立病院として経営されてきましたが、昭和60年以後、逐次廃止され、平成16年以降、独立行政法人国立病院機構に組み込まれ、国立病院の数は4割以上が廃止されてしまいました。

そのため、過疎化が進む地方においては病院の不足が深刻化し、自衛隊員の診療だけを行っていた自衛隊病院の一般への開放が求められました。例えば、青森県むつ市においては、陸奥国立病院が廃止され、その病院が担っていた多くの患者が、自衛隊大湊病院が引き継いでいます。

このことは自衛官だけを診療しているよりも診療経験を増やすことができるために自衛隊の医官や看護官にとっては望ましいという判断により自衛隊が受け入れたものですが、一方で、広島県呉市などでは地元医師会の反対があって民間への開放が難航した病院もあります。

医師会という団体の本質

要するに、医師会は儲かる医療は行うが儲からないところはやらないという基本体質を持っています。これは医師会のほとんどが開業医によって構成されていることから当然だと思います。つまり、医師会の本質というのは業界の利益代表団体であるということです。

しかし、医師会が業界の利益代表団体であるのであれば、医療という極めて重要な問題については医師会に任せてはならないはずであり、その行政について責任を負う国家が権限も持つべきであることは自明の理です。しかし、逆に政府が圧力団体である医師会によってコントロールされています。

昭和54年以降、医師不足の問題が議論されているにも関わらず医学部の増設が行われなかったのは一重に医師会の反対によるものです。東日本大震災を受けていくつかがまな板に載っただけなのが現状です。

医師会は高齢化とそれに伴う人口減少という事態を受けて病院経営の先行きが厳しいことを見越して医学部の増設に反対したのですが、そのために用いたロジックには笑わされます。医学部増設により、現役の医師の多数が教員として取られるため現場の医師が不足するというのです。

日本の医療を支えている医師会というのは、その程度の理屈しか考えつかない連中が集まって作っている利益代表団体です。

医療緊急事態宣言の発出

昨年12月、その日本医師会の中川会長は他の医療関係団体とともに、「医療緊急事態宣言」なるものを発出しました。

その宣言は次の三項目から構成されています。

一.私たちは、国や地方自治体に国民への啓発並びに医療現場の支援のための適切な施策を要請します。

一.私たちは、国民の生命と健康を守るため、地域の医療及び介護提供体制を何としても守り抜きます。

一.私たちは、国民の皆様に対し、引き続き徹底した感染防止対策をお願いします。

この時、中川会長は明確な根拠はないがとしつつ、GoToトラベル事業が感染の拡大に影響を与えたことは間違いないとして、同事業の中止と国民の一層の自粛を求めたのです。業界の利益代表団体の長である医師が根拠なしにGoToトラベル事業が感染に関係していると述べ、国民への自粛を求め、それができなければトリアージを行うと脅しをかけたのです。

問題の本質が病床数の確保であるのですから、医師会としては病床数の確保に必死ならなければならないはずなのですが、それは医療介護提供体制を何としても守り抜きますの一言に集約されています。

一月も経たないうちに敗北宣言

それでは、医師会はそのような努力をしたのでしょうか。

1月13日、中川会長は記者会見を行い、医療態勢は崩壊から壊滅に至りつつあると発言しました。そして、医療態勢が改善されない理由として「民間は中小病院が多く、相対的に医師が少なく、コロナ専門病床を作るのが難しい。」と述べています。

何が何でも守り抜くと宣言してから1か月も経たないうちに崩壊ではなく壊滅だと騒ぎ、その言い訳をしているのです。

つまり、自分たち民間は儲からないからコロナ専門病床を作るのは大変だからやらない、国民はもっと自粛して病院にかからなければならない人数を減らせ、ということなのです。自分が「医療を何としても守り抜く。」と宣言したことは覚えていないようです。

私は元ではありますが海上自衛官でした。自衛官になるに際して服務の宣誓というものを行います。その宣誓は「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います。」と結ばれるのですが、つまり私たちが何が何でも守り抜きますと言った場合、守り抜けなければ生きて帰ることはありません。このため、自衛官は政治家が選挙の際に叫びまわる「命がけでやります。」とか「何が何でも」などという発言はまずしません。ひとたびそのような発言をしたら簡単にはあきらめませんし、失敗しても言い訳はしません。宣言をするということはそういうことです。

この医師会会長の言葉の軽さにはうんざりさせられます。

医療崩壊の張本人は

さらに医師会はコロナ以外の通常医療にも重大な影響が出ていると言います。

日本では全ベッド数の2%しかコロナに当てられず、残りは患者が来なくて経営が困っているはずなのに、なぜ通常医療に支障が出ているのかも理解できません。

多分、私のような素人には理解できないそれなりの理由があるはずなのですが、これまでの日本医師会会長の発言を聴いていると、一言も信ずる気になりません。

現場でコロナ対応に追われている知人の医師は、自分たちが必死になってやっていることに対して、医師会が「自分たちは民間なのでできることはほとんどない。」と何もせずに、国民に向かっては「自粛しないと大変なことになるぞ。」と脅しをかけるのはいい加減にやめて欲しいと言っていました。現場の医療従事者も何もしない医師会には憤っているようです。

つまり、この国の新型コロナ医療はこの程度の頭しかない連中によって翻弄されているということです。

夏の間、冬になればウイルスは活発化すると言われていたにも関わらず、かつ10兆円もの予備費があったにもかかわらず、何の対策も取らなかったのが医師会です。むしろ、この頃にコロナ専用病棟を元に戻した病院すらあります。経営が成り立たないからです。

この医師会が風邪のウイルスである新型コロナウイルスを天然痘並みの危機に作り替えた張本人の一人です。