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専門コラム「指揮官の決断」

第236回 

迫りくる本当の危機 覚悟が試されるとき

カテゴリ:危機管理

「戦後一番の危機」各地でリバウンド “変異型”も

この表題は3月27日に配信されたテレ朝ニュースです。感染が2000人を超えたとか、東京の感染者が430人になったとかの話です。この日の死者は32人でした。

3月28日のイタリアの感染者は19588人、死者は457人です。陽性判定者・死者ともに日本の10倍以上です。多分、イタリアが現在の日本のレベルになったらコロナ制圧宣言を出すでしょう。

ウイルスは変異するのが普通なので変異型と言って騒ぐのも的外れもいいところです。煽るのもいい加減にしろと言いたいですね。

病気で困るのは重症化したり死んでしまったりするからなのですが、死亡者数は右肩下がりで4月5日には18人です。1週間の移動平均ですらまもなく20人を下回るかもしれません。PCR検査の陽性判定者などいくら増えても問題ではありません。私たち日本人の半数以上が結核菌に対して陽性なのを私たちは思い起こすべきです。結核だって2類感染症ですからね。

当コラムでは何度も繰り返して申し上げてきていますが、2018年に流行したインフルエンザでは1月には連日60人の死亡者が出ていたのですが自粛など全くしませんでしたし、世間は平成最後のお正月に浮かれていたのです。メディアは小鳥の脳のような頭しか持ち合わせないので、そのようなことを覚えていないのでしょう。

戦後最大の危機は、このさざ波のような第4波ではなく、親会社の朝日新聞の流したデマによる韓国の慰安婦騒動の方だと思いますが。

「危機」はコロナではない

昨今のメディアを賑わせている話題の一つに尖閣諸島をめぐる動きがあります。これは確かに危機の匂いがします。したがって危機管理の専門コラムとしてこの問題を避けて通ることはできないのですが、しかし、当コラムは外交問題や安全保障問題専門のコラムではありませんので、この問題については総論として触れるに留めたいと考えます。つまり、危機管理総論としての考え方、見方を示すに留めようかと思っているところです。

米国の政権が変わるたびに、尖閣に対して米国が日米安全保障条約の適用を考えるかどうかを確認し、適用範囲であるとのコミットメントを得てメディアは一安心しているようです。

確かに米国はこのところ政権が代わっても尖閣諸島が日米安全保障条約の適用下にあるという見解を取っていますが、このことをメディアがどう理解しているのか、また、そのメディアからしか情報を得ることができない私たちがどう捉えているのかについては大きな疑問があります。

まず日本人の血が流れることが必要

ここ数年の米中関係を見ていると、尖閣有事の事態に対して米国が安全保障条約を発動することはほぼ間違いないと考えられます。

ただ、その発動の仕方は、東日本大震災の際の「トモダチ作戦」のような形はおそらく取らないでしょう。つまり、奪われた尖閣諸島に対して米国海兵隊が逆上陸をして奪い返してくれるなどということはないということです。

まず私たち日本人が血みどろの戦いを繰り広げて、多くの血を流すことが必要です。

日本人の血が流れる前に日本のために米国の若い兵士の血を流すことを米国民が許容するはずはないからです。

軍事的な問題ではない

もし、尖閣に人民解放軍が上陸して占領された場合、これを奪い返すのは自衛隊の仕事です。

自衛隊には大規模事態に対処する基本計画があり、統合部隊として対応することになっています。東日本大震災の時は、この基本計画に従って三自衛隊が統合運用されました。

具体的には東日本を管轄していた陸上自衛隊東部方面総監が統合部隊指揮官となり、陸・海。空自衛隊の災害派遣部隊を指揮していました。

北朝鮮の弾道ミサイル対処は航空自衛隊の航空総隊司令官が対処する部隊を統合運用します。具体的には最初に対処する海上自衛隊のイージス艦とそれが打ち漏らした場合に対応する航空自衛隊のペトリオットミサイル(PAC-3)による迎撃とミサイル部隊の展開や弾道弾落下などによる混乱を収拾するための陸上自衛隊部隊を航空自衛隊の航空総隊司令官が指揮します。

尖閣有事の場合は、海上自衛隊の自衛艦隊司令官が陸・海・空のコンポーネントを指揮して防衛に当たり、奪われた場合には奪還のための部隊を送り込んで奪い返します。

ここに米海兵隊は出てきません。自衛隊だけで十分なのです。

何故か。

尖閣諸島は小さい島が集まっており、大規模部隊が上陸することはできません。戦車が走り回ったり、そこに飛行場を開設して攻撃の拠点にするなどということはできません。

つまり、上陸している敵の陸上部隊というのはそれほどの大部隊ではなく、持っている武器も個人が携行できる程度の武器が主体になります。

長崎県の相浦に所在する陸上自衛隊の水陸機動部隊は再精鋭部隊であり、尖閣を不法占拠する外国部隊はいとも簡単にひねりつぶせるでしょう。

尖閣占拠軍への補給は海上自衛隊によって完全に阻止されます。

人民解放軍海軍の原子力潜水艦は東シナ海では行動できません。水深が浅くて行動の自由が効かないからです。「漢」級原潜が領海侵犯して、海上自衛隊に徹底的に追尾されて逃げ出したことをご記憶の方も多いかと思います。

彼らの空母も出動できません。中国海軍には掃海能力がないので、彼らの基地の前面の海域に機雷をちょっとだけ敷設し、「機雷を撒いたよ。」と言うだけで彼らは出撃できないのです。さらに日本の潜水艦は彼らに探知されずに行動できます。この連中の始末の悪さは、同じ海上自衛隊の哨戒機や護衛艦ですら探知できないことです。仮に探知できたとしても、彼らの武器が届くことのできない深海に潜ってしまい、しかし、そこから攻撃をできる武器を持っています。こんな始末の悪い潜水艦を持っているのは日本だけなのですが、このことはあまり知られていません。

つまり、中国海軍は海上自衛隊の敵ではありません。

航空自衛隊もこの地域の航空優勢を確保し続けるはずです。中国本土から飛んでこなければならない戦闘機に比べて、いざとなれば宮古などで給油できる航空自衛隊は有利です。ましてF35が戦力化されれば、中国空軍は見えない敵と戦うことを余儀なくされるからです。

政権が迅速な対応を決断して、直ちに奪い返す決断をすれば陸自部隊の犠牲は最小限ですむはずですが、国会でもめたりすると陸自隊員の犠牲は大きくなります。

しかし、この時に流れる日本人の血が安全保障条約第5条の発動に必要な要件です。これで日本が本気であることを示すことによりこの事態に対する安保条約第5条の適用となります。

それでも米海兵隊がやってきて上陸作戦を行うということにはなりません。彼らが行うのは航空母艦を東シナ海に2隻ほど集めて睨みを利かせることです。それで十分です。

つまり、尖閣諸島をめぐって軍事衝突が生じたら問題の解決はそう難しくはないのです。

政権に覚悟はあるか

問題なのはそのような事態はまず起きないであろうということです。

尖閣諸島に関して最も蓋然性が高いのは、ある日数百隻の漁船が押しかけてきて、時化を避けるためという名目で尖閣諸島に入り込むことです。大勢の漁民が魚釣島に上陸するでしょう。現在、南シナ海のフィリピン領海内で中国が行っているのがこれです。

翌日には中国海警の船が自国民の救助のために大挙してやってきます。たとえ他国政府の公船といえど人道的な任務に来る船を阻止したりしたらどうなるか、海上保安庁にそれを阻止せよと命令できる政権かどうか。

海警の船は自国民を乗せて帰国したりはしないでしょう。補給品を次から次へと運んできて、あっという間に村ができるはずです。上陸しているのは漁師の姿をした海上民兵たちです。

ただ相手が正規の軍隊ではないので自衛隊は手出しができません。海上における警備行動を発令すれば、警察比例の原則に従った武器の使用はできますが、この場合、海警の船は発砲してくるとは考えられません。海上自衛隊はおろか海上保安庁の船と撃ち合ったところで彼らに勝ち目はないからです。彼らは日本側が領海侵入を理由に危害射撃をしないことを知っています。海上保安庁も相手が撃ってこない以上、発砲はできず、数で押し切られて指をくわえて見ていることしかできないはずです。

この場合、政権が毅然として外交交渉ができるかどうかがカギとなります。

日本にやってきた中国の外相が共同の記者会見で「尖閣は中国のもの」と公言しているのをニコニコしながら聞いて「謝謝」などと持ち上げている政権にそれが望めるかどうかということです。

この国はやっと同盟国との集団的自衛権が極めて限定的に容認されるようになったばかりです。様々な危機管理上の事態に対応できる法的枠組みは未整備です。

領土と主権に対する急迫不正の侵害があっても、実弾を撃たれるまで軍隊が対応できないという不思議な国家なので、よほど外交が巧みでなければなりません。

さらには巧みさだけではなく、毅然と対応する覚悟が必要です。

この1年にわたってメディアによって作られた空気に翻弄され続けている政権にそのような覚悟があるのかどうか。

それが問われる場面です。