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専門コラム「指揮官の決断」

第239回 

無力感に襲われるとき

カテゴリ:危機管理

虚脱感と闘いつつ

第3回目の緊急事態宣言が発令されるに及んで私たちのコロナ疲れが一挙に噴出したのか、人出が第1回目のように激減していません。

実を申し上げると、当コラム筆者自身もコロナ疲れを感じています。もうこの問題を取り上げるのがうんざりです。しかし、危機管理の専門コラムがこの問題から目をそらしていくこともできないと考え、老骨に鞭打って執筆を続けています。

ただし、恐ろしい虚しさとの闘いとなっています。なぜなら、危機管理の専門コラムとしては目の前の危機から目をそらしてはならないとは思っていますが、その危機の源泉がウイルスそのものではなく、その問題を報道するメディアの存在が危機の源泉ですし、それを助長する医師会と支持率しか考えていないように見える政権が危機を作り出しているように思えるからです。連日、彼らの言動を見ていると限りない失望感と虚脱感に襲われます。

この国には危機管理ができないことが日々明らかになってきており、筆者が30年勤務して微力ながらも貢献してきたわが国の防衛態勢も役に立たないだろうという予感がひしひしと強くなっているということです。

嫌になるくらい繰り返していますが、当コラムは危機管理の専門コラムであり感染症を専門としていません。よって立つ立場は、組織における意思決定やリーダーシップを考えるときには組織論をベースにしていますが、社会全体を見るときには数理社会学をベースに観察を行っています。

つまり、このコロナ禍を当コラムが考えるときには、数理社会学の手法によって事態を分析し、意思決定論の立場から論断するという態度を取っています。

この立場から考えると、現状はすべてにおいてバカバカしくて議論する気にもなれないというのが本音というところです。

さて現状は・・・

さて、気力を振り絞って第3回目の緊急事態宣言が発令された事態を観察してみます。

この表はYahooが取りまとめた世界の地域別のCOVID-19の日ごとの新規感染状況を示しています。日本は西太平洋に中国等と一緒に分類されています。これはよく探さないと見つからないのですが、グラフの最下部にちょっとシミのように見えているのがその西太平洋です。世界が大しけの高波に襲われている時、日本はさざ波程度でしかありません。欧米が日本並みになったら勝利宣言を出して国を挙げてお祝いするかと思う程度です。蔓延等防止措置を発出したのは1週間で10万人あたりの感染者数が15人になった時でした。そして25人になったときに緊急事態宣言発令を決断しました。これに対してフランスは700人の時にロックダウンに踏み切りました。日本の緊急事態宣言はフランスの3.6%の時に行われたのです。

責任逃れ

日本医師会の中川会長が医療緊急事態宣言を出したのは昨年の12月14日でした。会長は医師会は全力挙げて日本の医療を守り抜くから国民も自粛して感染を抑えてくれと述べたのです。ところが、1月13日、中川会長は記者会見を行い、医療態勢は崩壊から壊滅に至りつつあるとし、自粛を強化して感染を押さえないとそれなりの措置を取らざるを得なくなると発言しました。つまり、トリアージをやるぞということです。医療態勢が改善されない理由として「民間は中小病院が多く、相対的に医師が少なく、コロナ専門病床を作るのが難しい。」と述べています。

何が何でも守り抜くと宣言してから1か月も経たないうちに崩壊ではなく壊滅だと騒ぎ、その言い訳をしているのです。

実は昨年5月に30000床あったコロナ専用病床が12月の時点で27000床に減っています。夏の間感染者が減ったので、病床を増やす努力をしなかったどころか儲からないので減らしていたのです。そして、そのまま年末を迎えてしまったということで、つまり、自分たち民間は儲からないからコロナ専門病床を作るのは大変だからやらない、国民はもっと自粛して病院にかからなければならない人数を減らせ、ということなのです。自分が「医療を何としても守り抜く。」と宣言したことは覚えていないようです。

不作為

この国の医療崩壊を防ぐために緊急事態宣言が必要というのは真実ではありません。

確かに一部の病院に凄まじいプレッシャーがかかっているのは事実であり、しかもその病院がコロナ患者が増えて増益になっているかと言えばそんなこともなく、従事者にろくなボーナスも払えなくなっているようです。これらの病院が国立ではなく、公立または民間による経営なので、そのマネジメントの責任は知事と医師会にあります。

予備費が10兆円ついたとき、私たちは中国が武漢でやったように突貫工事で空き地にプレハブを建てて、コロナ専用病床を増設するものだと思っていました。しかしそれは大阪で一部行われただけであり、あとは日本財団が拠出して船の科学館横に建設された程度でした。医師会や知事たちはむしろ専用病床を1割減らしたのです。

つまり、医師会会長や知事たちが医療崩壊を叫ぶのに私たちは付き合う必要はありません。お金は十分にあったにもかかわらず、それを使う着意もなく、1年間と言う時間があったにもかかわらず、何もしなかったどころか専用ベッドを減らす程度のことしかしてこなかったのです。冬を見越して必死に準備したのは大阪府知事、大阪市長、北海道知事くらいでしょう。大阪はそれでも苦しんでいます。何もしなかった東京や神奈川がバタバタするのは滑稽ですらあります。

しかしメディアはこのことについて何の批判もしません。医療さえ充実させていれば問題は生じていないのにもかかわらず、政権批判にしか関心がないのでしょう。だからG7諸国で一番PCR検査が少ないとか、ワクチン接種が最も遅れているなどという批判をするのです。

いまだにPCR検査を徹底的に行うべきと力説するどうしようもなく理解力の乏しい論者がテレビに連日出てくるのが困ったものです。

社会が免疫を獲得すればするほど陽性判定者が増えるのが当然です。つまり陽性判定者が増えるということは社会が免疫を獲得しつつあるということなので、本来は望ましい兆候なのです。死亡者が急増しているのであれば問題ですが、2月初旬をピークに連日の死亡者は減少しています。しかしメディアは陽性判定者が増えたから緊急事態宣言だというのです。PCR教信者は、PCR検査を拡充すればするほど陽性判定者が増え、さらに騒ぎが大きくなることを喜んでいるようです。彼らがPCR検査の拡充を主張する本当の狙いがどこにあるのか、私にはどう考えても理解できません。

医療崩壊の原因

政権が頑固にこのコロナウイルスを2類相当に固定している理由もよく分かりません。

疫病が恐ろしいのは、その流行によって多くの人々が亡くなるからです。

1918年から1920年にわたってわが国でも流行した所謂「スペイン風邪」では2300万人の日本人が罹患しました。日本の人口が5400万人の頃です。実に国民の42%がスペイン風邪に罹ったのですが、さらに問題は38万人の日本人が死亡したことです。

現コロナ禍がこのレベルの騒ぎなら当コラムも真剣になりますし、2類相当が適当でしょう。しかし、日本では2020年は2019年に比べて1万人近く死亡者が減っています。G7の他の国々は軒並み10万人単位で死亡者が増えているにも関わらず、ロックダウンをせずに、緩い措置を繰り返し、知事も医師会もろくな医療態勢の整備もしなかったにもかかわらず、この国は死亡者を減らしたのです。

死亡者が10万人単位で増えている諸外国にしてもペストに準ずる扱い、またはSARSやMERSと同じ扱いをしている国はありません。毒ガスが充満している部屋に進入するような防護服を着て陰圧にした特別の部屋で看護にあたっている国は現在日本だけのはずです。

また、医師会会長はコロナ専用病棟で仕事のできる医療関係者はそう簡単に養成できないと言い訳をしていますが、これも責任逃れです。

確かに感染症専門医の数はその他の専門の医師に比べて少ないでしょうが、専用病床の中で特別な治療が行われているかと言えばそうでもありません。新型コロナウイルスにはまだ治療薬もなく、専用病床で行われているのは対症療法であり、熱や痛みを和らげることにより病気と闘う体力を維持させようとすることが中心です。

これは他の多くの致命的な病気の末期症状に行われる治療とそう大きく異なるわけではなく、まともな医師や看護師ならその訓練を受け、経験を積んでいるはずです。ただ、防護服の正しい着用法を知らないと、自ら感染してしまうことがあるため、そのための訓練を受けなければなりません。しかし、この訓練はかつて当コラムでもご紹介しましたが、筆者も湾岸戦争時に米国の海軍基地で炭そ菌テロ対策の一環として訓練を受けています。1回2時間で二日間の訓練でした。

ECMOなどを使う治療になるとそれなりの訓練を必要とするはずですが、この国にある2200台のECMOのうち、使われているのは100台前後です。

つまり、ECMOの訓練など受けていなくとも重篤者病棟において治療にあたることに大きな問題はありません。担当者が不足しているのは、訓練に時間がかかるからではなく、コロナ病棟で勤務すると風評被害に会うからです。

新型コロナの患者を受け入れている病院の医師によれば、感染症の治療経験のある看護師などという贅沢は言わない、通常のICUの経験でいいから防護服の着方を知っている看護師に来て欲しいということです。第2次大戦中の米陸軍で、苦戦して援軍の要請をする際に「敬礼と射撃のできるヘータイを送れ。」という有名な電報を送った師団長がいましたが、それと同じ状況です。

日本医師会会長は医療緊急事態宣言で、「私たちは日本の医療を何としても守り抜く。」と宣言しています。自分たちは風評被害に会うからこれ以上コロナ専用病床は作らないので、飲食店が自粛しろというのはどう考えても無責任でしょう。

この国は頑張っている

ワクチン接種がG7の中で一番遅れているのは当然です。最も必要性が認められないからです。ワクチンは優先順位の高い国へと先に出荷されていきます。G7の他の国々で日本がワクチンを必要としているなどと思っている国は多分ないでしょう。それでも日本がワクチンの契約をするのを許容しているのは、オリンピック開催の準備のためだと思っているからです。少なくとも英国や米国の軍人たちはそう考えており、日本が緊急事態を宣言したというと「尖閣で何かあったのか?」と訊いてきます。コロナで騒いでいるというとジョークだとしか思ってくれません。

つまり、この国は新型コロナに対して頑張って対応してきているということです。ここで誤解して頂きたくないのですが、頑張っているのは政府や自治体の長や医師会ではありません。私たち国民です。

まじめにマスクを着け、ディスタンスを取れと言われれば取り、強制されずとも自粛要請で店を閉め、暴動も起こさずに1年以上を耐えてきている私たち国民が頑張っているのだと考えています。特に三度に渡る緊急事態宣言を耐えている飲食、観光業その他直接影響を受ける業界の経営者や従業員のきつさは筆舌に尽くしがたいものがあるはずです。宣言の発令を決める役人や知事たち、そして私たちに自粛を要求する医師会会長たちは宣言によって給料が減額されたり収入が減ったりはしないのですが、業者の方は本当に収入が皆無になってしまいます。それを必死になって耐えているから、世界でも最もコロナを抑えるのに成功している国の一つになっているのだろうと思っています。

権限を持つものに責任を取らせよ

私たち国民は頑張っています。同じ過ちを三度繰り返しても事態を理解できない愚かな政府や自治体や医師会を抱えるというハンディを負いながらも見事に戦い続けています。

もう私たちが頑張る必要はありません。政権にまともな判断をさせ、知事と医師会長を働かせばいいのです。