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専門コラム「指揮官の決断」

第273回 

100歩後退

カテゴリ:危機管理

政治評論などしたくはないのですが

弊社は危機管理専門のコンサルティングファームであり、それがウェブサイトに掲載するコラムも当然のことながら危機管理専門コラムです。

元々、執筆している筆者が自衛隊出身で政治とは距離を置いてきましたし、それ以前に政治や政治家に対する生理的な嫌悪感をもっており、政治評論など書くつもりはまったくありません。

しかしながら、危機管理の面からみても看過できない政治動向が多々見られることから、しかたなく政治問題に触れることがあります。

それにしても、この政権の政治家たちのお粗末さには呆れさせられます。

経産省大臣が物流コストの上昇に歯止めをかけると称して、レギュラーガソリンの元売りに補助金を出すなどと言い出したのもこの政権下です。

この大臣はトラックが軽油、船が重油、飛行機が限りなく灯油に近い航空燃料で動いていることを知らないと見えます。

この大臣は前政権では文科省大臣を勤めており、オリンピック・パラリンピックがしかるべき措置を取ればコロナ感染者を増大させずに開催できることが富岳のシミュレーションで分かったと言って、「科学的に証明された。」と述べた人物です。

予測と科学的証明の違いを理解しない男がこの国の文部科学行政のトップにいたのです。

それを指摘した弊社コラムでは「ハツカネズミ程度の脳みそ」などという表現でこの政治家に論及するという大変失礼な態度を取ってしまい、深く反省し、お詫びと訂正を申し上げた次第でした。

このような失礼な発言が二度とないよう慎重に言葉を選んでいくとともに、ハツカネズミ各位にはここに改めてお詫び申し上げたいと思います。

危機管理を理解しない総理大臣

さて、この度うんざりしているのは、このハツカネズミ以下の脳みそしか持ち合わせない政治家ではなく、この国のトップである首相です。

岸田首相が自民党総裁選に出馬した際、この人には危機管理ができないと当コラムでは指摘しています。

それは彼が「危機管理の要諦は最悪の事態を想定して、それに備えること。」と再三述べていたことによります。

これは危機管理ではありません。(専門コラム「指揮官の決断」第261回 「危機管理の要諦は最悪の事態に備えること」? https://aegis-cms.co.jp/2510 )

あらゆる事態について、その最悪の事態を想定することはできません。したがって、想定の外にあった事態には対応できません。

大阪の警察は雑居ビル内の心療内科の一つしかない出入り口でガソリンがまかれて放火されるという事態を想定していなかったので、この犯罪を抑止できませんでした。

また、想定を超える事態が生起した場合には、備えがないので対応できないということになります。東日本大震災において、当時の民主党政権は口を開けば「想定外の事態」という言葉を使い、あたかもそれが免罪符になると思っていたようです。

つまり、岸田首相は想定の内側なら備えるが、想定を超えた事態には対応できないと述べたのと同じことなのです。

繰り返しますが、これは危機管理ではありません。

危機管理は想定外の事態への対応をテーマとするマネジメントです。

誰も考えもしなかった事態に襲われた場合に毅然と対応して踏みとどまり、逆にその危機の中に機会を見出していくのが本来の危機管理です。

想定された事態に対応するのであれば、対処計画がすでにできているはずですから、その計画を実行に移すだけであり、それは単なる手続きにすぎません。

事態を想定して対処計画を作っておくというのはリスクマネジメントの課題です。つまり危険性の管理です。

危険性はまず取るか取らないかの判断をします。そこで危険性を取ってでも実施する価値のあるもののみが残されて、実行に移されるのです。

ノーリスク・ノーリターン、ハイリスク・ハイリターンなどと言われるのはそのためです。

例えば、最大10メートルの高さの津波が襲うと予測される場所に原子力発電所を建設して11メートルの防波堤を構築するのがその例です。

つまりこれは危機管理ではなく、リスクマネジメントの世界です。

しかし、当然のことながら、想定が波高10メートルの津波ですから、12メートルの津波が来たらこの発電所はひとたまりもありません。

要するに岸田首相はリスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いすら理解していません。

自分が言ったことを覚えてないの?

その岸田首相にビックリしたのは、18日の記者団との問答です。

首相はオミクロン株への当面の対応について「少なくとも年末年始までの状況をしっかり見極めた上で、その先について考えるべきだ」と述べたのです。

自分が総裁選で何を言っていたのかも覚えていないようです。

最悪の事態を想定もしないのです。

どうなるかわからないから、もう少し様子を見て、いろいろ起こってきたら考えるということです。

新型コロナの感染が収束するのか、現状を維持するのか、あるいは少しずつ増加していくのか、または急激に拡大するのか、さまざまな事態を想定するのでもなく、まして最悪の事態を想定して準備しておくのでもないのです。

現在、ヨーロッパや韓国で感染の急拡大が続く中、日本だけが落ち着いた状況を維持しています。このことによって首相は最悪の事態を想定することを止めてしまったようです。

岸田首相が総裁選において主張した危機管理の要諦も過ちではありますが、リスクマネジメントとしては間違った考え方ではありません。しかし、この度はそのリスクマネジメントすら100歩後退させてしまいました。

首相に一言

この国では自分の身は自分で守るしかないようです。

岸田首相には危機管理において重要な一言を献上したいと思います。

重要なのは「最悪の事態を想定して備えること」ではなく、次の一言です。

「治に居て乱を忘れず」

ホントは「ボケーッと生きてんじゃねえよ。」と言ってやりたいのですが・・・

あくまでも上品にいきたいと思っていますので。