専門コラム「指揮官の決断」
第280回お詫びと訂正
お詫び申し上げなければ・・・
当コラムが社会科学的方法論を重視してきていることはお読みになってこられた方々はお気づきのことと拝察いたします。重視どころか、かなりのこだわりを持って執筆をしてきております。このコラムが専門コラムであり、無責任な随筆や自分では何もしないのに批判だけは一人前の評論家の論評とは異なると考えているからです。
科学的方法論を重視しているのは、予想ではなく予測をする必要があるからです。予測と科学的証明も峻別して議論しています。文科省大臣が富岳のシミュレーションによって科学的に証明されたなどと寝言を言うと当コラムで批判するのは、文科省大臣が科学的証明とコンピュータの予測の違いも知らずに議論するのが論外だからです。
その観点から考えると、前回のコラムに重大な事実誤認があり、お詫びと訂正の必要があると考えて今回のコラムを執筆いたしております。
前回、当コラムでは岸田首相が文芸春秋誌に掲載した彼の主張する新自由主義を解説する論文を取り上げ、この程度の首相を戴く日本は令和最大の危機を迎えていると指摘しています。この指摘が事実誤認に基づくものであることに執筆者自身が気付きましたので、今回、訂正しお詫び申し上げるつもりです。
前回のコラムでは首相が提唱する「新しい資本主義」というものに新しいものは何もなく、首相が嫌っている新自由主義の発想からまったく抜け出ていないという点を指摘し、また、最悪の事態を想定してそれに備えることが危機管理の要諦という勘違いをしておきながら、最悪の状態すら想定しなかったために、検査キット不足という事態を招いていることから、この社会が令和最大の危機を迎えていると述べました。
ここに筆者の事実誤認があったことを認めざるを得ないことに気付いた次第です。
何が起きたのか
本日、2月10日、政府はまん延防止等重点措置適用の継続を分科会に諮り、その了承を得たと報道されています。つまり、3月6日までの延長が決定されたということです。
弊社がこの第6波のピークアウトを宣言したのは先々週ですが、連日の報道における感染者数の実数は伸びていきました。弊社のピークアウトの判断は統計学上の判断ですので、数学的にピークアウトしたからと言って報告される感染者数がたちどころに減っていくというものでもありません。しかし一週間の移動平均の毎日の増加率の変化を見るという平凡な手法を踏襲しているに過ぎないのですが、ピークアウトしていることは間違いないので、いずれ実数も減少に転じることは明らかです。多分、今週末には実数も減少し始めるはずです。
にもかかわらず、延長が決定されたということは弊社の理解を超えています。
同じことは第1回の緊急事態宣言の際にも起こりました。宣言を出した日に減少が始まっています。その後も宣言発出前に減少が始まっています。
オリンピックの際は緊急事態宣言が発出されても減少せず、かなりの勢いで増加が続きました。この事態をテレビに出てくる専門家たちは理解できず、なぜ減少しないのかについて「緊急事態宣言が何度も出されたため、宣言の効果が小さくなっており、人流が減らない。」という説明をしていました。そして、家庭内感染が最大のクラスター発生源であり、夏休みに備えるべきであると述べていました。
ところが、それから数日たったある日を境に感染者が急減を始めると、今度は「お盆休みで人流が減少したためだ。」との説明が始まりました。
直前まで「人流が減らない。」と言っていたのは誰だったのかと疑いましたが、それ以上にビックリなのは、お盆で人が外に出ずに自宅でオリンピック観戦をしていたのであれば、家庭内感染で感染者が増えるはずであるのに減り始めているということの説明が行われないことでした。
つまり、感染者数(厳密には陽性判定者数)の増減とまん延防止等重点措置や緊急事態宣言は関係がないということなのですが、それがこれらの専門家には理解できないようです。
ただテレビに煽られて、なにもしないわけにいかないからという理由でとりあえず取る措置がまん延防止等重点措置なのです。
何もやらない政権がいかにもやっている感を出すための、要するに政権の保身のために飲食店が犠牲とされているだけです。
メディアも酷いものです
筆者はテレビはあまり観ないほうですし、ワイドショーなどには何の関心もないのですが、このコロナ騒動が始まった際、当コラムは医学に関しては専門外なので、この問題をマスコミがどう取り上げ、それが政策にどう影響を与えるのかを観察する社会学的な観点から見ると申し上げたとおり、メディアでの取り扱いには関心を持ってきました。
そこで時々いろいろな番組を録画してまとめて観るのですがびっくりすることがよくあります。
先週もびっくりしたことがありました。
森永卓郎という自称経済アナリストがいます。彼が経済アナリストなら、筆者は古典芸能評論家の肩書を名乗ることを躊躇しません。歌舞伎を観たことがありますからね。
その森永氏の発言には驚かされました。
彼はWith Colona政策には反対なのだそうですが、その根拠が噴飯ものなのです。
「オミクロン株における60歳未満の致死率は0であるが、60歳以上の致死率は0.098%、約1%の致死率である。日本では60歳以上の人口は4400万人いる。つまりWithColona政策を取ると、最大44万人が死亡する可能性がある。」というのです。
この程度の頭の男が経済アナリストを自称しワイドショーでの発言を続けているのです。
0.1%という致死率は、毎年のインフルエンザの致死率とそう変わりありませんが、この場合は60歳以上ではありません。インフルエンザは小学生であろうと情け容赦なく命を奪います。つまり森永氏の計算通りにインフルエンザの毎年の死亡者を推計すると1億2千万人の0.1%の120万人が毎年亡くなっていることになります。
この経済アナリストの頭のお粗末さはこれで知れるのですが、テレビに出てくる感染症専門家たちもそう大差があるわけでもありません。当コラムで何度も指摘しているように致死率の計算もできていませんし、グラフの見方も知りません。
筆者もかつて地元テレビ局に呼ばれて15分の番組に出演したことがありましたが、事前の打ち合わせは1時間近くかかりました。昨年には取材を受けて図上演習をテーマに5分間の番組が制作されましたが、この打ち合わせには2日かかっています。本業を持っている者が連日テレビに出演するということはよほど暇がなければできることではありません。感染症の専門家といっても感染症病棟で働かせてもらえず、仕方なくテレビで稼いでいるのかと思ってしまいます。
訂正させてください
さて、それでは何が前回のコラムにおける間違いだったのかという話ですが、前回、当コラムでは現政権の存在を「令和最大の危機」と表現したのですが、それが事実誤認であったということです。正しくは「今世紀最大の危機」というべきであったのに、過小評価していました。ここに謹んでお詫びして訂正させていただきます。