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専門コラム「指揮官の決断」

第282回 

誰か教えてやって!

カテゴリ:危機管理

まん延防止等重点措置延長

2月17日に行われた首相官邸における岸田首相の記者会見で、まん延等防止重点措置の延長が告げられました。

この措置の適用がいかに馬鹿げているかについて当コラムではかなりの回数を割いて主張してきましたし、延長などというのは狂したかと思わざるを得ないと考えていますが、さらに呆れるのは、その延長を国民に説明するために開かれた記者会見での首相の話です。

首相の誤解

首相は「私は、総理大臣に就任以来、常に危機管理の要諦である最悪の事態を想定してコロナ対応に当たってまいりました。」と述べて、「特に、オミクロン株については、発生当初から慎重の上にも慎重を期すという考えの下で対応を行ってまいりました。オミクロン株の科学的な性質が明らかとなっていない状況においては、そうでなければ国民の皆さんの命を守ることができないと判断したからであります。」と続けています。

当コラムで再三指摘していることではありますが、最悪の事態を想定して備えるのは危機管理ではありません。それはリスクマネジメントの任務です。

あらかじめ想定できるのであれば、それに対応する手段を準備しておけばいいだけなので、危機管理上の事態に陥ることがないはずです。

ただ、最悪の事態を想定した場合に、それに対する準備ができないことが分かった時、通常ではそのリスクを取らないという判断をすればいいのですが、そのような判断をすることができない場合、言い換えれば、猛烈な脅威にさらされることが分かっていて、かつ回避することができない場合にどうするのかというのは危機管理上の問題としてとらえることができます。

例えば、向こう30年以内に70~80%の確率で生起するといわれている東海・東南海・南海トラフに起因する地震津波被害などは、その発生は予想できても危機管理上の問題であることは間違いありません。

岸田首相が最悪の事態を想定してということがそういう意味であるのならまだいいでしょう。しかし、それは決して危機管理の要諦ではありません。危機管理はあくまでも想定外の事態に襲われた際に如何に対応し、そしていかにその危機を機会に変えていくかを問われるマネジメントです。最悪の事態を想定して備えることができるのであれば、それはリスクマネジメントです。

リスクマネジメントは多くの専門家の知識経験を総動員する必要があります。

ところが、弊社で見るところ、このコロナ騒動に関する限り、どう見てもまともな専門家たちがその知見を寄せ集めているとは考えられません。

当コラムで何度か指摘しているとおり、彼らは致死率すらまともに計算できないくらいです。

何もやらないのと慎重なのは別問題

「オミクロン株については、発生当初から慎重の上にも慎重を期す。」として、その理由を「オミクロン株の科学的な性質が明らかとなっていない状況においては、そうでなければ国民の皆さんの命を守ることができないと判断したから」と述べていますが、事の真相がすべて明らかにならなければ何もしないというのでは危機管理はできません。

危機管理上の事態においては、十分な情報が適時適切に入ってくるなどと言うことはあり得ません。そのように情報が入ってくるのであれば、危機に陥っているとは言わないからです。

危機管理上の事態においては混乱が頂点に達し、まともな情報など得られないことを覚悟する必要があります。この点からしても、岸田首相は危機管理の経験がなく、それがどういうものであるのかを理解していないことが分かります。

彼はいみじくも「慎重を期す」と述べましたが、慎重を期すことと何もしないというのは意味が違います。

飲食店の時短営業の効果は?

当コラムでも再三指摘してきたところですが、緊急事態の宣言やまん延防止等重点措置の適用と検査陽性判定者数の増減には優位な関係は見出せません。

例えば、21時以降の人流抑制のために飲食店に時短営業を要請するのであれば、それが科学的に効果のある手段であることが合理的に説明されなければならないはずです。なぜなら、それは経済的自由を侵す私権の制限であり、それは公共の福祉に反する場合にのみ認められる制限のはずです。

しかし、陽性判定者の増減のどのデータを検討しても、時短要請と感染者の増減の相関関係を証明することが出来ません。

ヨーロッパの多くの国を眺めても、ロックダウンという強烈な手段を行使した国と、そのような手段を使わなかった国における陽性判定者の増減のグラフが同じ形を描くところを見ると、時短営業などは陽性判定者の増減と関係があると認めることは困難です。

なぜなら、コロナウイルスをばら撒いているのは飲食店ではないからです。飲食店に来た客が店内で大騒ぎをした結果、お互いに移しあっているだけであり、店はむしろ従業員を危険にさらしている被害者ですらあります。これら飲食店でお互いにウイルスを移し合っている人々は、飲食店が時短営業になると、どこかで一人でじっと静かにしているわけではなく、友達の家で飲んだり、家族と一緒にいたりして、結局誰かに移してしまっているのです。

つまり、他人に移す場所や相手が変わるだけなのです。

結局、感染しやすい人に感染し終わると終息していくだけなので、飲食店の時短営業には、全体の陽性判定者を減らす効果はほとんどないのです。

交通事故死が増えたら自動車を売るのを止めさせるか?

そもそも交通事故で毎年3000人程度の方が亡くなりますが、車のディーラーに販売自粛を要請したという話を聞いたことがありません。自動車事故は自動車が原因なので自動車を売るなというのは理屈が通っているかと思いますが、飲食店が供している料理や酒にウイルスが混在しているのではないのですから、飲食店の営業を制約するのはお門違いかと思われます。

レストランで夫婦で静かに食事をしている客がその会食が原因で感染するということは考えられませんし、深夜の勤務明けに一人で牛丼を食べたりしている客がどうやって他人に感染させられるというのでしょうか。

一律に時短要請をした結果、それら飲み屋で大騒ぎをして飲みたい連中がどうしているかというと、家に帰って飲んでいるのでしょう。そのために最近の大きなクラスター発生源が家庭だということになってしまうのでしょう。

問題は高齢者のいる家庭にウイルスを持ち込んで、高齢者が感染して重篤化することだとさんざん言われていますが、そうであれば、飲食店の時短要請を止めて、会社員たちにはできるだけ終電近くまで飲み屋で飲んで、お年寄りが寝静まってから帰宅するように仕向けた方がいいはずです。

政治家の本音

当コラムでは2月8日現在でピークアウトを過ぎていると宣言しております。東京に限定して申し上げれば、2月1日の時点ですでにピークアウトしたものと考えておりましたが、全国でのピークアウトを判断するのには若干の時間が必要でした。しかし、2月第一週でピークアウトの判断は出来ていました。

にもかかわらず、政権がまん延防止等重点措置の延長を決めたのは17日でした。この時点では解除を検討すべきなのですが、延長という判断をしたことの意味がまったく不明でした。

まん延防止等重点措置の適用にあたって、神奈川県の黒岩知事にインタビューしたテレビ局がありましたが、適用がどれほど効果があるかを問われた知事は、「分からないんです。でも、これしか手段がないんです。これが我々に残された最後の武器なんです。」と答えています。

これは黒岩知事が政治家としての本音を吐露したものでしょう。

時短要請が効果があるという証拠はどこにもない、しかし、政治が何かをやっているかのように装うためには他にやることがないということです。

つまり、飲食店は政治家の体面を繕うための生贄にされているだけなのです。

せめて最悪の事態の想定ぐらいはしろよな

岸田首相は「最悪の事態を想定して備えること。」が危機管理の要諦だと信じています。側近の誰でも結構なのですが、それは危機管理ではないということを教えてやって欲しいと思います。

百歩譲って、それが危機管理だとしても、それなら最悪の事態を想定だけでもする必要があることを教えるべきです。

昨年末の12月18日に今後のコロナ対策をどうするのか記者に訊かれた首相は「オミクロン株の実態がより明らかになるまで、少なくとも年末年始の状況はしっかり見極めた上で、その先については考えるべきではないか」と答えています。

筆者は耳を疑いました。彼は最悪の状態を想定することすら先送りにしたのです。最悪の事態を想定するのではなく、年末年始の状況を見てから決めるというのです。

その結果、検査キットの不足で各病院が身動きが取れなくなりました。

これは政権と医師会の無能さを露骨に示すものです。

検査キットが無くて診断ができないなどということが、発展途上国ならともかく世界最先端の医療大国で起こるということ自体が信じられません。

誰かが彼らに教えなければ

いかにこの国の指導者たちや医師会が弛んでいるかがこの事例だけでも明確に見て取れます。

そもそも緊急事態宣言にせよまん延防止等重点措置の適用にせよ、それらの目的は時間を稼いでその間に医療態勢を整備して医療の崩壊を防ぐことにあったはずです。

医師会は医療態勢を整備することは行わず、人流を抑制して感染者をゼロにすることしか考えていません。そうでなければ、少なくとも検査キットの発注くらいはしておくはずです。

しかし、もし大量に発注して在庫を抱えることにでもなったら大変なので、そのような配慮はまったくしなかったのでしょう。

行政も全量買い取りを保証して増産させるなどの指導を全くしていません。オリンピック後に陽性判定者が減ったことに気が緩んだのです。

そのことを彼らに自覚させる必要があります。彼らがこの2年間やってきたのは危機感ではなく、単なるパフォーマンスでしかありません。

誰かが、首相や知事、医師会会長たちに自分たちがいかに間抜けで無責任なのかを教えてやらねばなりません。