専門コラム「指揮官の決断」
第301回感染症専門家の計算する致死率
致死率を比べることの意味
当コラムでは、テレビに出てくる感染症専門家たちは致死率の計算方法すら知らないと述べています。
はっきり申し上げて、これは筆者がそれら感染症の専門家たちの能力をその程度と見做しているということなのですが、それだけ失礼な発言をするについては根拠がなければなりません。
この問題については、これまで数回にわたってコラムで解説を繰り返していますが、依然として、「お前は何故感染症の専門家が致死率の計算方法を知らない、と言いふらしているのか。そんな馬鹿なことがあるはずがないだろう。」というご指摘を方々で受けますので、ここで改めて解説させて頂きます。
新型コロナ感染症に関しては、インフルエンザやその他の感染症とは統計の取り方がまったく異なっています。
特定の病気の致死率は、その病気に罹った人数とその結果亡くなった患者数の比率で表します。
ところが、新型コロナに関しては死傷者数が新型コロナを発症して亡くなった人数ではなく、亡くなった後に遺体を検査してコロナウイルスが検出されると「コロナ死」と認定するという方法を取っています。これはWHOの指示によるものだそうです。
世界中同じ基準でデータを取らないと対策を取ることができないという理由で、そのような方法がとられたのだそうです。
世界中の医療水準には大きな差がありますから、このような方法がとられるのも仕方ないのかもしれません。
しかしこの方法の問題点は、自殺であろうが事故死であろうが、末期がんの患者であろうが、亡くなった時にウイルスのかけらでも見つかると「コロナ死」となってしまうことです。
つまり、純粋に新型コロナウイルスに感染して肺炎を起こして亡くなった人数よりも遥かに多くの人数がコロナ死と認定されてしまうということです。
したがって、コロナ死の致死率を他の感染症の致死率と比べること自体がほとんど意味がないということになります。
そのような問題を内包するコロナ統計ではありますが、それでも計算方法が正しく、そのような条件であることさえ忘れなければ様々な分析の参考とすることが出来ます。
しかし、当コラムの考えるところ、日本のテレビに出演してくる感染症の専門家たちは、その致死率を正しく計算することが出来ていません。
専門家たちはどう計算したか
2020年の今頃、感染症の専門家たちは新型コロナ感染症の致死率を3%としていました。
筆者は直感的にそんなに高いはずはないと思っていましたが、しかし、専門家たちは特別な情報を持っているのだろうと考えていました。まさか単純な割合計算ができないとは考えてもいませんでした。
しかし徐々にその数字が定着し、緊急事態宣言など様々な施策が講じられるようになってくると曖昧な態度は許されないと考え、その3%の根拠を調べ始めました。
厚労省に問い合わせたり、様々なデータを取り寄せたりしてどうすれば3%という結論が出るのかを探し続けました。
しかし、どう計算しても一桁異なる結論しか出てきませんでした。
しかし、ある時、ふとしたことからある計算を試み、3%という数字がいかに間抜けな方法で計算されたのかに気付くことになりました。
2020年8月1日時点のコロナ死者数の累計は1011人でした。死亡後に検査してコロナウイルスのかけらでも見つかって「コロナ死」と認定された人数の累計です。
一方のPCR検査陽性判定者数の累計は37392人でした。
単純にこの二つの数字を使って致死率を計算すると、2.704%になります。概ね3%と言ってよい数字でしょう。
いかに間抜けな計算なのだろうか
しかし、小学校高学年の算数か中学1年の数学程度を思い起こしていただければ、これがいかに間抜けな計算かがすぐに分かります。
分子のコロナ死者数は全国で亡くなったコロナ死と認定された人数の累計です。
一方の分母は、PCR検査を受けて陽性と判定された人数の累計です。
もし、分子を全国のコロナ死者数とするのであれば、分母は全国の陽性者数でなければなりません。
分母をPCR検査を受けて陽性と判定された人数とするなら、分子はその陽性判定者の中で亡くなった人数でなければなりません。
全国民の検査をしたのではないので、全国の陽性者数は分かりませんし、陽性判定者のうち何人が亡くなったのかは追跡調査をしていないので分かりません。
つまり、まともな致死率など算出できる態勢ではなかったのです。
しかし、筆者は強引にコロナ死の致死率を計算しました。
この頃、世田谷区が区内の介護施設の全従業員に対してPCR検査を行っていました。5000人を検査して陽性判定者数は50人でした。つまり、1%です。
2020年の日本の総人口は1億2580万人でしたから、単純に考えると126万人程度が陽性の可能性があります。しかし、介護施設従業員は特別に感染症には注意を払って生活している人たちでしょうから、より一般的な職業の人々であればもっと陽性率は高いかもしれません。2倍や3倍でも不思議はないと思います。
仮に1%の126万人だとすると、致死率は0.8%です。一般人ならより陽性者数は多いでしょうから致死率はもっと低くなります。
厚労省専門家会合も同様
今年3月、厚労省の専門家会合が2018年末に大流行した季節性インフルエンザの致死率よりもオミクロン株の致死率が高いと考えられるという分析をしました。
彼らはこの時のインフルエンザの致死率を0.01%から0.05%と計算し、オミクロン株の2月21日時点での致死率を0.13%と計算しています。
もともと、インフルエンザの致死率とコロナの致死率を比較することに意味はありません。
何故なら、インフルエンザの死者数は、医師が診断してインフルエンザが死因であると認めた死者数ですが、コロナ死は前述のごとく末期癌であろうと自殺であろうと交通事故であろうと検査の結果ウイルスが見つかればコロナ死なのですから、同じ条件で比べることにはなりません。
しかし、それでも厚労省の専門家会合がどのような計算をしたのか知りたくていろいろと調べてみました。
しかしそれらの根拠が分かりませんでした。散々考えた挙句、まさかと思っては見たものの1月2日から2月21日までのコロナ死者数を分母に、同期間の陽性判定者数を分母にして計算してみると、0.134%になりました。呆れかえったことに、厚労省の専門家会合もこの程度の計算しかできない連中です。ちなみに筆者の手計算では0.01%です。
この2年半というもの、この程度の専門家たちと、まともな計算ができる専門家を登場させずにその程度の専門家ばかりを登場させて事態を煽り続けたテレビによってこの国は翻弄され続けてきたのです。