専門コラム「指揮官の決断」
第314回マインドコントロールを数理社会学的に簡単に説明すると
霊感商法の問題点
世間では霊感商法に起因する問題の話題がかまびすしいですね。
高額の寄付を要求されたり、とてつもない金額の壺を買わされたりということが問題なのですが、単純に説明するとマインドコントロールされてしまうことの問題です。
マインドコントロールもいろいろな型があるようですが、当コラムは心理学や精神病理学を専門としているものではないので深入りはしません。
しかしながら、現在世間を騒がせている問題の原因となった宗教団体が火種で、元首相の狙撃事件が生じたとなると、危機管理の専門コラムとしても看過することはできませんので、この問題についても簡単に触れておきたいと思います。
問題の高額の寄付や高価な壺の販売はどのようにして行われるのかを考えてみます。
まず、教団の教祖様の教えを守ることを要求されます。
教えに従うことによりいいことがあり、教えに従わないと不幸になると思わされるのです。
何もない平凡な、あるいは元気揚々の人生を送っている人にはこの話は通じません。しかし、何らかの悩みを抱え、藁にもすがりたいという状況の時にはこの言葉が威力を発揮します。
そのように精神的に追い詰められた状況においては、この言葉を正面から受け止めてしまいます。
二分法の誤謬
しかし、そこには「二分法の誤謬」という罠が潜んでいます。
教祖様の教えを巡っては、実は従って幸せになる、従わずに不幸になるという他にもなりうるケースが存在します。
教祖様の教えに従っても不幸になる、あるいは教祖様の教えに従わなくても幸せになるというケースがあることを、追い詰められた人々は顧みることができません。
つまり、逆側から見ると、この「二分法の誤謬」というのは、相手を極限状態に追い込むことで、自分に都合いい選択を導き出す際に用いられる論法なのです。
この問題の数学的解釈
この罠に陥らないためには、冷静に選択肢がいくつあるのかを見極めることが重要です。
この選択肢の数を計算するための簡単な公式があります。
選択肢の数=2のn乗 です。
nは組み合わされる項目の数、2は組み合わされる項目のそれぞれに対し、採用するかしないかの二つの選択肢があることを示しています。
上述の例で説明すると、「教祖の教え」と「不幸」に関し、「買う」「買わない」、「不幸になる」「不幸にならない」というケースを考えることができます。
ところが、追い詰められた人は、それらの選択肢を冷静に考える余裕を持たず、信じて幸福になるか、信じずに不幸になるかという二者択一しかないと思い込まされてしまいます。
傍から見ていると滑稽なのですが、ご本人は真剣なので始末が悪いのです。
なぜマインドコントロールの呪縛にとらわれるのか
いずれにせよ、マインドコントロールとは本人の判断力を奪ってコントロールしてしまうので、コントロールされる側はとても居心地がよくなることが指摘されています。コントロール下に入ると自分で判断しなくて良くなるため楽なのです。
自分が自分の責任で判断しなければならないというのはつらいことです。まして、自分の判断に多くの人々の命運がかかるような場合、その責任から逃れることができるのですから、これほど楽なことはありません。
これが現在社会を賑わせている宗教団体の起こしている騒動の本質です。
どんなに苦しくとも自分の生き方は自分で決めていくという覚悟がないと、このマインドコントロール下にいともたやすく入ってしまいます。
この覚悟を決めて生きていくということはつらく苦しいものです。
一方で、マインドコントロール下に入るとバラ色の将来が開けてきます。その誘惑に人は抗えないようです。
情緒ではなく論理的な思考を
マインドコントロールされた人々との付き合いは面倒です。
彼らは自分たちが絶対的に正しいと信じているので、他の議論をまったく受け入れようとしません。上記の例で言えば、二者択一の論理しか受け入れず、しかも、自分が正しく相手が誤っているという結論が最初にあります。
つまり、議論の余地がないということです。
しかも、マインドコントロールされている人たちは、自分がマインドコントロールされているとはまったく思っておらず、自分は正しく、相手が間違っていると思っているので議論が出来ません。
最近の教育改革により、小学生に投資の授業が始まったりしているようですが、論理的な思考法を教えて、簡単にマインドコントロールされないような覚悟を持たせる方が重要かと考えます。