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専門コラム「指揮官の決断」

第319回 

園児通園バス置き去り事件

カテゴリ:危機管理

生かされない教訓

11月2日、岩手県一関市で、小学1年生の男子児童がスクールバスの中に一時置き去りにされるという事故が生じました。

一関市教育委員会によれば、「この事案は、義務付けられている運転終了後の後部座席までの確認作業をもってすれば、確実に防ぐことができたものです」ということです。

では、運転手はなぜ確認をしなかったのでしょうか。

教育委員会の説明によれば、「車内確認を行った後、(コロナの)消毒を行うこととなっておりますが。この日、運転手が用事があって、早く帰らなければならない。その分を怠ってしまった」ということなのだそうです。

運転手が私用のため確認をせずに駐車場にバスを戻して帰宅してしまったそうです。

この事案においては、駐車場にバスが戻り、運転手が下車した後、居眠りをしていた園児が起きて事態に気付き、クラクションを鳴らしたために事なきを得たようです。

繰り返される事故

今年の9月には静岡県牧之原市の認定こども園で園児が通園バスに置き去りにされ死亡するという悲惨な事故が起こりました。昨年7月、福岡で保育園の園児が置き去りにされて亡くなるという衝撃的な事件のニュースが全国を駆け巡ったばかりであったにも関わらず、まったく同様の事件が発生したことになります。

コラム炎上を怖れずに発言いたしますが、何故スクールバス運転手にはこの程度の〇×〇×ドライバーが多いのでしょうか。(〇×〇×の部分には最低の差別用語を入れて執筆しましたが、猛反対にあって伏字にしています。)いずれにせよ、ドライバーとしては最低の連中と言わざるを得ません。

当コラムは実名で執筆しており、匿名の誹謗中傷は行っておりませんので、反論のあるスクールバスドライバーがいるなら反論して頂いて結構です。

これほど社会を騒がせた事故が二度も起こり、様々な防止方策が全国的に議論されている最中に、私用があるから確認をせずに業務を離れてしまうという仕事仲間がいたことを全国のスクールバスドライバー達は恥じ入るべきです。

表面的な対策

牧之原市の事態を受けて、相模原市では、バスに取り残された子どもが「防犯ブザー」を使って周囲に知らせることができるか、検証する実験が行われました。市内の幼稚園で市の職員や園の関係者が参加して、バスの中で鳴らした「防犯ブザー」の音がどの程度聞こえるのかが実験され、バスのドアや窓を閉め切った状態では音がこもり、バスのそばでなければ音が聞こえないことが分かりました。

結局、複数の防犯ブザーを鳴らしたり窓を開けた状態で鳴らしたりと条件を変えて実験した結果、運転席の窓が10センチほど開いていれば、バスの外にも音が届くことが確認できたということでした。

筆者に言わせれば、市の職員も園の関係者たちもそんなことを実証実験までしなければ分からないのでしょうか。そのレベルの頭脳が集まったところでまともな解決策など望むべくもありません。

この実証実験には報道まで呼んで公開しています。つまり、何かやっている風を装うための検証作業としか思えません。

千葉県のある自治体では、子供が置き去りにされたと気付いた場合にクラクションを鳴らす練習をさせました。

実際に、一関市の事案では置き去りにされた園児がクラクションを鳴らしています。

しかし、一関市の事案が起きたのは11月です。

これが猛暑の夏であれば、園児は車内に置き去りにされたことに危機感を持ってクラクションをならすようなことはできなかったはずです。

園児が置き去りにされるという状況は、その子供が寝ていて目的に着いたことを知らなかったりしている場合が多いかと思います。そのまま車内にいて熱中症になってしまったのが牧之原市の事故です。

熱中症の場合、本人が気づく前に体力を失います。大人なら吐き気がしたり、眩暈がしたりすることにより気付くことがあるかもしれません。しかし、その眩暈が強烈だったりした場合は手遅れです。まして幼稚園児に自分の置かれた状況を把握して救助を求めよと言っても無理なことです。

つまり、この訓練も役に立たないとは言いませんが、抜本的な解決策ではありません。

マニュアルの改訂で防げると思っているのだろうか

牧之原市の事故を起こした園は安全管理マニュアルを改定し、4度の出欠確認を行うこととして再発防止対策としています。

一方で政府は、延長の責任を明確化した安全管理マニュアルを配布するとともに送迎用バスに安全装置を装備することを義務付けています。

しかし、ここで事件が発生した原因を振り返ってみます。

当日、正規の運転手が休日のため、急遽、理事長が代わりに送迎バスを運転し、乗車時の人数確認は行ったが降車時には怠っています。

また園児たちが入園時に1人ずつ入園記録の機器をタッチすべきところ、職員が一括して処理していました。

さらに教室で当該女児が欠席していることに気づいたのに親に連絡をとって確認していません。

この認定こども園では、昨年の7月の福岡での事故後に文科省から注意喚起の通知が出されているのを受け取っています。

つまり、この施設では、同種施設で悲惨な事故が起こり、監督官庁から注意喚起の通知を受け取っており、事故防止のためのマニュアルもあったにもかかわらず、基本的な人数確認すら行っていなかったのです。

園児の数を数えることすらできない幼稚園で、その確認を4回行うマニュアルを作ることにどのような意味があるのでしょうか。人数の確認など確実にやるのであれば1回やれば十分です。

要するにこの連中は尊い人命が失われなければ何も理解できない人たちです。

改訂し、より精緻化したマニュアルはこの連中には何の役にも立たないはずです。

今までのマニュアルでも、それに忠実に従っていれば事故にはならなかったはずです。

これは事故の原因がマニュアルの不備にあったとする問題のすり替えでしかありません。

人よりシステムの方が確実か?

一方で、ヒューマンエラーは必ず起こるものという発想で、システムで対応しようとする考え方もあります。

牧之原市は再発防止策として、市内の保育施設のすべての送迎バスに「たすけて、おす」と書かれたブザーを付ける方針を明らかにしていますし、様々なメーカーで人感センサーが開発され、車内に園児が取り残された場合に警報を発するようなシステムが作られており、国が補助金を出してでも、送迎バスにはその設置を義務付けるべきという声も上がっています。

人間工学的にはこの考え方にも評価すべきものがないとは言いませんし、役に立つこともあるかもしれません。

子供が自分でブザーを押さなくとも人感センサーで検知するシステムも作られていますが、人感センサーは動きが無ければ検知しません。ぐったりしている子供を人感センサーが検知することはできないのです。

つまり、このようなシステムは機能しないのです。

牧之原での事故に際しては、理事長が運転し、乗車時の人数確認は行ったが降車時には怠っており、園児たちが入園時に1人ずつ入園記録の機器をタッチすべきところ、職員が一括して処理し、教室で当該女児が欠席していることに気づいたのに親に連絡をとって確認していません。

つまり、様々な手抜きが重なり、どれか一つだけでもしっかりと行われていれば生起しなかったであろう悲惨な事故が引き起こされたのです。

一関市の事案ではドライバーが私用で確認を怠っています。

それらのヒューマンエラーは防げないという発想からシステムを整備しようというのですが、ヒューマンエラーは必ず起こるということであれば、システムエラーも必ず起こるということに思いを致さねばなりません。

事故を防ぐための工夫

筆者は飛行機の操縦資格を持っていますが、パイロットとしての訓練を受ける最初のステージで徹底的に教えられるのが、記憶に頼らず、チェックリストを必ず使うこと、そして、できるならクロスチェックを行うことでした。

航空機には機種ごとに定められたチェックリストが備え付けられており、パイロットはそのチェックリストに従った確認をしなければなりません。

どのような機種であっても確認をしなければならないのは次の場合です。

・出発準備が整ってエンジンを始動する前

・エンジンを回し終えて電源の切り替えなどを終了した後

・離陸準備完了

・離陸し上昇初期に移った後

・着陸のための進入時及び着陸準備完了時

・着陸後

・ゲートについてエンジン停止と業務終了の確認

これらのチェックに際し、チェック項目を飛ばしたりすると航空法違反とされる場合もあります。

その他にも会社が独自に定めたチェックリストや、機種ごとに定められたチェックリストが存在します。

このためパイロットたちは愚直なまでに各フェーズでこのチェックリストに従ったチェックを行います。

できるならクロスチェックを、というのは、小型の飛行機で操縦士が一人で乗る場合は仕方ありませんが、副操縦士が乗っている場合には、チェックリストを読む者とチェックをする者に分かれ、チェックリストを読む者はチェックをする者が定められたチェックを行っているかどうかを確認しながらチェックを進めるということです。

事故防止に必要なのは、精緻なマニュアルではなく、基本を定めたマニュアルに愚直に従うという態度です。

どのように精緻なマニュアルが作られても、それが省略されたり、形式的に運用されたりするのであれば、意味がありません。

航空機の操縦士たちは、先人たちが犯してきた無数の過ちから得られた教訓に学び、その結果、チェックリストによる確認という作業を愚直に行うという習性を身に付けています。

実は極めてシンプルな方法でいい

ヒューマンエラーは必ず起こるという考え方の下にシステムを整備するというのは事故の再発防止に大きく寄与はするはずですが、しかし、同様にシステムエラーも必ず起きることを忘れてはなりません。

その時、最後に子供たちの安全を守るのは、素朴なチェックを愚直に行うという態度です。

しかし、単に「乗車時と降車時に人数を数える。」「入園記録の機器に一人ずつタッチさせる。」「教室で出欠を確認する。」というようなマニュアルを作るのではなく、それをチェックリストの形にして、毎回、そのチェックリストを確認して記録として残すということを精度化しておくという方が確実性が高くなります。

要するに、安全を確保するために必要なのは、高度に設計されたマニュアルでも、お金のかかったシステムでもなく、必要最低限の項目を記載したチェックリストによるチェックを愚直に実施するだけのことなのです。

ただし、一関市のスクールバスドライバーのように、私用があるから規則で定められた確認をせずに業務を離れるというような低レベルのドライバーの場合は、チェックリストによる確認なども当然行わないでしょう。彼らは飛行機の操縦士のような事故防止のための基本的な訓練を受けていないド素人です。

そこでこれらの低レベルドライバーが起こす事故をどう防ぐかが課題です。

簡単なことです。 

スクールバスが業務から戻ってきたら、運行管理者なり担当者なりが、チェックリストによる点検に立ち会えばいいだけです。

そして、ドライブレコーダーには車内での点検の様子も記録に残るようにしておき、陸運局なり教育委員会なりが時折抜き打ちの検査を行って、チェックリストによる確認が行われているかどうかを検査すればいいだけです。

システムに置き去りにされた子供がいるかどうかをチェックさせるのではなく、人に確実にチェックさせるシステムを作ればいいだけなのです。