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専門コラム「指揮官の決断」

第377回 

2023年の危機を振り返る

カテゴリ:危機管理

いよいよ年末ですね

今年のコラム掲載も今回と次回の2回を残すだけとなりました。

危機管理の専門コラムですから、今年を危機管理の眼で振り返るとどう見えるかという話題にしたいと考えます。

今年、筆者が注目した危機管理上の事態は、数えればきりがありませんがザッと並べると次のようなものがあげられるかと思います。

ウクライナ戦争は終息の兆しも見えず、10月にはイスラエルでハマスとの戦いが始まってしまいました。

北朝鮮の弾道ミサイル発射回数も前例を見ない数になり、いよいよ軍事偵察衛星の打ち上げまで始めました。

中国の尖閣諸島近辺における活動は激化し、南シナ海ではフィリピンと一触即発の様相を呈しています。

さらに挙げればきりがないのですが、そもそも、当コラムが2年前から折に触れて話題にしてきた現政権の存在そのものが、日本にとっての最大の危機になりつつあります。

しかし、これら政治や安全保障に関するテーマは、元々当コラムの専門外であり、特に政治に関しては、個人的にあまり触れたくないという思いもあり、今回はコロナ禍を総括したいと考えます。

コロナ禍についても、お前は医学は専門外だろうという声が聞こえそうですが、確かにその通りです。

しかし、当コラムでは2020年の春からこの話題を取り上げてきました。医学を専門とせずとも、この事態を観察する方法はありますし、危機管理を専門とするのであれば、事態を自分の視点で観る手法を身につけていなければならないので、この話題に挑戦してきました。

筆者がこの問題に立ち向かうのに使うことのできた手法は、数理社会学の入門的手法しかありませんでしたが、振り返ってみると、結果的に間違っていたことがほとんどありませんでした。

そこで、今年の総括として、コロナ禍を取り上げます。

コロナ禍とは

2019年の末頃から日本でも、中国で怪しげな疫病が流行っているという話が聞かれるようになり、中国人観光客がマスクの買い占めに走っている状況ではありましたが、まだ対岸の火事でした。

次いで米国で感染者が激増し、アフリカなどでも感染者の発生が報告されるようになりましたが、それでも日本にとっては対岸の火事でした。

これは無理もない面もあったかと思います。

日本の防疫態勢は、決して十分ではないにもかかわらず関係者の努力により、これまで海外で流行してきた危険な感染症を水際で防いできました。

MARSやSARSなどの急性呼吸器症候群は日本での蔓延を防ぎとめたので、新型コロナもそれで耐えることができると考えたのでしょう。

それが、2月初頭に横浜に入港した「ゴールデンプリンセス」号でコロナ患者が発生したことを機に、一挙にコロナ禍が現実的な不安となって襲い掛かってきました。

「横浜」と「中国」というキーワードのため、横浜の中華街から人通りがなくなり、キョンシーが2~3匹跳び回っているだけの薄気味悪い街を筆者は目撃しています。

クルーズ船は横浜港といっても大黒埠頭側に接岸していたので、中華街とは無関係だったのですが。

4月初旬、政府は緊急事態宣言を発令しました。

この前後のメディアは、断罪されるべきです。

情報を理解できない情報番組

まず、国民全員がPCR検査を受けることのできる態勢を早急に確立すべきという意味不明の政府批判を煽りました。

ウィルスは寄生と増殖が始まっていなければ怖ろしくはありません。寄生と増殖が始まると、感染力を持ちますので隔離などの措置が必要なのですが、ウィルスのかけらが付着していても何の害もありません。

しかも、PCR検査で分かるのは、検査した瞬間の状態であり、その検査結果で陰性であっても、3日も経てばどうなっているのか分からないのであって、もし本当にPCR検査を徹底することにより対応するとすれば、全国民に3日ごとにPCR検査をしなければならないというバカバカしいことになってしまいます。

それをやるべきとバカ騒ぎしたのがテレビです。

酷いのはメディアが「37.5度の熱が4日続かなければPCR検査を受けることができないというのはとんでもない。」と批判したことです。

彼らは厚労省の通達を読んでいないか、あるいは読んでも理解できないかのどちらかです。

通達には、37.5度の熱が4日も続くようなら、必ず発熱外来や帰国者外来に行ってPCR検査を受けるように、高齢者や基礎疾患のある人はそれに関わらず早めに受けるようにと書いてありました。この通達は日本語で書かれています。

似非専門家たち

しかも、それらのテレビには、その後連日顔を見ることになる「専門家」と称する人たちが何人も出演していました。

この連中も通達本文を読んでいなかったとみえ、コメントは同じでした。

なぜ、同じ人たちが出演するかと言えば、テレビ局から「こういう方向での発言をお願いします。」と言われて、そのような発言をする人たちしかテレビ局は出さないからです。

まともな専門家なら「そんなバカなことを言えるか。」という要求にもしっかり応えた人たちです。

この頃、「今のニューヨークは1週間後の東京なんです。」と沈鬱な表情で述べる「コロナの女王」が現れたり、国会の参考人として呼ばれて、「1週間後の東京は大変なことになる。1か月後は目を覆うような状態になる。」と訴えた東大名誉教授などが現れました。

ニューヨークでは死者を埋葬する墓地が足らなくなって、公園に穴を掘って埋めている映像などが映し出されていた頃でした。

実際には東京はニューヨークのようにはなりませんでしたし、東大名誉教授の発言の1か月後には、PCR陽性反応者数は減少に転じていました。

そもそも、テレビが連日「感染者数」と発表していたのは、「PCR検査陽性者数」であり、感染と陽性は全く別なのに、両者を混同して報道すること自体が誤りでした。

この程度の専門家たちに私たちの社会は翻弄されたのです。

専用病床はガラ空きだった

病床がひっ迫しているとして、医師、看護師が大変な思いをしている病院の映像を繰り返し流して、コロナ専用病棟が大変なことになっていると思わされていましたが、当コラムでは、連日のコロナ専用病棟における人工呼吸器と人工心肺の使用数をチェックしていたので、そんなはずはないと考えておりました。

結局、昨年の11月に会計検査院の報告で、感染者数が最大だった時でも、専用病床は60%しか埋まっていなかったことが分かり、私たちが連日繰り返し見せられていたのは、一部の本当に大変な思いをしている病院の映像が繰り返されていただけだったことが分かりました。

多くのコロナ専用病床を持つ病院では、専従させているはずのスタッフを外し、通常診療のシフトに入れていたため、コロナ患者の救急搬送に対応できずに受け入れを断り、それを受けて一部の受け入れを断らない病院に患者が集中しただけでした。

それでいて、コロナ専用ベッドが空いていた病院は、空床補償などを受け取っていたのです。これらの病院には詐欺罪を適用すべきです。

多くの入院患者を受け入れた病院や街の内科クリニックなどの医療機関では医師・看護師などのスタッフが必死でこの状況に対応していました。


 発熱患者の受診を断るわけにもいかず、スタッフたちは身を危険に晒しながら対応していたのです。


受け入れている病院の看護師さんたちは、子供を保育園が預かってくれないという理不尽な差別も経験しています。

一方で、ガラガラの専用病棟で空床補償を受け取っていた病院も数多いのです。

英語が読めず統計学の基礎もなく、ファクトチェックすらできない

GoToトラベル事業が再開されたとき、ある通信社が、東京大学の研究者チームがGoToトラベル参加者とコロナ感染者数との関係を統計学的に証明したという記事を流し、テレビ各局、新聞各紙が一斉にそれを報じたことがありました。

当時の日本医師会会長も、因果関係があるのは明らかだと述べて、この事業に反対の見解を述べたため、この事業はすぐに中止となりました。

その日本医師会長は、GoToトラベル事業には反対しましたが、医師会が応援する政治家の政治資金パーティは開催しており、それを記者団に訊かれると、「私たちはちゃんとワクチン接種を済ませているし、ホテルもそれなりに準備をしている。」と答えました。

医療関係者に優先的にワクチン接種をさせたのはパーティーを開くためではありませんし、彼が行くホテルだけが対策を取ったのではなく、GoToトラベル事業に参加したあらゆる施設はお金をかけて、必死で準備したのです。それで論文自体を読まずに報道のみで発言する程度の認識しかない医者だったのです。

問題は、この通信社が流した記事が完全な誤報であることです。

東京大学の研究者チームが発表した論文は、エール大学の健康科学に関する査読前の論文がアップされているサイトにあり、筆者は医学論文は専門外ですが、統計学の論文なら読めるだろうと思って読んでみたのですが、統計学的証明はまったくされていませんでした。

研究者たちも自分たちがその証明をしていないことを知っていますので、どこにも統計学的証明と書いていないのです。

要は、通信社の記者が英語が読めず、統計学の初歩的な知識も持ち合わせないための誤報なのですが、メディアは、一切のファクトチェックをせず、コピー&ペーストしたのです。

ちょっと考えれば分かるだろうに

国の対応は、いろいろ批判されていますが、筆者としてはよくやってきたと考えています。

未知のウィルスに対応するとき、メディアが出鱈目で世論があらぬ方向に誘導されている中、さまざまな施策を打って行くのは大変なことです。

最初の緊急事態宣言の時、時の安倍首相は「人との接触を70%、できるならば80%減らして欲しい。」と国民に訴えました。

この記者会見の翌日からテレビが始めたのは、渋谷の交差点や新宿駅の出口の人数を数えて前日と比較することで、人数で「まだ50%しか達成していない。」とか、「ようやく70%」などというアナウンスを流していました。

テレビには報道番組と情報番組があり、情報番組でコロナ禍を扱っていたのは特にレベルの低い連中だったのでしょう。この連中は、接触を70%減らすということと人出を70%減らすということの違いすら理解できないのです。

当コラムでも、このことは取り上げて説明しています。人が二人しかいない社会であれば、50%、つまりどちらか一人が外出を止めれば、接触は100%なくなります。

それでは日本の社会で70%の接触を減らすためには、どうすればいいのかは、分子の衝突理論を用いてシミュレーションをすれば解を得ることができます。

そんなことは専門家に計算してもらえばすぐに分かることなのですが、レベルの低い記者には思いつきもしないのでしょう。

政府も私たちも頑張りましたね

この程度の連中が煽る世論の中で対策を打っていく政府も大変です。

しかし、結果的には政府の対応は大きな間違いではなかったことは、先進国の中で、対人口比で死者数、患者数を最も低く抑えたことからも分かります。

政府の対策が大筋で間違いではなかったことと、国民がその趣旨を理解して協調的に対応した結果です。暴動も起きませんでした。

日本国民はこのことを世界に誇っていいと思います。

しかし、感染そのものは先進国の中でもっともよく抑えたものの、G7の他の国々がコロナ禍以前よりも経済成長させている中で、依然として最下位を低迷している経済政策はまったく評価できません。

これは財務省の「健全財政主義」と称する、受益者が誰なのかまったく不明の、近代経済学の常識から考えると極めて不健全な考え方に従ったためです。

一方で、担当省庁の積み上げなしの安全保障費対GDP1%から2%への増額という出鱈目な政策を打ち出しました。

これが継戦能力を成長させるために使われるのであればともかく、対米コミットメントのための施策なのですから、継戦能力などに使われるはずもなく、自衛隊は張り子のブタになるしかない施策です。

つまり、自衛隊は肥大化はするが戦えない軍隊に生まれ変わることになります。

日本の防衛は、最大の危機を迎えることになります。

教訓:テレビの言うことは信じてはならない

コロナ禍については、これを総括し、以後の教訓としなければなりません。

テレビを信じてはなりません。自分の頭で情報を確かめるという情報リテラシーが求められる世の中になっているのです。

「人を見たら泥棒と思え」という教えがありますが、現在では「テレビのいうことは嘘だと思え」という考え方をしないと道を誤ることになります。