専門コラム「指揮官の決断」
第411回専門コラムを掲載し続けられなかった理由
何が危機なのか
当コラムや弊社が配信しているメールマガジンをお読みの方々は、これらが昨年末頃から定期的な掲載や配信ができていないことにお気づきかと存じます。
理由はいくつかありますが、最大の理由は筆者が業務の同時並行処理能力を失いつつあることです。
付言すれば、業務が対応する限度を超えていることも原因かもしれません。秘密保持義務のため公表できない業務を抱えているうえに、今年から新たな業務を抱え込んで、その負担も半端ではありません。
それらの理由があるにはあるのですが、先週コラムを発簡できなかったのには、特別な理由があります。
実は、この危機管理専門コラムにおいて、取り上げなければならない最大の危機にわが国が見舞われている現状について、どのように扱うべきか解決できなかったのが原因です。
日本に襲い掛かっている最大の危機というのは、現在の政治と経済の状況なのですが、専門外の問題については扱いを慎重にするのが当コラムの基本方針であり、また、筆者が極端な政治嫌いで、政治家について言及することが嫌なのと、経済に関しては面倒な説明をしなければならないので躊躇しています。
しかし、当面の最大の危機を目の前にして、これに言及しないというのも危機管理の専門コラムの態度ではないであろうという思いもあり、そのジレンマに翻弄され、ついに発簡する機会を逃してしましました。
そこで今回は、何が危機なのかという当コラムの立場を明らかにし、その解説については、後日としたいと考えています。
さて、何が危機なのかという問題ですが、それは一言で申し上げると総選挙です。
政治家の勘違い
石破首相が、かつて以下のように述べていたことを筆者は明確に覚えています。
「衆議院の解散権は憲法69条の規定により、内閣不信任案が可決されたときに限られ、それ以外の解散権は認められない。」
この見解はどうなったのでしょうか。
実は、筆者も同じ見解を持っていました。法律は専門外ですので、このことに深入りするつもりはありませんが、政治家たちには重大な勘違いがあるのではないかとかねてから考えています。
それは、「首相の解散権」についての見解です。
歴代幹事長や官房長官の記者会見では、衆議院の解散時期について問われると必ず、「解散は総理の専権事項ですから、私からコメントすることは控えます。」という回答がなされます。
これが甚だしい勘違いです。衆議院の解散は天皇の国事行為です。ただ、天皇の国事行為は、かならず内閣の助言と承認を必要とするというのが憲法3条の規定ですから、事実上は内閣が解散を決定し、天皇に助言し、天皇はこれを拒否することがないので(拒否できるかどうかは法理論的には問題があると大学の時に聴いたことがありますが。)、事実上、内閣総理大臣が決めることができのですが、総理の「専権事項」ではありません。内閣は助言と承認の責任を負っているにすぎず、天皇の国事行為を首相の専権事項とするのは越権行為も甚だしいと言わねばならず、総理の専権事項とすることは、天皇の国事行為を内閣の恣意的運用に使うということになります。
今回の解散は、支持率が極めて低くなった自民党が、総裁の交代により若干支持率が高くなることを期待して、その支持率が落ちる前に総選挙をしてしまおうという党利党略のための解散ですから、天皇の国事行為を党利党略のために使うという、天皇の政治利用そのものであり、許されていいはずはありません。
見棄てられた能登半島
自民党は、能登半島の復興を真剣には考えていないはずです。
もし真剣に考えているなら、震度7に襲われた時点で補正予算を組むはずです。筆者は、震度7の地震で被害が出て、補正予算が組まれなかったという記憶を持っていません。しかし、今回は組んでいませんし、この度の豪雨の災害を目の当たりにしながら補正予算すら組まずに解散してしまいました。
魂胆は見え透いています。補正予算を組むためには予算委員会を開かざるを得ず、全閣僚出席なのでボロが出てくるからです。野党も補正予算の審議などどうでもよく、裏金問題等で追及するでしょうから、仕方ないかもしれませんが、いずれにせよ追及をかわして選挙に臨もうという姿勢はあからさまです。
首相も、防災庁などの設置を真剣に考えるなら、それ以前に能登半島への対応をしてから解散すべきなのに、半月以上の空白を作ることになります。
一方で国際情勢を見てみると、ウクライナの戦争は以前泥沼化しており、中東ではイスラエルとイランの戦争が始まりそうな情勢です。米国はこの二正面に対応する必要があり、この間に台湾有事が生ずると米国の対応能力を超えることになります。
党利党略で解散などしている場合ではないのですが、国家よりも自分たちの議席が重要な連中の目には映っていないのでしょう。
どちらが勝っても悲劇
総選挙の結果、自公連立で過半数割れになると、大変です。政治の混乱が続くことになります。野党は、この選挙の最大の争点は「裏金問題」だと公言しています。「政策」で闘うのではなく、相手のスキャンダルをネタにして闘おうとしています。
彼らには闘う武器たる「政策」がありません。
雇用を守るだとか、経済を成長させるなどの公約は掲げますが、どうやってそれを実現するかという方法論について明確に言及しているのは参政党と令和新撰組だけです。
消費減税を掲げている党は多いのですが、それらの党は消費税が社会保障費の財源であると考えているので、防衛費削減をはじめとする社会保障費以外の予算の見直しで対応しようとしています。消費減税による経済効果を計算できる党は見当たりません。
また、自公で過半数が確保されると、これも一つの危機になります。
国民の審判を経たことになり、内閣がやりたい放題になるからです。
首相は経済に関しては幼児並みの見識しか持っていないのかもしれません。その証拠に、国会の代表質問で、消費税の減税は考えていないのかを問われ、「消費税は社会保障関係予算のための貴重な財源なので、減税は考えていない。」と答えています。
消費税が社会保障の財源だと、本当に考えているとしたら馬鹿野郎ですし、それが財務省の嘘であることを知っての発言であるとしたら、これほど国民を愚弄した発言はありません。
しかし、彼の日ごろの言動から筆者の想像するところ、消費税が財源であると彼は考えているはずです。
自民党の代議士で、財務省の説明がデタラメであることを知っている者はほんのわずかです。なので、プライマリーバランス黒字化目標を掲げることに躊躇しない連中ばかりです。彼らは小さな政府と政府の支出は少ない方がいいと信じているようですが、自分たち議員の定数が多すぎることには問題を感じていないようです。
現政権高官の知的レベル
ある政府高官の朝食勉強会に参加したことがあります。
日銀が政策金利の0.025%への利上げを発表するとメディアが報じた日の朝でした。
彼は、翌年度はプライマリーバランスが黒になる予定であり、ワニの口が少し小さくなるのは望ましい。しかし、日銀の利上げで、歳出の国債利払いが大きくなるので注意が必要であると述べました。
筆者は、この程度のバカが政府の重要な役職を務めているのかと唖然としました。
財務省の来年度の税収予想などは財務省の役人が鉛筆を舐め舐め、いろいろなロジックを用いてでっち上げた数字であることは明らかで、それを希望的観測として信じるのは結構なのですが、政府高官として許されない発言は、ワニの口云々ということです。これは昨年の参議院決算委員会で、財務省がそんなものは存在しませんと否定し、財務省矢野次官の個人的見解であり、財務省の見解ではないと明言しています。そのワニの口の議論を信じているというのは愚の骨頂ですし、もっと許されないのは、日銀の政策金利の利上げで、国債の利払いが増えるから要注意という発言です。
日銀の利上げは、政策金利であり、これは各銀行が日銀に持っている当座預金に対する利率であり、国債の利率ではありません。国債は固定金利です。
この政府高官は、そんなことも知らずに予算を作って国会に提出していたのです。
このような議員は珍しくありません。
代議士はもともと金融や財政の専門家はあまりおらず、それらは代議士になってから財務省から説明を受けているのですが、その嘘に騙されていることに気づかないレベルの低い代議士しかいないのかもしれません。財務省の嘘など、IMFあたりが出している様々な統計を見ていれば簡単に看破できるのですが、それをしないのがこの国の政治家たちです。しないのではなく、グラフの見方を知らないのかもしれません。
政治家がマクロ経済を理解していない証拠
2000年にG7の中で、日本は一人当たりGDPが最高額でした。2023年、日本はG7の中で最低の7位でした。その額は2000年の0.97倍でした。つまり、23年かけてマイナス成長してきたのです。
2023年の6位は英国でしたが、2000年に比べて1,93倍の成長でした。つまり2倍弱の成長をしたのが6位です。マイナス成長は日本だけです。
他の6か国と日本が異なるのは、日本だけが緊縮財政を取ってきたという事実です。
これはIMFが出しているデータを見れば歴然としています。
当初3%だった消費税は、東日本大震災に際して、復興のための財源を確保するためとして5%に引き上げられ、日本経済にとどめを刺しました。その後、2度にわたる税率の引き上げが行われ、そのたびにリーマンショックを上回る打撃を日本経済に与えてきていますが、それを財務省の説明を鵜呑みにしている政府は理解することができないでいます。これもIMFのデータから簡単に読み解くことができます。
消費税が如何に我が国の経済成長を阻害しているかは表を見れば小学生でも分かるのですが、政治家たちはそれすらもしようとしません。
しかも、消費税が社会保障関係予算の財源であると信じている連中ばかりです。彼らは国会議員でありながら、特別会計と一般会計の違いも知らないのです。
この国の経済成長よりも自分の議席が大切なので、マクロ経済の勉強をする政治家がいないのでしょう。
自民党だけではありません。立憲民主党の前身である民主党は政権を取ったときに、「事業仕分け」という政治ショーで小さい政府を作ることに一生懸命でした。この結果、日本の公共事業は徹底的なダメージを受け、以後の緊縮財政に痛めつけ続けられ、新規どころか必要な補修も行われず、橋が崩落したり、ちょっとした雨で下水が吹いたりするようになりました。
能登半島の復興も担当業者を集めることができず、まったく進まない状況です。
民主党の幹部だった連中は、そんなことは全く理解していないようです。
さらに、後を継いだ立憲民主党は、今回の選挙で、物価安定目標0%などと標榜しています。それでどうやって彼らの公約である最低賃金時給1500円を実現できるのか、彼らもマクロ経済をまったく理解していないようです。
また、原発をすべて止めるという公約の政党もありますが、彼らの経済政策に関する公約を見ると、半導体産業などを育てるということです。半導体産業がどれほど電力を食う産業なのかというようなことは彼らは考えていないのです。
この国の政治家たちというのは、せいぜいその程度の連中です。
このコラムで政治を扱いたくないのは、そのレベルの連中を相手にしなければならないからです。
今後の執筆方針
当コラムは危機管理の専門コラムとして、それなりに見識のある方々を想定読者として執筆していますので、知能が低く、品性の下劣な政治家などに言及するのは耳の穢れ以外の何物でもなく、そんな連中の話をするのが躊躇われているのです。
しかし、この連中の中から誰かを選ばなければならないというすさまじい危機に見舞われようとしているとき、危機管理の専門コラムが避けて通ることのできないものと考え、今回の掲載となりました。
今回のコラムで、若干マクロ経済の問題に触れています。専門コラムとしては専門外の経済問題に言及するのは控えていきたいところですが、現在の日本がおかれた状況を考えると触れないわけにはいきません。
経済問題に触れると、「分かりにくい」というご指摘を頂きますので、次回以降(いつになるか分かりませんが。)、なるべく分かりやすくマクロ経済の基礎について触れながらの執筆に努めてまいります。経済学の基礎知識をお持ちの方は、読み飛ばしていただいて結構です。
多くの方々にとってマクロ経済学は縁遠いものかもしれませんが、ちょっとでも齧っておくと、テレビや新聞がいかにでたらめか、政治家がいかに経済を知らないかを見破ることができます、
これまでの危機管理専門コラムとしての記事も継続してアップしてまいりますので、ご期待ください。