専門コラム「指揮官の決断」
第416回税は財源ではない
前回に引き続き、マクロ経済の話をします。
退屈な経済論を続けるのには理由があります。
現在、衆議院の解散による総選挙後の国会が召集されていますが、年が明けると予算を審議する国会が始まります。
現首相はマクロ経済を理解していないので、解散前の所信表明演説に続く代表質問で、消費減税を行うつもりはないのかを問われ、「消費税は、社会福祉予算の重要な財源であるので、その減税は考えていない。」と答えています。つまり、緊縮財政を続けて、この国を滅ぼしかねないので、当危機管理専門コラムとしても関心を持たざるを得ず、この論点をマクロ経済に普段関心をお持ちでない方々にもしっかりとご理解いただける程度の説明はしておきたいという思いがあります。
何度も申し上げますが、筆者はマクロ経済学の専門家ではなく、また、経済学の入門書を書こうと考えているわけでもありません。
ただ、財務省の嘘を見破り、大方の国会議員よりはマクロ経済に関する議論が見えてくる程度の入門的な解説をしてまいります。
税収が国事業の財源ではない理由
多くの人々は、税収が国の財政を支える主要な柱だと考えがちです。政府は税金を徴収し、それを基にさまざまな公共サービスやインフラの提供を行う、と一般には理解されています。しかし、現代の経済構造や通貨制度の視点から見た場合、実際には税収が国事業の主要な財源ではないことが分かります。本稿では、その実態を明らかにします。
現代の通貨制度と財政政策
まず、現代の通貨制度について考える必要があります。多くの国が採用している「不換紙幣制度」では、通貨は金や銀といった貴金属と交換できるものではありません。この制度の下で、通貨は政府や中央銀行によって発行され、その価値は国家の信用に依存しています。例えば、日本円は日本政府と日本銀行によって発行され、その価値は日本経済の安定性と信頼性に基づいています。
政府は通貨を必要に応じて発行することができます。これにより、政府が支出を行うための資金を自ら創出することが可能です。この点で、政府の支出は税収に直接依存していないと言えます。政府がインフラ投資や公共サービスの提供を行う際には、必要な資金を中央銀行からの借入れや国債の発行を通じて調達することができます。
政府支出のメカニズム
政府の支出はどのように行われるのか、政府支出のメカニズムについて詳しく見ていきます。
例えば、新しい道路や橋を建設するためのインフラプロジェクトが計画されているとしましょう。この場合、政府はまずプロジェクトのための資金を調達する必要があります。通常、政府は国債を発行することで市場から資金を調達します。国債は投資家や金融機関によって購入され、政府はその対価として資金を得ます。
得られた資金は、プロジェクトの実施に使われます。建設会社や労働者に支払われる賃金、資材の購入費用などがこれに含まれます。これにより、経済全体に資金が流れ込み、プロジェクトが進行します。この過程で、政府が支出した資金の一部は税収として戻ってくることになります。労働者や企業が得た収入から税金が徴収されるためです。
税収の役割とその意義
では、税収の役割は何でしょうか。税収が財源ではないとすれば、どのような目的で税金が徴収されるのでしょうか。税収には以下のような重要な役割があります。
インフレーションの抑制:政府が通貨を発行しすぎると、経済全体に過剰な供給が生じ、インフレーションが発生する可能性があります。税金を徴収することで、経済全体の通貨供給を調整し、インフレーションを抑制する役割を果たします。消費税に期待されている役割がまさにこれで、財務省の「社会福祉予算の財源」というのは詭弁です。
所得再分配:税収は所得再分配の手段として重要な役割を果たします。高所得者から多くの税を徴収し、その資金を社会保障や福祉に使うことで、所得格差を縮小し、社会の平等性を高めます。
市場の安定化:税収を利用して経済政策を実施し、景気の過熱や冷え込みを防ぐことができます。これにより、経済の安定性が維持され、持続的な成長が可能となります。
歴史的背景と現代の財政運営
税収が政府の主要な財源ではないという考え方は、新しい概念ではありません。歴史的に見ても、多くの国が戦争や大規模な公共事業を実施する際に、税収だけに依存せず、国債の発行や通貨の発行を行ってきました。
例えば、第二次世界大戦中のアメリカは、大規模な戦争支出を国債の発行によって賄いました。これにより、戦争遂行に必要な資金を迅速に調達しつつ、戦後の経済復興を支えることができました。同様に、日本も高度経済成長期において、大規模なインフラ投資を国債発行によって実現し、経済成長を支えました。
現代においても、財政赤字を抱える多くの国が国債の発行を通じて資金を調達し、経済政策を実施しています。これにより、政府は柔軟な財政運営を行い、必要な公共サービスやインフラの提供を続けることができています。
税収が財源ではない理由の具体例
ここでは、税収が財源ではないことを理解するための具体的な例を挙げてみましょう。
例えば、ある国が新しい高速鉄道を建設するプロジェクトを計画しているとします。このプロジェクトには莫大な費用がかかりますが、政府はまず国債を発行して資金を調達します。その後、得られた資金を使って建設を進めます。完成した高速鉄道が運行を開始すると、その利用料や関連する経済活動から税収が発生します。
この過程で、政府が最初に発行した国債の償還は、後に発生する税収や利用料収入によって行われます。つまり、税収は最初からプロジェクトの財源として使われるわけではなく、後から発生する収入の一部として機能するのです。このように、税収が直接的な財源ではないことが理解できます。
結 論
税収は確かに重要な政府の収入源ですが、その主な役割は財源の確保ではなく、経済全体のバランスを取るための手段として位置づけられています。現代の通貨制度と財政政策においては、政府は必要な資金を自ら創出する能力があるため、税収が国事業の財源として不可欠な要素ではありません。この考え方を理解することで、税金と政府支出の関係性についてより深く理解することができます。
もちろん、すべての支出が後で税収となる事業に投入されるということではありません。
国防予算は、防衛産業に利益をもたらし、そこからの法人税収や従業員の所得税収が得られるかもしれませんし、その経済効果は極めて大きなものがありますが、それでもすぐに税収となって戻ってくるということではありませんし、社会保障費に至っては、介護職員の給料などに反映されることはあっても、低賃金で労働する多くの介護職員の税収は、累進課税の所得税ではそれほど大きなものではありません。
しかし、それらの問題があっても、自国通貨建てで国債を発行している国は、償還期に新たな国債を発行して、償還することができます。いわゆるローンの借り換えと同じです。
これが不健全だという議論をする学者もいますが、世界では常識的に行われている償還手段です。
そんなことをしているから、この国の借金は増えるばかりで、一向に減っていかないという議論をする評論家も大勢ですが、国債の発行が借金なのかどうかというのは、ちょっとページ数を使いますので、別に解説したいと思っています。
今回は、税は財源ではないということをご理解いただければ結構です。
マクロ経済は、国家の財政を扱いますので、家計を例にして考えると根本を間違います。
その点だけ、ご注意ください。