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専門コラム「指揮官の決断」

第434回 

試練の時  その2

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承 前

前回の当コラムで、現政権のトップにいる恥知らずな男について言及しました。

執筆しているだけで気持ちが悪くなる思いでした。

その中で、議事録に残る首相答弁として虚偽があると指摘しました..

首相が国会で日本の財務状況は非常に悪く、ギリシャよりも悪いと答弁したことに根拠がないというものです。

当コラムは危機管理の専門コラムであり、経済を専門としているのではないため、何故この説明がデタラメなのかという点について解説をしなかったのですが、海上自衛隊の先輩のお一人から質問を頂きました。

対GDP比で、債務残高が200%を超えてトップなら、財務状況が悪いと言えるのではないか、という論点です。

この先輩がそう考えるのも無理はありません。世の中ではそういう説明がなされているからです。

しかし、これは池上彰氏が巻き散らしている出鱈目です。彼にはマクロ経済の基礎知識がまったくありません。

彼は、かつて自分の勉強法はこうだと言って、テレビで自慢していたことがあります。彼は毎朝新聞を7紙読んでいるのだそうです。

それらのメディアがいかに出鱈目かを当コラムではコロナ禍の間に何度も主張してきました。

特に経済記事は、各社共まともに取材できる記者がいないらしく、ほとんど同じ記事が掲載されます。通信社の配信なら驚きませんが、そうでない記事もまったく同じ文言で掲載されることがあるので不思議に思っていました。

仕事上で付き合いのある財務省の若手があるとき教えてくれたのですが、財務省の記者クラブで配布するペーパーのとおりに各社が書くからそうなるんだそうです。

皆さんは日本経済新聞は経済の専門紙なので、ここの経済記事は信頼できるとお考えかもしれませんが、少しでもマクロ経済を齧った者なら分かるのですが、日経のマクロ経済に関する記事は、ここ数年は信頼がおけません。多分、編集にマクロ経済を理会する者がいないのでしょう。企業のビジネスマンたちが読んで参考にしているのは、ミクロの方であり、マクロは企業経営に直接関連しませんので、どうしてもミクロの専門家が揃うことになるのだろうと思っています。

要するに池上氏のように新聞を読んで勉強だと勘違いしている輩はマクロ経済に関しては成長しないのです。

基礎になる理論を持っていないので、自分の頭で考えることが出来ません。

それどころか、彼は銀行がどういうオペレーションを通常しているのかも理解できていません。

ある彼の番組で、お笑いタレントなどを集めて彼が解説するものがあり、銀行がどうやって利益を出していると思いますか?という質問を彼がしました。

コメンテータのタレントたちは、送金などの際に支払う手数料などで利益を得ているのではなどという回答が多かったようです。池上氏は、「実はそうではなくて、銀行は皆さんが預けた預金を運用して、融資を必要とする会社に貸し出して、その利息で利益を得ているんですね。だから、低金利時代が続くと銀行も大変なんです。」という解説をしました。彼は、銀行が預金者から預かった現金を融資に回していると思っているようです。つまり、銀行のオペレーションを全く知らないし、銀行には信用創造機能があることをまったく理解していません。

世の中の多くの人々は、彼の国債は将来世代の借金になるという出鱈目を信じ込んでおり、その債務残高が世界一なので、大変なことになっているという嘘を信じ込んでいます。

当コラムは経済や財政学を専門としてはいませんが、池上氏の嘘を暴くくらいは専門的な知識は必要ありませんので、ここで簡単に説明しておきます。

一国の財政状況を見るとき、その国の事情を勘案する必要があります。

ギリシャはユーロ圏の国であり、独自通貨を持っていません。つまり、お札を自分の国で刷ることが出来ないのです。

一方の日本は、独自通貨を持っていますので、日本銀行でお札を刷ることが出来ます。

お札に「日本銀行券」と印刷されているのはそのためです。

また、日本政府が売り出す国債も円建てで買ってもらえます。日本の国債の信用が高いからです。もっとも、発行した国債の一部しか外国人には渡らず、大部分は最終的には日銀が引き受けています。直接引き受けることは法律の規制があってできないのですが、市中銀行を通じて、結果的にほとんどが日銀に買い取られています。

そういう個別具体的な事情を勘案しないと、一律に債務残高の対GDP比だけ比べても意味はありません。

たとえば、皆さんは、1億円のマンションを買うために、5千万円の借金をしている人と、パチンコで負けがこんで、サラ金から50万円借りている人を比べて、どちらが財政状況が悪化していると考えるのでしょうか。池上氏の論理だと、一方は5千万円も借金しているのに、他方はたった50万円の借金でしかないという評価になってしまいます。

池上氏を始め、財務省やメディアが振りかざす論理というのはそういうものです。

財務省は、それが真実ではないことを知っています。真実ではないことを知っていて、真実を隠して真実でない説明をすることを、「ウソをつく。」と言います。

つまり、財務省の説明は嘘なのです。

一方の池上氏はどうかというと、彼は嘘をついているのではないと思っています。

彼は財務省の説明を疑っていません。だからそのとおりの解説をします。

彼の名誉のために申し上げておくと、彼は嘘つきではなく、単なる〇✕(差別用なので、伏字です。)に過ぎません。

この国の首相をはじめとするほとんどの国会議員も同様でしょう。

国の財政状況を比較する際に用いる指標

ただ、池上氏や首相が〇✕だというだけでは、海上自衛隊の先輩にお答えしたことになりませんので、もう少し詳しく説明します。

あくまでもマクロ経済の専門領域ではなく、マクロ経済の一般常識に沿っての説明です。

先に述べたように、経済環境が異なると単純な比較ではその信頼度を比べることができません。

そこで、一般にある国の財務状況を評価するときに用いられる指標があります。

CDSという指標です。Credit Default Swapの略です。

これは、各国の国債を投資家が買ったときに、その国が財政破綻を起こして国債が紙切れになると困るので、そのための保険があるのですが、その保険の利率を表す指標です。

自動車保険を考えて頂けると分かりますが、危険なドライバーが入っていると保険料は高くなります。

つまり、この保険の利率が高い国ほど危ういということです。この指標でみると、G7で最も危ういとされているのがイタリアで、日本はドイツに次いで二番目の信頼を勝ち取っています。ギリシャはイタリアより少し悪いかもしれません。

つまり、世界は日本をG7で二番目に財務状況が安定している国と見做しているということです。

首相はその程度のことも知らないのです。

通常、株主総会で、社長が「うちの財務状況はとても悪いんです。」などと言おうものなら、株価は暴落してしまいます。

ところが首相のこの発言の翌日、CDSの順位は全く動きませんでした。要するに世界は、日本の首相の発言など何も評価していないということです。

このクズを生み出したのは誰だ?

この〇✕なだけでなく、恥知らずなクズがこの国のトップにいるという事態は、選挙でその政党を政権の座に着け続けた私たちの責任なので、しばらくはあきらめなければなりません。

前回の選挙で、その政党に票を入れなかったので、自分の責任ではないとお考えの方がいるとしたら、民主主義というものを理解していないと言わざるを得ません。中学に戻って勉強し直してください。

世の中には民主主義が最高の価値であると公言している論者もいますが、筆者はそうは考えてはいません。

私見によれば、他の制度よりもいいのかな、という程度です。所詮愚衆政治なので、我慢しなければならないところも多々ある欠陥だらけの政治システムに過ぎません。

絶対に守らなければならない至高の価値でもなんでもないと考えています。

現政権を生んだのですからね。